第41話 終わりの予感

 会議は11時に終了した。

「それじゃ早速水着を選んでこないと。お兄も一緒に行く?」

「遠慮する」

 ここは断固として拒否する。

 遙香1人ならまだしもその友達と一緒に水着買い出しなんてごめんだ。

 疲れるし恥ずかしいしいい事は何も無い。


「それじゃお兄、急ぐからまたね」

 遙香は同学年の女子達とばたばた外へ出て行く。

 おそらく11時55分のバスで出るつもりなのだろう。

 他の皆さんもそんな感じだ。

 何せここ、魔法研究会もこの学校の例に漏れず女子ばかり。

 男子は俺を含めて6人しかいない。


 それにしてもわざわざ水着を新調する必要があるのだろうか。

 どうせ新調しても見るのはいつもの面子だけ。

 男子6名女子19名に引率者1名、合計26名だ。

 正直あまり意味が無いような気がしないでもない。

 そりゃ遙香の水着が楽しみじゃない訳ではない。

 でも別に遙香は遙香で元々可愛い。

 その辺水着うんぬんの問題じゃないと思うのだ。


 まあそれはそれ、これはこれ。

 俺は厚生棟1階で弁当でも買って寮に帰るか。

 そう思った時だった。


「孝昭は残ってちょっとこっち手伝って」

 知佳すざきにそんな事を言われる。


「何かあるのか?」

「合宿実行委員、男子も1人は必要でしょ」

 そう言われてもな。

「男子がわざわざ必要な作業なんてないだろ。部屋割もどうせ男子全員で1室だろうしさ」

「つべこべ言わない」


「孝昭、ほなよろしく」

 強引に実行委員とやらに引っ張り込まれる俺を片目に男子筆頭、5年の滋先輩がささっと逃げる。

 何か毎回こうだような、そう感じてふと気づく。

 これは俺ではなく向こうの世界の俺の思考だ、きっと。

 こっちの俺は毎回という程こういった場があった筈はないから。

 どうやら向こうの世界とこっちの世界、俺自身についても大分混ざっている模様。


 実行委員と称して残っているのは知佳すざきと俺の他、研究会長の咲良やながわ先輩、茜先輩、そしてしおつ

 何というか予想通りの面子だ。

 この面子にならもう言ってもいいだろう。


「だいたいこの合宿企んだの、知佳すざきだろ。夏休み最初の週は空けとけって言っていた奴」

「ばれたか。まあそうだけれどね」

「何を企んでいる」

「悪いことじゃないよ。それに合宿の話したら皆ノリノリで協力してくれたしね」

「あ、でも私、孝昭の関係の話聞いてない」

「いいのいいの彩は」

 うーむ。


「さて、とりあえず午前中に調理当番と部屋割り、あと日程詳細を決めましょう。会議室36を開設したから各自開いて下さい」

 俺達はタブレットを取り出し、咲良先輩が解説した会議室に接続する。


「孝昭君はとりあえず学年順男女順に部屋割りのたたき台。知佳さんはバスの座席、彩さんは食事当番関係、茜さんは日程。私は学校への提出書類を作るから」

 アンケート結果や研究階名簿、バスの座席等がUPされた画面で作業開始する。


 ◇◇◇


「それにしても茜先輩、何を企んでいるんですか」

 夕方、緑先輩の研究室。

 本日も会食兼情報交換でここに来ている。


「企んでなんていないさ。ただ研究会の可愛い後輩のお願いを聞いて、各種手配をしただけだ」

「私も少し此処を離れる予定」


 緑先輩、何処へ行くのだろう。


「緑先輩、実家へ帰るんですか?」

「さてな」

 あ、この反応、茜先輩も知っているようだ。 

 でもプライベートに関わる事かもしれないし、この辺で聞くのをやめておこう。


「ところで孝昭、この前の魔人の襲撃の件、ニュースに出たの読んだか?」

「ええ」

 あの襲撃の件についてはネットでいくつかのニュースが出ているのを読んだ。


「自衛隊が対魔獣、対魔人装備を作っているなんて元の世界では考えられないニュースですよね」


「あれは西暦2020年代の現代兵器の理論を応用したものだ。迎撃を防ぐ乱数軌道攻撃、同じく分裂飽和攻撃、貫通力を高める自己鍛造弾、打ちっぱなし攻撃を可能にする様々な誘導方法。魔人を倒したのはそういった、魔人のいない世界から持ち込んだハイテク攻撃装置だ。厳密にはそれに更に魔法効果を加えたものだがな。

 これらの兵器は魔人だけでなく魔王にもおそらく通用するだろう。そう判断されたようだ」


 確かに先輩の言ったような事も書かれていた。

 でもそれがどうかしたんだろうか。

 そう思いかけて、そして気づく。


「世界がこうなった目的は達成された。そういう訳ですか」

「ああ。魔王に対抗するための技術開発は成功した。一方で21世紀の自衛隊も魔法戦闘なんて方法論を手に入れたからな。日本だけでなく他の各国でもおそらく、同様の成果がもたらされている頃だろう」


 そうなると結論は……

「また世界は離れていき、元の状態に戻る。そういう事ですか」


「時期はわからない」

 これは緑先輩だ。

 いつそうなるかはわからないという事か。

 でもそうなるという事は肯定している訳だよな。

 この台詞は。


「ここで過ごした記憶も消えるんですか」

「記憶は残ると思う。記録は消えるだろうけれど。今は予想でしか言えないけれどな。確かな事はいつかこの世界はまた元に戻る、それだけだ」

 

 やはり全ては元に戻ってしまう訳か。

 遙香がいなかった、元の世界に。 

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