第33話 戦闘開始
第2組が守るのは第二次防衛線。
具体的には道路を挟んで校舎と反対側の川から道路へ入って来る敵が対象だ。
配置位置は3階にある教室や研究室、寮等の窓際。
窓から見て受け持ち区画に敵が入ってこないかを見て、入ってくるようなら窓から敵めがけて魔法を放つという任務だ、
今回の敵は学校から見て正面に見える標高1181mの三角点と標高1223mの三角点の間の谷から侵攻してくると予想されている。
この場合、自衛隊駐屯地と研究棟、本館が正面になる。
このうち自衛隊駐屯地は自衛隊の方で守備に当たるそうだ。
また研究棟の正面側の川岸は崖になっている。
だから第2組担当区では本館配置が一番危険で、次が研究棟、そして厚生棟、男子寮、女子2寮、女子3寮という順になる。
俺と塩津さんは同じ3班で受け持ちは厚生棟3階、いわゆるラウンジだ。
ここから攻撃をして、敵が撃ってきたら壁際に隠れるという作戦だ。
なおラウンジには他に同じ班の6年生が2人、5年生が1人。
この学校の男女人数比もあってか俺以外は全員女子だ。
「まさか学校入って実戦やるとは思いませんでしたわ」
この班の班長となっている6年生の川和先輩がそんな事を言う。
「でもここまで魔獣が来るとなると大変だよね、色々と」
「今までとは違って山から下りてくる形ですから自衛隊が攻撃するのも大変だと思います。ですからある程度はここで討つ事も覚悟した方がいいかもしれません」
「それにしてもまさか軍用の魔法杖まで配布されるとは思わなかったかな」
川和先輩と同じく6年の柏先輩が言うとおり、今回実戦の可能性がある部隊には魔法杖が配備されている。
魔獣から取れる魔石を材料に使った銀の合金、いわゆるミスリル銀を使用したかなり強力な魔法杖だ。
水瓶座世界の自衛隊で小銃の代わりに歩兵装備として持ち歩く物である。
日本では武器として規制されるだけあって出力・収束率ともに一般用の魔法杖の比ではない。
「この杖、この件が終わったら持ち帰りたいよな。これがあれば魔法も数段上手くなった気分になるしさ」
これは5年生の平塚先輩。
「確かにいい品だけれど少し重いです、私には」
確かに塩津さんの言うとおり、銀合金だけあってしっかり重い。
長さと太さはアルトリコーダー程度。
だがずっと持っていると腕が下がりそうな重さ。
具体的には大型のペットボトルよりは重いだろうという程度だ。
「一斉放送です。魔獣の群れ、自衛隊部隊と交戦開始」
ドドドドドドドドドド……
ドーン、ドーン……
そんな音が窓を震わせはじめる。
俺達が聞いた作戦はこんな感じだ。
① 魔獣を発見したら、尾根から谷へと攻撃でで追い込む。
② 谷に追い込んだところで攻撃を集中させ始末する。
③ 谷間から逃れた魔獣を第1次防衛線で攻撃する
④ ③で漏れた魔獣は第2次防衛線以降で……
一方でこれと平行して行っている魔人相手の作戦もあるようだ。
その辺は秘密らしいのでわからないけれども。
「攻撃は魔法メインじゃ無くて重火器メインのようだね」
確かに柏さんの言う通り、聞こえる音は連射タイプの銃砲とか迫撃砲の炸裂音が主のようだ。
「魔法攻撃はあまり音が聞こえないからではないでしょうか」
川和先輩が言う事も一理あるな。
「一斉放送です。魔獣の総数は300程度。現在A2、A4地点に追い込み中」
作戦は予定通り進行しているようだ。
そう思った時だった。
「警告! 窓際から待避!」
今までと別な声が放送で流れる。
これは緑先輩の声!?
「えっ?」
塩津さんの戸惑いの声も。
俺は言われた通り窓際からダッシュで逃げる。
まずい。
魔力の塊の気配がこっちへ飛んできている。
俺はともかく塩津さんが廊下の壁まで間に合わない。
周りを見ると太い柱があった。
塩津さんの手を引っ張り柱の向こう側へ。
塩津さんのを柱に押しつける形で俺自身も目と耳を塞ぐ。
ボォオオオオーン!
ズガシャドガラガラガラ……
爆風の圧力。
でも柱は動かない。
大丈夫、大丈夫だ。
そう思いながら
「大丈夫ですか!232からお願いします」
川和先輩の声。
「232大丈夫! 怪我なし!」
柏先輩だ。
「233怪我なし!」
平塚先輩も大丈夫か。
俺は……ぱっと見た限り大丈夫だな。
「234怪我ありません」
「235大丈夫です。怪我ありません」
「緊急連絡。校舎内配置各班は窓際から待避し、廊下側の壁や柱に隠れて下さい。大型魔獣による砲撃です。校舎内配置各班は窓際から待避し、廊下側の壁や柱に隠れて下さい。大型魔獣による砲撃です。まだ来る可能性があります」
放送でそんな注意が流れる。
「231から200へ連絡、3班死傷者なし、ラウンジは川側窓及び壁が大破」
川和先輩が2組本部へ報告をしている。
「とりあず避難するか」
平塚先輩がそう言って先廊下側へと逃げる。
彼女も廊下側までは間に合わなかったが、位置的にちょうどいい柱も無い。
だから机を倒してその影に伏せていたようだ。
でも動きからして怪我は無さそうな模様。
「こっちも行こう」
窓は壊れているので壁になっている処へ全員集合。
「いや酷い事になっているなこの部屋。ボロボロだぜぃ」
平塚先輩はそう言って肩をすくめてみせる。
「全員無事で良かったですわ」
川和先輩はそう言って頷く。
「でも危なかったです。あの放送の後、本気で逃げてやっとでしたから」
「私は間に合わなかったしな。机を盾にして風魔法で自分をくるんで何とか耐えたけれどさ」
平塚先輩のその辺の応用は流石だなと思う。
俺はそこまで思いつかなかった。
確かに風魔法を防護に使うという方法もあったんだな。
「こっちは幸い大きな柱があってセーフって感じですね」
「川崎は1人だったら余裕で廊下まで間に合ったんじゃないか?」
平塚先輩はそんな事を言うが、そんな事はない。
「中途半端な姿勢であの攻撃を受けるより、柱の影に待避して正解だったと思います。それだけです」
あとは近くにいた被害連絡担当の4組の2人も大丈夫なようだ。
遙香は無事かな。
ちょっと聞いてみようかなと思ってやめる。
今はそんな時ではないだろう。
それにこの様子ならきっと此処が一番被害が大きい。
だからきっと遙香は無事だ。
そう俺は思うことにする。
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