第32話 防衛訓練のお知らせ

 月曜朝の教室。

「面倒な事になったよな」

「だよね。防衛訓練だなんて何をするんだろ」

 有明のぼやきに須崎さんが同意する。


 昨日18時付けで学内連絡としてネットで回ってきたのだ。

『今週月曜日より当分の間、6時限目の授業終了後、7時限目の時間を使用して魔法による学校防衛訓練を行います。この訓練は黒の作業服で行いますので7時限目開始までに着替えて指定場所に集合して下さい。また訓練時の編成は学年別ではなく、使用可能な魔法や魔力によって選別した特別編成となります。あらかじめ別添のpdfを読んで自分の班と集合場所を確認しておいて下さい』


 おそらく綠先輩のレポートが回り回ってこういう事になったのだろう。

 先輩自身も放課後1時間は訓練とか言っていたしな。

 ちなみに俺は知り合いだと塩津さんと同じ2組。

 茜先輩は1組で綠先輩は別途。

 遙香は4組で、有明とか北村、須崎さんは3組となっている。


「昨日からヘリも煩いし、何かありそうだよな」

 確かに昨日からヘリが行ったり来たりしている。

 自衛隊の車も何台も林道を通っていった。

 おそらくは綠先輩の予知した襲撃への対処だと思う。

 でもまだその事は皆には言えない。


「あと、この辺では私と孝昭だけが2組だよね。2組はこれで見ると上級生ばかりだし多いし不安だなあ」

 確かにそうだな。

 俺と塩津さんのいる2組はほとんどが上級生だ。


「あれ塩津さん、いつのまに川崎を名前呼び? 何かあったのかな」

 須崎さんに指摘される。


「え、あ、研究会では名前呼びが多いから。それだけ」

「本当かなあ、今の反応怪しいよね」

 おい待て須崎さん。

 多分塩津さんの言う通りだと思うぞ。


「あれ、川崎はシスコンだと聞いたけれどな。遙香ちゃん可愛いし」

 こら有明。

 でもこの場面に限ってはセーフだ。


「シスコンという訳でも無いけれどな」

「なら義兄おにいさん、妹さんを俺に下さい」

「だが断る」

「シスコンじゃないならいいじゃないか!」

 この辺はいつものお遊びだ。

 大した意味のある会話じゃ無い。

 なお大体の連中は遙香を俺の妹だと誤解している。

 遙香も俺もその誤解を解かないからなのだろうけれど。


「でも防衛訓練って何をするんだろ」

 確かにそれが不安だ。

「おそらく次の研究協力の時間で教えてくれるだろう」

 確かに北村の言う通りだろう。

 そう思った処でチャイムが鳴る。

 ほぼ同時に教室前の扉が開いて女史教官が入ってくる。

「起立!」

 研究協力の時間の始まりだ。


 ◇◇◇


「本日はまずお知らせがあります」

 そんな感じで教官の説明は始まる。

 内容は北村の予想通り、あのお知らせに関する事だった。

 ただ俺の予想よりも話は大分踏み込んだ内容になっている。

 たとえば魔王や襲撃に関してだ。


「噂にはなっていましたが、情報の結果、某国に出現した魔王がこの国及び世界各国にも攻撃の手を伸ばしている事が判明しました。噂のあった米国の大統領選挙への介入、国際機関中枢への威力行使、新型ウィルス感染症の世界的拡大への関与がほぼ確認されただけでなく、隣の大学研究室及び本学園及びにも配下の魔人を派遣して来ることが予知されています。なお予知では今度の7月26日日曜日、およそ300頭ものC級魔物、及び何頭かのB級以上の魔物で襲撃が行われるとされています」


 魔王の存在や活動についてかなり踏み込んで説明している。

 襲撃の規模も綠先輩のあの時のレポートより若干大きい。

 別の予知魔法持ちからの報告があったのだろうか。


「これら襲撃に対しての攻撃は第一時的には自衛隊が行います。既に昨日からその準備に入っているそうです。ですが数が多い以上、討ち漏らした魔獣が学校へ近づくことも考えられます。その際に被害無く魔獣を倒す為の訓練です。なお御門教官はこの襲撃への対策会議の為、自衛隊に出張しています。

 なおこの襲撃の件については学園外部への連絡は、襲撃終了後まで控えてください。これは安全を守るためです」


 なかなか衝撃的なお知らせだよなと俺は思う。

 少なくとも向こうの世界ではありえない話だ。

 この件が終わった後、前の同級生、たとえば小川や内海あたりにはニュースとして伝わるのだろうか。

 俺がメールを書いても伝わらない位に世界が違ってしまっているのか。

 

 ◇◇◇


 訓練そのものは初日だった事もあるのか簡単だった。

 組の中での班編制の確認と、防衛場所の名称と作戦の説明。

 無線や魔法伝達時に使用する地点番号や命令の意味。

 そんな事の説明で今日は終わってしまった。

 残り活動時間は1時間しかないけれど、魔法研究会の活動場所である第2魔法実験室へ向かう。

 今日は活動時間が少ないから面子もいないかな。

 そう思ったのだが十数人が既に部屋に来ていた。

 遙香も茜先輩も来ている。


「お兄お疲れ。どうだった、訓練は」

「今日は説明ばかりだったよ。初日だからかな」

「こっちもだよ。4組は校内各所に配置して被害連絡をするんだって」

 なら直接的な攻撃とかは無いから安心していいかなと思う。

 ちなみに2組は場合によっては魔獣攻撃もありだったりする。

 配置場所も校外だしその辺はちょい不安だ。


「2組という事は第二次防衛ラインだよな。大丈夫か」

 もっと危なそうな処へ行かされそうな先輩が声をかけてきた。

「あまり気分は大丈夫じゃないです。でも1組はもっと危険ですよね、きっと」

「らしいな。任務はちょいと言えないけれどな。少しは心配してくれると嬉しいが」

「茜先輩はむしろやり過ぎて学校を破壊しないか心配です!」

「言うな、遙香」

「でも事実だよね」

 

 確かに茜先輩は魔力と攻撃力どちらもとんでもないからな。

 心配するべきは付近の味方という気がしないでもない。

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