第34話 戦闘継続

「大型魔獣がいなくなるまで何も出来ないな、これじゃ」

「そうですわね。でも待機も命令ですわ」

 確かにそうだ。

 でもこのまま待つのも何というか……

 かといって命令無視で攻撃をしかける訳にもいかない。

 味方がどこにいるのかわからないのだ。

 ここからの遠距離攻撃では巻き込んでしまう虞がある。


「一斉放送です。現在、自衛隊によって魔獣掃討中、A2、A4地点の魔獣は既に7割以上を処理。なお先程の大型魔獣の攻撃では人的被害なし。厚生棟3階と本部棟3階が大破、他数カ所窓ガラス破壊程度の被害」

 人的被害なし。つまり遙香は無事なようだ。

 少し安心する。

 だが魔獣掃討中で7割以上が処理済みでも、大型魔獣の情報は入っていない。

 つまりまだ攻撃される虞があるという事だ。

 だからこの場所からはまだ動けない。

 そう思った時だ。


「命令が入りましたわ。厚生棟ここの2階へ移動します。大型が撃破された時点で壁を盾代わりにして攻撃態勢へと移行する予定だそうです」

「了解っと。それで厚生棟2階だと何部屋かあるよね。何処へ行けばいいのかな」

「食堂で向こうの243、244と交代だそうです。243と244はカフェへの増強に回るそうなので」

「了解」


 基本的にここの建物は廊下と階段は山側にあるように出来ている。

 こういう状況が最初から想定されていたせいかはわからない。

 でも幾分かは安心して移動は出来る。


 そんな訳で2階食堂まで移動。

 こっちは窓ガラスにひびこそ入っているが、壁は大丈夫。

 直撃しない限り壁までは壊れないようだ。


 ドーン、ドーン……

 相変わらず外では轟音が響いている。

 戦況はどうだろうか。

 そう思った時だ。

「一斉放送です。大型魔獣、最後の1匹を撃破しました。これより第2次体勢へ移行します。2組は攻撃準備して下さい」


「それでは窓際へ」

 俺達はそれぞれ窓際壁側にひっつく形で取り付く。

 窓の外を見ると山側からかなり煙が上がっているのが見えた。

 まだ魔獣は川までは来ていない。


「第1次防衛線での戦闘終了。死者なし、重軽傷含め20名程度、第2次防衛線到達予想の魔獣は中型30匹程度」

「2組へ攻撃命令でました。発見次第攻撃願います」

 川和さんの声。


 まだ俺の視界には魔獣は入らない。

 魔力の強いものについて何となく気配で感じるだけだ。

 だが徐々に山中を下へ降りているのがわかる。


 30匹と聞いたが俺がわかるのは10匹程度。

 そのうち一番近い反応に焦点をあわせる。

 川部分なら延焼をあまり気にしなくていい。

 だから焦点をあわせておいて、魔法を準備して杖を構えて……


 見えた瞬間に得意魔法をぶっ放す。

高電圧球ライトニングボルト

 俺の得意で最も射撃速度が早い魔法だ。 

 俺の魔法を含め数発が奴に命中。

 軽自動車程度の塊が血をまき散らして倒れる。


 次は4番目に出てきたやや小柄の魔獣。

 更に次は出てきたばかりの魔獣。

 とにかく魔法を連射しまくる。

 これくらいの大きさの魔獣相手なら極とか獄レベルの威力は必要ない。

 とにかく見つけて連射だ。

 この辺で最後かな。

 とどめの高電圧球ライトニングボルトを放ったところだった。


 ドワァァン! グォン! グォオオオオオーン!

 山の方から強烈な爆発音がした。

 単発では無くかなりの数が集中して爆発したような感じだ。

 爆発の炎とともに大量の煙があがっていく。


「第2防衛線で魔獣は全頭撃破されました。2組以下、戦闘終了です。4組部隊は被害連絡を、他各班は被害連絡をお願いします。ただし別命あるまで今の場所で攻撃等に留意しつつ待機をお願いします」

 2組以下は戦闘終了か。


「よし、終わったぜぃ」

「まだ待機ですけれどね」

 そんな声を聞きつつ俺は思う。

 1組の茜先輩は大丈夫だろうかと。

 魔法では校内でも有数の腕だけに心配する必要は無いかもしれない。

 でもそれだけにより危険な任務を行っている可能性がある。

 そう思った時だ。


「警告! 窓際から待避!」

 再び緑先輩の声で放送が流れる。

 とっさの事で一瞬動きが遅れた。

 俺だけではなく全員だ。

 しかも食堂、テーブルと椅子が多すぎる。

 逃げにくい。


 壁に触れている人がいないのを咄嗟に確認。

極寒地獄コキュートス!」

 俺の最大魔法を繰り出す。

 狙うのは喫茶室の窓側全域。

 思い切り凍らせて壁として強化する。


 すぐに俺の意図を誰か察してくれたようだ。

 同じ氷の魔法で氷壁は強化される。

 その次の瞬間だ。

 窓の外が思い切り光った。


 ズドーン!

 光に少し遅れて強烈な爆発音。

 更に遅れて爆発の衝撃が襲ってくる。

 窓を、壁を、衝撃が揺らす。

 俺は全力で魔法を使って壁を氷で支える。

 窓ガラスも何とか持ちこたえている。

 氷のおかげか最初の魔獣襲撃後に強化ガラスに変更されたおかげか。


 振動が消えて少しの間だけ静寂が訪れる。

 何処かでガラスが崩れて割れる音。


「各組各班、再び被害確認連絡をお願いします」

 放送の後、一気にまわりがどよめく。


「とりあえずうちは被害無しですわね」

「ああ。この魔法は川崎君だな。助かった。ありがとう」

「いえ、誰か補強をしてくれましたし」

 報告中の川和さんが片手をあげる。

 補強してくれたのは川和さんだったらしい。


「この魔法、確かに防衛用にはいいな。上で使ったら被害無かったかも」

「いえ、これは上で平塚先輩が魔法で防御したのを見て思いついたので。それに直撃だと流石に耐えられないと思います」

「何にせよ無事でよかった」

「でも今の爆発、何だったんだろ」

 確かにそうだな。

 光と音と風の速度差からして、おそらく爆発した場所はそれなりに離れた場所だ。

 感じとしては山のかなり上の方。


「山の方、それも1181の山頂方向のような感じだったな。あそこで魔力が膨れた感じがした」

 柏先輩の言う通りだな。

 俺にも膨れ上がった魔力が消失していく様子がわかる。


 遙香は大丈夫だろうか。

 そしてまだ作戦中の茜先輩は。

 自衛隊はいまので被害が出ていないだろうか。

 校舎は窓がかなりやられたようだけれども。

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