第5章 見ている筈の世界

第23話 調査は不調

「悪いな、今日は11時55分のバスで出かけるから」

「もう、お兄が外へ行くって前もって言ってくれたら一緒に行ったのに」

「ならまた今度、テスト明けにでも時間を作るからさ」

 そう言ってディパックを右肩にひっかけ階段へと急ぐ。

 時計の表示は11時45分。

 間に合うとは思うが念のためだ。


 本館前で待っていたスクールバスには何とか空席が残っていた。

 元々休日でも朝8時の便、同じく8時30分の便、10時20分の便は混むが以降はそれほど混まない。

 ただこの時間はバス1台だから混むと悲惨な事になるのだ。

 最悪乗り切れないという事にもなりかねない。

 

 バスは幅ぎりぎりの道を右へ左へと走る。

 座っていないと揺れまくって酷い目にあうのだ。

 まともな道に出るまでこれが延々10分近く続くから。

 この辺は多分以前と変わらない筈だと思う。

 

 そんなこんなでバス20分、僅か数分で接続する電車に乗る。

 電車も東急のお下がりで、21世紀日本と変わりなかった。

 でも向こうの世界も電車やバス、飛行機といった交通機関は同様に存在しているから変わっていないとは判定できない。

 ただ向こうでは電車が架線で電気を受け取るタイプだっただろうか。

 そこまで細かい部分は正直おぼえていない。

 その辺で向こうの世界の記憶が一部変わってしまっている可能性もある。


 予め下調べをしておいたネットカフェと漫画喫茶が融合したような店まで歩いて5分ちょっと。

 これも元々21世紀日本にあったチェーン店だ。

 実はこういう店に来たのは初めてだが、ネットだけでなくカラオケとかダーツ、ビリヤードなんかも出来る模様。


 これなら遙香を連れてきてもよかったかもしれないなと思う。

 調べ物をしている時は漫画を読んでいて貰えばいいし、調べ物が終わったら2人でカラオケやゲームをして遊べるし。

 でも向こうの世界の遙香をここに連れてきても大丈夫だろうか。

 連れてきたらここの世界が変わるのだろうか。

 それとも向こうの世界のこの場所に着くのだろうか。

 

 とりあえず俺はネットが使用可能なリクライニングシートの席へ座る。

 さて、調べてみるか。

 まずはわかりやすいところで自衛隊の駐屯状況だ。

 学校の奥にあるのは陸上自衛隊秩父分屯地で、確か防衛施設庁の魔法装備研究所支所もあった筈だ。

 地図にも自衛隊のマークがあり、陸上自衛隊秩父分屯地と記載があった筈。


 だがここのネットでは『陸上自衛隊秩父分屯地』で検索しても何も出てこない。

 防衛施設庁の魔法装備研究所なんて施設も出てこない。

 どうやら此処のネットは学校で検索したのと違う結果が出るようだ。


 東京大学附属中等学校で検索すると、うちの学校と中野にある昔からの附属の2校が出てくる。

 つまり21世紀の日本ではあるけれど一部の人に他の世界の記憶があり、また魔法も使えるという状態。

 要は俺が此処へ来る直前の地元の状態と同じだ。

 少なくとも秩父市のネットカフェで検索した限りは。

 更に言うと魔獣騒ぎの情報も入っていない。

 学校では一応新聞社等のWebニュースには載ったと出ていたのだけれど。


 理解した。

 それほど遠くない秩父市街地と学校付近でも既に世界が違っている。

 違っている事を俺が認識出来る。


 さて、次はこちらの世界、つまり俺が元々いた世界であの学校はどう出来たかについて調べてみよう。

 以前調べた時は秘密事項が多くてほとんど情報が出てこなかった。

 でも今は新しい情報が入っているかもしれない。


 まずは俺達の学校のWebページへ。

 ちなみに学校で見るものとここで見るものはやはり内容が異なる。

 向こうは創立後50年以上経っているとあったがこっちでは出来たのが今年6月。

 つまり俺の記憶と同じだ。


 だが出来るまでの経緯が俺の記憶と違っている。

 俺の記憶では魔法を使える人が出始めたのは今年の3月。

 でもこの記事では昨年となっている。

 

 このWebページが間違っていないか、ニュース記事の検索で裏付けを取る。

 魔法で検索した結果、該当する内容で一番早い記事が昨年の3月。

 つまり1年早まっている。


 どうやらこっちの世界の現実も少しずつ変わっているようだ。

 変わり具合は学校とは違うけれども。

 

 一方、この学校が出来た背景については大した情報は探し出せなかった。

 大学の学部等の新設なら文部科学省のWebページにも載るだろう。

 でも附属中等学校の開設だとせいぜい大学のページに出るくらいだ。

 しかも設立については美辞麗句はあふれているが具体的にどう決まったかについては全然書かれていない。

 強いて言えば検索で国立大学法人法施行規則が出てきた結果、うちの学校の開設が決まった年月日が出てきたくらいだ。

 ちなみに今年の6月だから何の参考にもならない。


 あとは他に何か参考になる事は無いか。

 3時間パックで申し込んだので残り時間はあと20分弱。

 思いつく単語を打ち込んでは検索するがヒット出来ず。

 残り時間5分で諦めてパソコンをシャットダウンして会計で精算。


 つまり現実は少なくとも学校と秩父市中心部で違う事。

 秩父市中心部で調べる限り、こちらの現実も少し変わってきている事。

 わかった結果はそれだけだった。

 これなら学校で遙香に勉強を教えていた方が良かったかな。

 そんな事を思いながら俺は駅へと歩き始める。

 茜先輩の方はどうだっただろうか。

 何か面白い情報を入手できただろうか。

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