第21話 気づいた理由

 寮に戻り、朝用に買ったが食べなかった弁当を机に置いてパソコンを起動。

 まずは食べながらこの学校についてネット経由でわかる事を調べようと思う。

 調べる内容は俺の記憶とどれくらい違う物になっているか。

 この事態を引き起こした原因の手がかりがあるか。


 学校の記録は完全に書き換えられていた。

 遙香が言った、俺にしてみれば向こうの世界のこの学校の記録に。

 設立は今から50年程前。

 6月から寮と校舎の建て替えの為、仮校舎である現在地へ移動。

 なお旧校舎はこの場所よりもう少し町寄りだ。

 

 自衛隊については21世紀の方の学校にはどういう状態で常駐していたかはわからない。

 でも今のWeb上の記述ではこの校舎より更に山奥側に共同研究施設があり、ある程度の規模で駐屯している事もわかった。

 厳密には駐屯ではなく分屯らしい。

 秩父分屯地とWebページには記載されている。


 そう言えばこのWeb技術というのは魔法世界の方でも使えるのだろうか。

 記憶を思い出してみたがはっきりしない。

 似たようなものはあったと思う。

 でもパソコンやタブレット端末を使っていたかどうかは正直自信が無い。


 その辺は21世紀日本が混じっているのだろうか。

 今の俺には判断がつかない。

 判断がつかないという事は俺の記憶も変更されているという事だろう。

 どうやら記憶も世界が近づくにつれ、変更されているようだ。


 世界の変化を調べるにはどうすればいいのだろう。

 現状をノートに書いておくというのは有効だとは思えない。

 その辺の記述も世界が変わるとともに変化する可能性がある。


 またこの変化が起きている範囲を調べる方法も無い。

 そもそも魔法が使えるようになったのは全世界的なものだっただろうか。

 そうではなかった気がするのだ。

 思い出せないけれど。

 でも今、ここではきっとその事を確める事は出来ない。

 ここで見る限り、変化した世界しか認識できない気がする。


 ならここから別の場所へ出かけてみればどうだろうか。

 

 今日は時間的にもう無理だろう。

 まだお昼過ぎだが、ここから街は遠い。

 最寄りの街である秩父まで、バス20分と電車30分。

 これには待ち時間を含まない。


 しかも次のバスは確か午後3時。

 行って帰るだけでもう夜だ。

 先輩達との会食に間に合わない。


 行くなら明日だ。

 明日、遙香との勉強会を少し早く切り上げ、11時55分のバスに乗る。

 そうすれば夕食さえ何とかすればかなり遠くまで行ける筈だ。

 何なら秩父の街だけでもいい。

 向こうでネットカフェでも見つけてネット検索すればここと違う結果になる可能性があるだろう。

 ただ印字して持って帰っても資料になるとは限らないけれど。

 世界の変化とともに印字内容すら変わる可能性があるから。


 その辺を夕方、会食で先輩達と相談してみよう。

 そう思ってふと気づく。

 綠先輩の魔法は予知だ。

 実際にはそれ以外にも知識系の魔法を持っているらしい事をかつて聞いている。

 ひょっとしたら綠先輩なら世界がどう変化したか知っているかもしれない。

 この先どうなっていくかについても。

 何故そうなったかについても。


 なら今からやるべき事は……

  ① 明日、街へ出る計画を立てる

  ② 綠先輩に聞くべき事をまとめる

だろう。

 なお俺も遙香と同じくまもなく期末テストがあるが、特に勉強をする予定は無い。

 元々俺はテスト勉強をしない派だから。

 テストはわからない場所を認識するためにやるものだ。

 だからテスト後にわからなかった場所を復習する方が正しいし効率的。

 テスト前に勉強をするよりも。

 

 簡単な方、つまり明日の予定からだな。

 まずはバスの時刻と電車の時刻の確認から。

 俺はブラウザを立ち上げ、秩父鉄道の時刻表を呼び出す……


 ◇◇◇


 夕方。

 今日は得々満腹弁当という、ミニハンバーグと唐揚げとミニオムレツとメンチカツ、コロッケが入った弁当を買って綠先輩の研究室へ。

 世界が変わったせいで綠先輩の研究室が無くなっていたらどうしよう。

 でも茜先輩からのメッセージが変わっていなかったし大丈夫だよな。

 そう思いつつ、名札が出ていない扉をノックする。


「どうぞ」

 返ってきた声が茜先輩の声で一安心。

 中も以前と変わりない。

 紅茶の香りがして、茜先輩と翠先輩が弁当を広げて待っている。

 予定時刻の5分前なのに相変わらず茜先輩の方が俺より早い。

 まさか常駐している訳じゃないよな。


 俺が席に着いたところで茜先輩が宣言する。

「それじゃ食べるか」

 いちおう小さくいただきますと言ってから弁当の蓋を開けた。


「ところで孝昭、世界が変化した事にいつ気づいた?」

 茜先輩からいきなりそんな質問。

 そんな質問が来るという事は茜先輩も気づいていたようだ。


「朝、喫茶室で先輩達と話している時ですよ」

「遙香が来た時か」

 えっ。


「気づいたんですか?」

「あの時の孝昭の態度が変だったからな」

 あの時俺は、いるはずがない遙香にいきなり出会って動揺した。

 茜先輩なら確かに気づいてもおかしくない。


「ただ私自身は世界が変わった事に気づかなかった。私の記憶も自然に書き換えられたようだ。

 ただ孝昭の態度が変だと気づいた後、意識して注意するようにした。そうしたら幾つかおかしい点に気づいた。自衛隊基地がある事がおおやけになっているとか、襲ってきた怪獣が魔法で片付けられたりとかな。どうやらおかしいと一度疑問を持てば、その後はそれなりに変化には気づくらしい」


 なるほど。

 俺は遙香の件で世界が変わった事に気づいた。

 だからその後の変化も気づけた訳か。

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