第16話 魔法威力の測定
測定室へは廊下へ出ず、この実験室から直接入る事が出来る。
なお測定室そのものは地下室になっているようだ。
「この建物の構造でよくこんな地下室なんて出来ましたね」
確かここはプレハブ的な建造物の筈だったのだけれども。
「実はここだけ別構造だ。測定の関係上、他からの影響を出来るだけ下げたかった。地中に穴を掘って少しでも外からの影響を受けないよう作ってある」
階段を降りるとそこそこ広い空間になっていた。
奥行き20メートルほどの部屋で、奥の壁が妙に凸凹している。
「あの凹凸はエネルギーをこちらに反射せず向こうで受け止めるためのものだ。無響室と同じような仕組みだな。ただ強烈に頑丈に作ってある。部屋の構造も工夫した。特殊な事をした場合はその限りではないが」
「これで魔法の威力を測定できるの?」
塩津さんの台詞に先生は大きく頷いた。
「ああ。この部屋の熱的変動、気圧の変化、壁や天井、床にかかった力。更には重力場の変動まで全て壁や天井、床に埋め込んだ測定器やカメラ等で測定出来るようになっている。測定結果を全て計算した上で出力されたエネルギーを測定するという仕組みだ。まだ此処にしかない施設で私がメインで設計した」
さっきも聞いた気がするが一応褒めておこう。
「清水谷先生ってかなり万能なんですね」
「こういった装置の概念設計も物理屋の仕事だ」
なるほど。
「それじゃ誰から行く。測定する一人を除いて他は隣の監視部屋だ」
「なら俺からやりましょう」
俺の目的に間接的にでも協力してくれるのだ。
少し位は貢献してやろう。
「よし、それじゃ川崎は床に描かれた円の内側に入ってくれ。私達はこっちだ」
先生と塩津さん達は横にある小部屋に入る。
「測定準備が出来たらこちらで呼びかける。それまで少し待ってくれ」
測定室からの声はスピーカーで流れるようだ。
この辺もエネルギーを厳密に監視するための細工なのだろうか。
それほど待つことは無かった。
「それじゃ開始してくれ。終わったら右手をあげてくれ」
よし、まずは今まで試せなかったものからやってみよう。
熱を固めた上で、投げつけるイメージ。
炎は出ないが確かに熱の玉を投げたイメージを感じた。
でも見た目にはわかりにくいな。
次は熱魔法と行こう。
向こうの壁めがけて、熱を上昇させまくる。
おっと、一部だけだが赤熱した。
これはわかりやすい。
最後に水を出してみよう。
やはり部屋の奥めがけて水が出るイメージを思い描く。
バチャ!
バケツ1杯程度の水が出現した。
こんなものでいいか。
俺は右手を上げる。
「了解。測定終了だ。この部屋へ来てくれ」
どれどれ。
俺は監視部屋と呼ばれた方へ向かう。
監視部屋はそれほど広くない。
先生と俺達4人でほぼいっぱいだ。
狭いのは機材が多いせいもある。
スイッチが並ぶコンソール類の他、マイクと大型ディスプレイ3台、そして一見パソコンに見えるマシンのキーボードとマウスがデスク上に並んでいる。
「さて、今の魔法をもう一度ここのモニターで確認しよう」
先生がマウスを操作すると画面が切り替わった。
俺を中心にした正面、左右、上、背面からの映像だ。
俺の右側肩くらいの場所に赤いサッカーボール大の何かが描画される。
「まず川崎は右肩付近に熱を生じさせた。熱は球形で大きさは直径250㎜程度。中央に行くほど温度が高く、最大温度で約2,000度。鉄なら完全に溶ける温度だな。球状の外側でも約1,000度程ある。その外側は外気温と同じだから何らかの方法で熱を遮断していると思われるがその辺のメカニズムはよくわからん」
そして熱の球が俺の肩付近を離れ、前方へと放たれる。
熱の球は前方の壁に衝突し、オレンジ色から赤色の飛沫を付近に放って消滅した。
代わりに壁の一部が暗い赤色に描画される。
「今の熱球が前に向けて投射されたようだ。速度はおおよそ60km/h。壁にぶつかった後、熱を壁に移して消滅した。その分壁が熱せられてこのように温度が変化した」
次は壁の一部が赤くなっていく。
中心部は赤色に描画された。
「今度は壁を直接熱している感じだな。赤く見える部分は最大1,500度ちょい。鉄なら溶けるところだ。万が一を考えてセラミック系にして良かった」
なるほど。
最後に俺が水を出した場面。
「この水についてはエネルギー換算出来ない。0から作り出したのならとんでもないエネルギーが必要だがおそらくそうではないだろう。量からして空気中の水分を集めた訳でも無さそうだ。重力計が反応しているから他の空間から持ってきたと考えるのが一番適切だ。ただ重力計は他の魔法でも反応している。どうやら空間構造の変化が魔法の正体を解き明かす鍵になるのかもしれない。
さて、全体のエネルギーの測定結果だ。だいたい627メガジュールだな。電気代になおすと1kw/hあたり30円として30万円超えだ」
そう言われてもな。
「いまいち感覚的にわかりにくいですね」
「一般人にとって物理の単位なんてそんなものだ。ついでに言うとTNT換算だと150kgだな。喜べ、大抵のテロに使われる爆薬の量より遙かに大きい」
その尺度もどうかと思うのだがまあいいだろう。
「それじゃ5分ほどクーリングをかけた後、次の測定と行こう。次は誰で行く」
「それじゃ私が」
須崎さんがやるようだ。
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