第3章 2回目の襲撃

第14話 課外活動を立ち上げに

 緑先輩の部屋を出た後、歩きながら向こうの世界の俺と遙香の事を思い出してみる。


 向こうの世界の遙香は生きている。

 交通事故で死んではいない。

 事故には遭ったのだが咄嗟に魔法が発動し空中に逃れて無事だったのだ。


 それがきっかけで魔法の才能が一気に開花し、ならという事で遥は国立大学附属の魔法学校を志望。

 ならついでにという事で、教育熱心でないうちの親も俺が魔法学校を受験する事を認めてくれた。


 そんな訳で俺は生まれて初めての自発的勉強の末、何とかこの学校に合格。

 その1年後、遙香も無事合格して同じ学校に入学。


 勿論男子と女子だから寮が違うけれど、それでも遙香に図書室やラウンジで勉強を教えたりもしたし、課外活動も同じ魔法研究会で一緒に練習したりした。


 向こうの世界の彼女は俺が知っていた遙香ではない。

 違う世界で違う歴史を辿った違う遙香だ。

 それは俺自身わかっている。

 それでも遥香に会いたい。

 そう思ってしまった。

 違う遥香だけれども、それでも遥香である、あの事件の後順調に成長した今の遥香に。


 遙香は3年生の教室にいる筈だ。

 直接行けば会える可能性は高い。

 ただ3年生までの教室は2階。

 俺のいる4先生の教室は3階。

 わざわざ行くのはストーカーじみている。


 しかも必ず会えるという訳では無い。

 今は緑先輩によるとまだ世界が離れている模様。

 だから彼女に会えない可能性の方が高い。


 ストーカー行為では無く、自然に彼女に会える方法は無いだろうか。

 女子寮の入口を張ったり食堂や厚生館を歩き回って調べるのも不審者行為だよな。


 そう思った時、ふと方法を思いつく。

 課外活動だ。

 向こうの世界の遙香は魔法研究会に所属している。

 あの魔法研究会の正式名称は『魔法実践・訓練・研究会』。

 この研究会に入れば自然に会うことが出来る筈だ。


 ふと茜先輩の台詞が頭を掠める。

『最初のアンケートには魔法研究会と書いて、2番目のアンケートには参加希望無しとする。そうすれば元気のいい奴が勝手に動いて状況を明らかにしてくれるだろう』


 確かにそれが安全策だ。

 きっと間違いない。

 でも茜先輩はこうも言っていたな。

『それでも興味があるのなら、あえて入ってみるのもいいんじゃないか』

『だから中に入っても最先端の方にいなければそこまで危険は無いだろう。お勧めはしないけれどな』


 よし。

 出来るだけ入った後もすぐに実力を全開にせず、まわりの様子を見ながらやっていけばある程度は大丈夫だろう。

 そもそも注目されるような魔法の実力が俺にあるかどうかもわからないし。


 幸い第1回目のアンケートは茜先輩の意見を参考に『魔法研究会』と記載した。

 だから2回目のアンケートでも同様に書けばいいだけだ。

 そう思うと第2回目のアンケート、そして課外活動の発足が楽しみになった。


 さて、そう決まったら昼食でも買って部屋に帰るか。

 どうせ今日は食堂も混んでいるだろう。

 部屋でゆっくりとネットでも見ている方が疲れなくて済む。

 そう思って厚生館に入った処だった。


「あれ、川崎。本部棟の方から来たけれど何処へ行っていたの?」

 塩津さんだ。

 須崎さんも一緒にいる。


「ちょっと知り合いの部屋へ」

「って、あっちは職員室とか研究室だよね。今日は学校も休みだし」

 そう言えばそうだよな。


「ちょっと特殊な魔法持ちで、独自で研究用の部屋を持っているんだ」

「それってあの綺麗な先輩?」

「別の人」

 何でも茜先輩に結び付けないでくれ。

 確かに緑先輩も前の学校の先輩だけれども。


「それって学校の教官か研究員さんかな。もし良ければ紹介して貰えない? 課外活動の顧問を探しているの」

 おい待て塩津さん。


「課外活動の所属は第2アンケートの結果が出てからだろ」


「でも詳細を読んだら独自に活動を始めてもいいって書いてあったよ。だからもう先に人数集めて先行しちゃおうと思って」


「5人集めて顧問の教官を決めたら活動していいってあったの。そうすれば先に部屋を仮押さえする事も出来るようだし。勿論正式発足時にもっと人数が多い活動がその部屋を希望したら移動されちゃうけれど」


 ふと思い出す。

 向こうの世界の遙香も魔法研究会に所属していて、それに入れば俺も遙香に近づくことが出来るだろうと思った事を。


 でもこの調子だと魔法研究に類する課外活動が幾つも出来てしまいそうだ。

 遙香がどれに入っているかわからないという事態が起きるかもしれない。

 その場合はどうやって遙香のいる活動を探し当てればいいだろう。


 そうだ。

 遙香が入っている魔法研究会をこっちで作ってしまえばいいのだ。

 あの研究会の名称も顧問の名前も活動場所も俺の記憶に残っている。

 その通りの研究会を作ってしまえばいい。

  

「思い当たる先生がいないなら向こうの世界での記憶を頼ればいい。具体的には名称を『魔法実践・訓練・研究会』にして顧問は5年の副担任をやっている清水谷教官に頼む。活動場所は研究棟の第2魔法実験室と隣の測定室を申請しよう。そうすれば向こうの世界の学校に実在する以上、こっちでも成立する可能性が高い筈だ」


 塩津さんは感心したというような表情をする。 

「よくおぼえているしわかるよね。私なんか向こうの名前とこっちの名前を付き合わせるのもやっとなのに」


「担任副担任は各学年変わっていないようだから、それさえわかれば当然だろ」

「そう言えばそうだけれどね」

 反対する様子は無い。

 よしよし。


「ところで5人はもう集まっているのか?」

「実はそれもまだ。うちのクラスでお願いした結果、小倉さんが入ってもいいよって言ってくれたんだけれどね。まだそれだけ。他は皆、もう少し様子を見てから決めるって」


「俺を入れても4人か」

「川崎、入ってくれるの?」

「名称その他を向こうの世界と全く同じにしていいなら」

 これが俺の絶対条件だ。


「それは大丈夫だよね、彩」

「成立する可能性が高くなるならね。でもその名前にして大丈夫かな。向こうの世界の研究会、雰囲気が悪かったりしなかったよね」

「それは大丈夫だ。何せ向こうの世界の俺も入っていたし」

 確かそういった問題は無かったと思う。

 あくまで俺の記憶ではだけれども。


「そうか、それならあと1人か」

「いや、探さなくてもおそらく大丈夫だ」

 確信は無いが、出来るだけ早く俺はこの研究会を決めてしまいたい。

 だからいかにも確信がありそうな感じで言わせてもらう。


 実際根拠が無い訳でもない。

 少なくとも遙香、向こうの世界の遙香は入る筈。

 だからたとえ今日の時点で成立しなくても、いずれ成立はする筈だ。


「何で」

「俺以外にも同じように向こうの記憶を元にして交渉している奴がいると思う。だから今から直接教官のところにお願いに行こう。今日は授業は無いから会議でもしていない限り大丈夫だろう」 


「でも大丈夫かな」

「なんなら交渉は俺がする」

 ここは強気で押しておこう。

 そうしないと出来るものも出来なくなる。


「清水谷教官の居場所って何処かな」

「第2研究室の筈だ。研究棟の1階」

 善は急げというか、勢いでここは決めさせてしまおう。 

 そんな訳で俺は塩津さんと須崎さんを引き連れる形で研究棟へと向かった。

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