第2話 俺、兄になります。

 『何だここ、俺ん家?』


 愕然とした。


 見渡す限りの大森林が広がっており、明らかにさっきまでいたマンションではない。


 『何ここ、アマゾンの熱帯雨林?』


 小太郎は探索した。


 そして分かったことがある。


 『もしかしてここって、異世界じゃね?』

 

 俺は今年で40歳になるおじさんだが、アニメやゲームは常人より嗜む方だ。しかし、現実と空想の世界の区別は付いている。



なんというか目の前に広がる光景はタガが外れている。


 ぷるぷるとしたゲル状の物体スライム


 醜い面をした半裸の小人ゴブリン


 火を吹く草花。


 他にも沢山の発見があった。


 別に発見したものがゲームに出てくるとは限らない。


 しかし、思い込まないとやってられない。


 『仕方ないな…目印を辿って戻るか。』


 幸いにも持っていた鋏の刃先で木に印を付けていたので、目印を頼りに戻ることにした。


 見知らぬ地で散策していると、変な動悸がする。


 誰かに見られているような。


 帰り道も一応目を凝らしていたが、建物一戸見当たらない。


 全く…。


 小太郎は元いた最初の場所に着くと、雑草の絨毯に仰向けに寝転んだ。


 『疲れたぁ〜、ん?』


 何やら看板がある。

看板の標記を見ると、そこには「原始の泉」の文字と矢印が書いてある。


 『何でこんな立派な看板があったってのに、気づかなかったんだ。 』


 すぐ起き上がり、看板の標記が示す矢印の方向に進んだ。


 野道の奥に行くにつれて、周りの空気が重くなっていくのが感じられる。


 それでもせっかく掴んだ糸口だ。


 いもスカの為にも恐怖に打ち勝つんだ。


 『待っててよぉ、サユ。』


 今はただ己を鼓舞するしかできない。 


 小太郎が木々を掻い潜って進むと、開けた野原に出た。遠くには泉が見える。


 『ここが、原始の泉かっ。 』


 近づいて偵察してみると、原始の泉に湧き出る水源は見当たらなかった。


 泉の中心に陸地があって、それに通じる細い陸路がある。


 陸地には石造の神殿のようなものが視認できる。


 『人か?』小太郎は目を疑った。


 細い陸路を渡り、神殿に足を踏み入れる。

すると、そこには衝撃の光景が広がっていた。


 なんと、十字架に少女が縛られている。

 


 ちょいと待て、完全アウトだろっこれ。


 刺激が強過ぎて直視できない。


 エッチな理由だけじゃない。


 身体中には無数の傷を負っており、地面に血が滴り落ちていた。


 『この子は一体・・・。』


 この少女は見るからに瀕死の状態だ。


 今はただ助けることだけに精神を研ぎ澄ませ

るんだ。


 だからといって、治療とか俺にはできないのだが。


 とにかく縄を解いて、巨大な木彫りの十字架から下ろしてあげないと。


 『大丈夫か…辛いだろうが頑張るんだぞ!』小太郎は少女を抱えて、泉の縁で水を飲ませた。


 「んんんっんん、ナイスブレスぅぅ。」

少女はゆっくりだが、確かに返答した。


 なんだこの少女、確かに喋ったな…言葉ってそれより服!


 『いやっ、ブレス…。それより、俺のジャージの上着貸してやるよ。』


「ブレスぅ、そのぉ着せてくれないかのぉぉぉ…頼むのだ。」


「俺は小太郎だ。 しかもなんで俺が着せないと…」


 小太郎は赤面しながらも、少女には大きいであろう-ジャージの上着を着せてあげた。


 何だこの展開。


 こんな美少女に俺が。


 まさに夢心地だ。


 もっと悪いおじちゃんだったら出てるよ、もう3回くらい。


 レッドカード。


 「ブレスって優しいんじゃな…ありがとう。 お陰様で普通に喋れるくらいにはなったのじゃ。」 


少女が感謝の言葉をぽつり呟いた。


 『いやいやっ、当たり前のことだよ。』


 「やっぱり、お父様の言われた通りのヒューマンなのじゃ。

ブレっ…そのぉ小太郎は。」


 『お前のお父さんが何故、俺のことを知ってるんだ?』


 「いずれ分かるのじゃ。」

少女は舌をぺろっと出した。


「それよりまずは契約するのじゃ。

一刻も早く…でないと出遅れてしまうぞ。」


 『何契約って?! 何かのセールス?』


 「違うのじゃ。

簡単に言うと、私と小太郎が兄弟になるという契約なのじゃ。」


 少女の一言によって、小太郎に本日二度目の電撃が身体中を駆け巡った。

 

 

 

 



 

 

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