第3話 妖婆 ケラッハ・ヴェール

 「簡単に言うと、私と小太郎が兄弟になるという契約じゃ。」


 『俺と君が兄弟だって?!』


 「そうじゃ。

魔族の私たちは人間と契約することで、魔気を供給してもらい、あらゆる能力を行使できる様になるのじゃ。 」


 少女は回復したのか、普通に話せている。


 どんな技を使っているのだろう。


 『何で俺が特別なんだよ。

俺には大した取り柄はないぞ…強いて言うなら、妹が好きな所だけだな。 』


 「お主はそれでいいのじゃ。

それより、お主には妹がおるのか?」


 『まっ、まあな。』


 (妹は2次元です。なんて言えねぇ……)

 

 いつもの俺なら、どんなリスクが有ろうとも無我夢中になって、契約を結ぶだろう。


 だってそんな契約、俺得過ぎる。


 「今ならなんと!…純粋で可愛い妹が契約するだけで手に入るのじゃぁぁ…わっはっは。」


 少女は起き上がると、すかさず自身の胸元に、俺の手を押し付けた。


 「ひゃひっ…どうじゃ?

小太郎。 ほれほれぇ。」


 『純粋な妹ならこんなことしねぇよ、手ぇ離せっ!』


 間髪を入れずにツッコミを入れて少女の手を振り払おうとしても、強靭な握力は小太郎の手首を決して離さなかった。


 (くっ!…なんてパワーだ。)


 「話の分からんやつじゃなぁ。

この童貞おとこぉ〜!

童貞なのも魔気生成には重要なんじゃぞ?」


 『ちっ、ちげーよ! …こう見えても俺はいい大人なんだよ!』


 「どっこがぁじゃ? 泉の水面で確かめてみぃ。」


 「何を言って…」

小太郎は泉の縁に手を着き、水面を覗き込んだ。


 『ん???』


 驚きのあまりぐうの音も出なかった。


 水面に反射して映る自分の姿に。


 「どうしたのじゃ。」


 『何故俺が…このアラフォーのおっさんが…金髪美少年になってるんだよぉ!』


 「あぁ、うるさいうるさい。

分かったからそう騒ぐな。殺すぞ。」


 『…………………はい、すみません。』


 (なんだこの仕打ちは。

胸を触らせながら、騒ぐなとか、殺すぞとか言って。どんな拷問なんだ。どんなに鍛えられた軍人でも、悶え苦しむぞ!?

それに今の俺の変わり果てた姿を目にして、落ち着いている方がおかしい。)

 

 少女は一呼吸おき、商談を再開した。


 「直ちに契約じゃ。 さもなくば、妖婆ハグがもうきてしまうぞ。」


 『妖婆って?』


 少女に向かって質問を投げかけた-その時だった。


 「############!」


 言葉になっていない金切声が神殿の方から聞こえて来た。


 神殿を慌てて眺めてみると、巨大な女体の見た目をした巨躯が仁王立ちしているじゃないか。


 「とうとうお出ましじゃな。 ケラッハ・ヴェール。」


 『なんだあれっ…なんて言うか、キモ。』


 「あれは創造神ソルスが大昔に生み出した災厄デザストルモンスター。

…そして、すでに崇拝されなくなった女神の成れの果てじゃ。」 

 

 顔面はのっぺらぼうで、何とも不気味だ。


 さっき少女が縛られていた十字架を持っているが、お目当てのものが無く怒り狂っているように見える。

 

 「もう時間がない。

小太郎…っそのキス…せぬか?」


 『何でこの状況でキスなんだよ!

頭イってんだろ!』


 「ハハッ早くしろ!…っでないと!

契約のキスじゃ!はよせぬと、おぬしと二人で共倒れじゃぞ!!」


 『あぁぁ! もうどうとでもなりやがれぇ!』


 「ほれっ……ちと寄れ。」


 少女は少し照れながら、口づけをした。


 

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