BLESS〜アラフォー男子は、異種族美少女たちと契約して世直しする!〜

いろ蓮

駆け出し冒険者

助走という名の序章

第1話 プロローグ

 (※縦読み推奨)



「もう時間がない。

小太郎…っそのキス…せぬか?」


『何でこの状況でキスなんだよ!

頭イってんだろ!』

 

 たった今、少女に接吻キスの提案をされている。

それに謎の世界に

十字架の拘束から助けた少女。

泉の中心に構える神殿。

仁王立ちする白い巨人。


 是非を問われれば困る。 

 一番この状況下について言及したいのは他でもない。


 


 奇天烈きてれつな展開に直面している。


 まるでRPGおとぎの世界で。


 異世界召喚された主人公になったみたいに。


こんな世界に迷い込んだのは、数時間前に遡る。


 「小太郎、もう上がりでいいぞぉ。」


「お先に失礼します。また忘年会で!」


 六時の定時を迎えたので、そそくさとある場所に向かった。


 いつもは残業があれば、夜が耽るまで仕事に明け暮れるが。


 しかし、今日は


 『俺の愛しの妹に会える。』


 激務を終え、疲労困憊だがどうでもいい。

 エレベーターを待つのも無理だ。

 一刻も早く。

 こんなに階段を駆け降りるのは何十年ぶりだ。


 会社のエントランスから出ると、すぐ溜息を吐いた。


 『はぁ、流石に寒いなっ…って雪?』


 季節はもうすっかり冬で。


 ここ、神谷市の街にも足跡が残る程の積雪が広がっていた。


 『もうクリスマスだもんなぁ…。 』


 聖夜クリスマスだからか。

カップル達で繁華街も賑わっている。

目前でたゆたう降雪からはそれ自体に匂いがない。しかし、通行人の香水の匂い、鶏肉の揚げ物の匂い、チュロスの甘い匂いなどが香って来る。


 (みんな、大切な人と今日は過ごすのかなぁ…)


 道行く人は、俺に見向きもしない。


 そんなにいいか。


 しろ。


 賑わう繁華街を抜けて、裏通りの路地に向かった。


 路地に入るとすぐに立地する店に入る。

すると、品出ししている坊主頭のおっちゃんがいた。


 『おっちゃん、新作入ってる?』


 「おっ、 今日入荷したばっかりやわ。」


 『…っじゃ、いもスカ下さい!』


 真っ黒な革財布を取り出し、一万円札を支払った。


 いもスカとは、妹恋愛シュミレーションゲームの「可愛い妹どうでスカ?」の略称だ。


 俺は生まれてこの方、恋愛経験がない。

そんな心の隙間を埋めてくれたのが、このゲームだった。


 いもスカは今年で十五周年を迎える。

その記念に二作目の発売から、七年経った今日。待望の三作目が発売された。


 「毎度おおきにぃ!」


 「雅屋みやびや」と印字の入ったビニール袋を片手に、鼻歌をうたいながら家に向かった。


 『三年振りかぁ…。』


 「ニャ〜」


 自宅マンションの階段を上がろうとした矢先、足元で鳴き声がした。


 『猫ちゃんか。』


 「ニャ〜」


 『可愛いなこいつ。』

小太郎は子猫の入った段ボールを抱え、二階に上がった。


 「フニャ〜。」


 『お前っ、子猫だろ。』


 「………ニャ〜。」


 『偉いなぁ。

こんな寒いのにずっとここに居たのか?

…ったく、こんなとこに捨てんなよなぁ。うち来るか…にゃんころ!』


 「ニァッ。」


 一人暮らしなので、六畳間にユニットバス付きの物件に住んでいる。七年前に改装工事をしたので、案外綺麗に見える…と思いたいが。


 幸いペットは、飼っていい物件だ。


 小太郎は部屋に入るなり、暖房を稼働させ冷蔵庫にあったツナ缶を子猫に食べさせた。

 子猫は、部屋が暖かくなり落ち着いた様だった。

 最初こそおびえていたが慣れたのだろう。


 『まず、飯食って風呂だな。

多分、オールでプレイするだろうし。

にゃんころ…風呂入るぞっ。』


 小太郎はカップ麺をあっさり平らげ、子猫と一緒にシャワーを浴びた。


 『お前、そんなモコモコしてたんか。』


 「ニャ〜」


 小太郎はドライヤーで髪を乾かし洗濯物を済ませた。


 そして、自身の右横に子猫を置き、ちゃぶ台の前に正座した。


 『にゃんころっ。お前はきっと俺の幸福の招き猫だ。頼むぞ。』


 「にゃ〜」


 小太郎は子猫に鈴の付いた首輪チョーカーをつけて、右手を挙げさせた。


 『準備オッケー。 再会は慎重に…慎重にっ…この袋?!…』


 ゲームカセットのパッケージを開封してみると、銀無地のアルミ蒸着袋がひらひら舞い落ちた。


 これは、まさか。 


 間違いない!


 いもスカ公式ホームページで告知されていた日本に一枚しかない激レア付録。


 クリスマスサンタ姿のサユの書き下ろしシールでは?! 


 やっぱり俺のサユは俺の下に舞い降りたか。


 『っっっっしゃぁぁぁ !!!』 

 目を瞑り、拳を天井に向かって突き上げた。


 脳に電気が走る感覚に陥ったが、アドレナリンとドーパミンの嵐に体中が歓喜しているのだろう。


 『仕方ない。 冬の寒夜に水着のサユと再開するのは気が引けるが…』


 急いで付録の縁を鋏で切り取った。


 興奮したせいで、額に汗が吹き出す。やはり験担げんかつぎはするべきなのだ。


 にゃんころ、ありがとう。


 『久しぶりぃ。 サユ〜、三年ぶりだねぇ〜って………なんで!!!!!』


 無い。

 サユの限定シールが。


 『こんなの…嘘だぁぁぁぁ!!!!!!』


 「おい、さっきからうるせぇぞ。

ボケ、しばくぞ!」


 小太郎は、隣人から怒号を浴びせられると正気に戻った。


 取り敢えず、ご近所トラブルは避けたいので謝まろう。


 今は我慢だ。大人だろ? 


 ここは一先ず謝罪の究極奥義。


 土・下・座!


 『すみませんでした!』


 「困るよ本当、最近の若者は…。 謝ればいいってもんじゃないのぉ!!」


 謝罪すると、隣人のおじさんによって、三十分間の説教が執行された。


 何だこの行き場のない怒りは。

悪いのはいったい誰だ。

俺か?

サユか?…いいや、違う。

シールの入封ミスをした製作者サイドだ。

 俺の腹の虫の居所は、ただ今絶賛殺虫剤たっぷりの部屋に密閉されているだろう。


 早急にいもスカで癒されなくてわ。


 『はぁ…疲れた。 ただいまぁらいおん?!』


 部屋に入ると、目前に草木が生い茂る大森林が広がっていた。


 振り返ってみると、ついさっき閉めた扉は無い。

 一体何が起こっている?

 

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