入学歓迎会③

「どちら様でしょうか?」

「知らないのも無理はないだろう、所詮田舎から来た平民風情ではな」


 声をかけられた方に振り返ってみれば、女性が立っていた、茶髪のセミロング、目は猫の様に吊り上がった勝気な雰囲気を思わせる、事実彼女の僕を見下している様な態度からさだめし、自尊心の強い少女であることは、火を見るよりもだが。


「私はかのシェパード伯爵家の娘、キャロル・シェパードだ」

「左様ですか」


 やっぱりというべきか、まぁそうだとは思った、まぁ因縁をつけられる様な事を僕はした覚えはないので、短くそう言って、目の前の食事に戻ろうとしたのだが。


「貴様、椅子に座ったまま、私と喋るのか? それが貴族に対する態度か!」

「田舎の小坊主が礼儀を学んでいるとお思いで? しかし先ほどから僕に対して随分とお怒りですね? 食事をしていないからでは? こちらの食事はいかがですか?」


 彼女は僕になおも話しかけて来る、相手をしなければよかったのだが、つい相手をしてしまう、ちなみに礼儀も知らないと言うと、クアード先生がさらっと嘘をつくなという顔でこちらを見た、なんだって、自分に敵意を向ける相手にまで礼儀を尽くさないといけないのかなと僕は思った。


「こんな品の無い男がルーズ様を試験で負かしただと、ありえるか! 何ぞ卑怯な手を使ったに決まってる!」

「ルーズ……ああ、ルーズ君か」

「そうだ、貴様のせいでルーズ様は学園への入学が出来なかったんだ、今頃、私と共に学園に通っていた筈が、貴様のせいで」


 僕のせいにされても困る内容である、卑怯な手を使った覚えもないし、刃傷沙汰を起こしたのも彼が冷静さを欠いた結果だ、よって。


「貴方が何と言おうと、僕は悪くない」 

「そんなわけがあるか! 全部貴様が悪いんだ! 黒髪の悪魔! 呪われた汚物! 穢れた血の卑しき平民の身で! 貴様の父は何故貴様を自由にしてるのか大馬鹿だからか? 母もきっと貴様を産むような女だ、酷い醜女だろう! っひ!?」

「トラ君、駄目!」

「てぃ、ティグレ?」

「ティグレ様、激情にかられてはいけません、落ち着いて下さい」

「キャロル、今の発言は彼を怒らせて当然の物だ、ティグレもステラが止めていなければ、どうしたつもりだ」


 両親の侮辱を聞いた瞬間、僕は背中を向けながらも無意識に魔法でキャロルの髪を切り裂こうとへテーブルにあったナイフを操作した、が、ナイフから僕の魔力の反応が消えた、振り返ってみれば。ナイフは別の青色の魔力を纏っており、それがナイフを止めていた。


 そして僕の腕にはステラが抱き着いていた彼女が魔法で止めたのだろう、チキンを頬張っていたエドガー君や他のクラスメイトの子が顔を青ざめて僕を見ている。

 目の前に座る姫様だけが僕を諭そうとしていてくれた。その言葉に平静を取り戻せた僕はナイフをテーブルへと戻し、深呼吸で少し落ち着いてから

 クアード先生への質問に答える。


「殺す意志はありませんでした、ただ散切り頭にでもなってもらおうかと」

「これからクラスは違えど同じ学園のそれも女子に何を考えてる……いや、それだけ先の言葉が逆鱗に触れたと言う事なんだろうが、とにかく暴力行為は禁止されている絶対にやるな、いいな」


 強く釘を刺された、では、母さんを侮辱された怒りはどうすればいいのだろうか。

クアードは発散したいなら宿の訓練所の人形なりをめった刺しにするなりで発散しろと言った、帰ったら早速するか。


「とにかくキャロルは自分の席に戻れ、ティグレもこの後は特に何も無いから、帰っても構わない、というか帰って頭を冷やせ」

「は、はい、やはり大罪人の血を継ぐ黒髪の男、なんだあれは狂犬の類か」

「キャロル!」

「いいんですよ、キャロル様みたいな反応が普通です、ここにいる大半の人達がそう思っているんじゃないですか、それじゃ」


 クアード先生に帰ってもいいと告げられるので、腕を掴むステラを引き剥がし立ち上がる、キャロルは自分の席に戻る前に僕に聞こえる様に僕を犬畜生扱いする言葉を発した、あながち彼女の言い分は間違っていないかも。実力あれど、その実力は獣のそれであると言う事だ。およそ人と切磋琢磨し合える物では無いのかもしれない。


 これからの学校生活がどうにも不安だ。


 

 

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