入学歓迎会②

「先生、ご馳走と聞いたんだが、目の前には空のテーブルしか無いですよ」

「どうしてだろうな」

「ごちそう……」

「サラナさん、また涎」


 席に着こうとしたそこではエドガーが先生に目の前の机を指差し苦言を呈していた先ほどいっていたご馳走などという物は並んでおらず、ただただ白いテーブルクロスが敷かれているだけだった…………ははぁん、そう言う事か。折角用意されたタネだ何も言わずに黙って座るとしようか。エドガー君もクアード先生に宥められその場は矛を収めていた、若干一名は未だその目に悲しみを浮かべているが。


「…………あー、全員揃ってるね、会話を止めてこちらを向いて欲しい」


 僕とステラが席についてからすぐ、教員達が座る席の真ん中に座っていた男の人が立ち上がる。その声に席に着いてから雑談をしていた生徒も一緒に座っていた教員も全員が前方を向く、立ち上がった男性は一つ咳払いをしてから話し始めた。


「初めまして、私はこの学園の校長、ドクター・ヘルパーと言います」


 声は若々しく聞こえる見た目は若いと言うよりかは老いているが、実はそこまで歳を重ねてはいないのだろうか? 校長と言うからには先生に近い老人を想像していたがそうでも無いようだ。


「新入生一同の入学を我々教師一同、心から喜んでいます、これから皆にはこの学園の生徒として清い振舞いを心掛けて貰えればと思っています、その為に教師一同も君達生徒以上の努力を持って教える事を誓いましょう、生徒諸君にこの学園に通う事が誇りであると思えるように、さて、長い話に人は退屈を思うのが世の常、私としても退屈を感じる前にここで話を終えようと思います、話を聞いてくれた新入生一同に感謝を、そしてこれからの成長に期待して、学園から食事を用意させて頂きました是非、味わって頂きたい」


 ドクターと名乗った校長が一つ手を大きく叩く、するとどうだろう、白いテーブルクロスの上にご馳走が出て来る、油の光る食いでのありそうな鳥の骨付き肉、暖かな湯気をたてるシチュー、ボウルに飾り切りで盛られた新鮮な野菜のサラダ、皿にこれでもかと乗せられたパスタ、バケットには香ばしい匂いを漂わせるパンも。

それ以外にも、たくさんのおかずが所せましと並べられている。

 10人と言っても子供だけで食べきれるのかと言う程の食事が並んだ。


 僕はこのいきなり現れたタネの仕組みがおおよそ分かっている、なんらかの魔法であらかじめ準備していたこれらを隠していたのだろう。こういう魔法を使ったタネが分かってしまうのは常在戦場の理念のある種欠点だろうな。

 そのいきなり出て来たご馳走のタネを知らない、他のクラスメイトは目を見開いたり、感嘆の声を上げたり、腹の声で返事をしたりと各々の反応を示していた。


「男児たるもの、まずは肉に齧りつかなければな!」

「私も肉から頂こうかな、これまたでかい鶏肉だ、実に食べ応えもある」


 マグノリアさんやエドガー君は骨付き肉を豪快に掴み齧りつく。


「………………」

「す、すごい食べっぷりですね、サラナさん」

「………………」


 無言で皿一杯に乗せたパスタを口に頬張るサラナさんとその横でちまちまとパンを小さい口に運ぶメリアさん。


「このトアトどこで出来た物なのかしら、お兄様達みたいな野菜嫌いでも甘いですし食べて貰えそうなのでお勧めしたいです」

「多分ベジタール領だと思います、甘みのあるトアトってベジタール領みたいな雨量が少ない土地で徹底的な管理しないと難しいんですよ」


 サラダに盛られたトアトの栽培された所が何処なのかを考える姫様とそれに答えるラティナさん。


「クアード先生は大陸浪人だったんですね」

「まぁな、南蛮以外なら全部回ってきたもんだ」

「詳しい話を聞かせて頂いても? 特に西邦の話は中々聞けないので、その辺りを」

「構わないぞ、そうだな西邦では……」


  ベリアム君はクアード先生に外国についての話を聞きながら、そして僕は。


「はい、トラ君、あーん」

「自分で食べれるよ」

「そう言わずに、あーん」


 ステラが僕へ差し出したフォークの先には牛のステーキが一切れある、僕とて子供であるまいし、誰かに食べさせてもらう様な真似はしないと拒むが、ステラは頑なにそのフォークを僕へ差し向け続けていた。


「ティグレ様、ここは受け入れた方が早いですよ、ステーキのソースが制服に落ちる前にも」

「え? あったった!?」


 ステラの隣に座るフレデリカさんの声で気づくが、ステーキから今か今かとソースが僕の制服のズボンに落ちかけていた、慌てて僕はステラのフォークに刺さる牛肉を咥える事で事なきを得た。


「んふふ~、もっと食べさせてあげるね」

「……自分で食べれるって」


 ステラは手ずから食べさせれた事に調子づいたのか、笑顔で再び次の肉を僕へ差し出す準備を始める。そんな時。


「お前だな、ルーズ様の試験を台無しにした、悪魔は!」


 背中から声がかけられるのであった。




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