入学歓迎会①

「これで全員だな、自己紹介一つじゃお互いを知るには少ないだろう、学園では問題が無い限りはクラスメイトが変わる事も担任が変わる事も無い、お互いを知る機会はこれからいくらでもある、では、次に入学歓迎会があるので、外の廊下に出てくれ」


 クアード先生の言う通りだろう、これ一つで全部知れたらどれだけ楽か。

それにクアード先生の言う通りこの先何も問題が無ければ彼らとは教室を5年も共にする訳だ、その間に知る事が出来ればいいだろう……姫様や侯爵令嬢はともかく。


 さて、クアード先生の言う通り僕らは廊下に出る、そして更に指示を受けて縦に二列ずつに並ぶ。僕の隣は勿論ステラ、ドアからは一番離れていたと言う事もあり、一番後ろ。他の教室からも生徒が出てきている、さだめし僕等と同じで自己紹介を終えてから並んでいると言った所か。


「さて、1組から進まないと先が進めないからな、進んでくれ」


 クアード先生は一番先頭に立って僕等を先導していく、入学歓迎会は何処で行われるのだろうか聞いていないが。


 なんだろう……背中から視線が刺さるなと少し振り返ってみた。


「前を向いて進みなさい、後ろが進む邪魔になるでしょう」

「あ、すみません」

「はぁ、なんで黒髪のこんな子が」


 厳しい目でこちらを睨みつける、女性の先生が苦言を呈する、すぐに前を向き足を進める、最後の一言は小さく呟く程度で言ったつもりだろうが、僕は耳聡い、聴こえてる、教員にすらどうやら僕は憎し怖しで睨まれてる訳だ。


「この先は大ホールになっている、そこが歓迎会の会場となっている」

「先生、歓迎会とは一体何があるので!」


 大分歩いた所で、大きな扉の前で止められる、どうやらこの先が歓迎会の会場なのだそうだ、エドガー君が歓迎会では何があるかと尋ねればクアード先生が答える。

 僕らの授業を見てくれる教員や校長先生の紹介、それと。


「昼飯も出るぞ、毎年豪勢だから期待しておくといい」

「おお! それは期待せざるを得ないな」

「ご馳走……」

「えっと、サラナさん、その涎」


 エドガーはご馳走と聞いて期待を膨らませ、そして僕の前に立っているサラナさんはその言葉に涎まで垂らしていた、見た目に反して食い意地の張った子のようだ。

 そんな風に三者三様期待を膨らませていれば、大ホールの門がひとりでに開く。

魔法の力だろうか、クアード先生は行くぞと声をかけて進んでいく、前が進めば後ろも進むと言う事で僕等もまた大ホールへ入っていく。


 大ホールの中はこれまた魔法を利用してるのだろう蝋燭の類は無いに関わらず大分明るいというものだ、そこに並べられた10組のテーブルと椅子それぞれ1クラスずつ座る場所と言った所か、そして真正面には数名の教員が座っている、その中でも真ん中に座っている、おそらく自らで剃髪してるであろう若くは無いが、自然に毛髪が抜ける程に老衰している様には見えない男、あの人は随分と稀有な事をしている。


「凄い魔力だな、色は紫だから変化かな」

「え? 誰が?」

「あの真ん中の人、ずっと魔力を制御し続けてる、さだめてここにいる誰よりも実力を持つ人だね」


 ステラが僕に誰の魔力を見てるのか尋ねるので真ん中に座る男の人を指差す。

本来、あのように魔力を常日頃から制御するような事はしない、魔力は戦闘時や使用時にだけ解放し制御するのが基本だ。ああやって常日頃から制御下に置いてるのは。


「あの人も常在戦場の理念があるのかな?」

「常在戦場の理念?」

「戦が始まって準備をするは3流、常日頃から戦に備えて魔力を制御してこそ1流。先生はこの理念を常在戦場の理念と呼ぶ、あの人も同じ類の理念があるのかな」

「魔力が霧散しない完全な制御を無意識でずっととか普通無理だよ」

「そうなの、まぁ僕も全身は意識しないと無理だしなぁ、無意識だと目だけ」

「目だけでも相当だよトラ君、だから魔力が見えたんだね」


 先生の理念はやれと言われて、一日二日で身につけれる物じゃない、僕とて最初にこの理念を聞いてから練習したが、全身を覆う制御はまともに出来た試しが無い。

 座った状態の集中してるとかなら一応可能っちゃ可能だが、普通に日常生活を送りながらは無理だ。先生は最低限でも目を覆う程度は常に魔力を制御できる様になれと言うので、それだけは必死になって修得した。


 ただステラはこの技術だけでも相当と言ってくれる……もしや先生は僕にその身に余る様な高度な技術を求めたのか? いやまぁ出来るに越した事は無いと思うが。

 10歳児に何を求めているのだろうかあの先生は。


「ティグレ、それにステラ嬢、何をぶつくさ話してる? 席に向かわないと」

「あ、はい」


 僕らがひそひそと校長先生の話をしていれば、エドガー君に声をかけられる。

どうやらいつの間に前は進んでおり、席についていた。僕とステラは足早にその机の方へと向かう事にした。

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