クラスメイト③

「後3人、どんな奴だろうか、一人はかの東の侯爵家フレデリカ家の淑女だろうが」


 僕らの話題はまだ来ていないもう3人のクラスメイトに入った、エドガーはその一つである、フレデリカ家に心当たりがあるようだ。なんでも東南部の大きな地域一帯を治める貴族でも大公様とも所縁ある家なのだとか、姫様といい、大層な身分を持った人ばかりが集められたクラスと言えよう。


「おっはー! 今日からこのクラスに入ります、ラティナ・クーエルでっす! 気軽にラティってよんでくーださいっ!」

「話題の人物の一人は来たようだね」

「嗚呼、随分と元気のいい娘さんの様だ」

「クーエルは首都で人気のレストランの名前だね、僕も言ったことがある」

「では、さだめしそこの娘さんか所縁のある人物であろうかね」


 ドアの方から教室全体に響き渡る、と言っても教室自体が狭いのでそこまで大きな声でなくても、響かせることは出来るだろう声が響く。明るい栗毛を側頭部でまとめあげているサイドテールと言ったか、いかにも元気は有り余っていますという雰囲気を持つ少女だ。

 

「残るは豪商シャンプー家の娘か」

「ステラ……か」

「そう、ステラ・シャンプーだったな、知り合いか?」

「大切な友人だよ」


 ラティナさんと名乗った少女はベリアム君の隣に座るが、僕らの会話を邪魔する事無く、姫様達の会話に参加していく。そしてこちらの話題は残る最後の一人。

 僕の文通の友人、幼馴染たるステラ、そういや文通返して無いな。どんな娘が来るのだろうかとエドガー君は言う、僕もこの5年でステラがどう変わったのか実に気になると言う物だ、手紙では何一つ変わった様子も見せてないが、さて……


「トラ君!」


 扉が開き、先生と彼女しか使わない呼び名が聞こえた、ああ、彼女が来たようだ。

そこには一人の少女が立っていた。肩で息をしてる所から、ここまで走ったのだろうまだ慌てる時間ではないだろうに彼女はこれほどにせっかちな子だったか?


 しかし子供心に昔から綺麗な青色の髪だと思っていたが、その髪は5年経った今も変わる事なく彼女の腰を超える長さでそこにあった、益体も無く眺めていた空よりも港に寄ってみた海の青よりも、美しい宝石でも出す事の出来ない程、綺麗な青色が。


「やぁ、ひさし、ぐえっ!?」

「会いたかったよぉ! トラ君」

「そりゃ、どうも、うおぉ、朝に食べたウィッチパンが飛び出しかけた」


 扉も閉めずに僕の方に駆け寄ると、いきなり鳩尾に飛び込んで来た、久しぶりの前に呻き声を上げる事になるとは思わなんだ、そこからは手紙が来なくて寂しかったや一緒に学園に通えるのが嬉しいだとか、抱き着いたままに僕に話しかけてくれる。

 

「ステラ、クラス分けを見たらいきなり駆け出すなんてどうしたの?」

「あ、リッカさんお久しぶりです」

「あら、キャシー、久しぶりね、これからよろしく」


 なおも抱き着いたままのステラの話を聞いていれば、最後の一人であろう少女が入ってきた、春になる前、厳寒に咲く椿と言う花に似た髪色の少女だ。

 他の子よりも背も高く、髪も姫様と同じくらいだ、どうやらステラの友人であると同時に姫様とも親しい間柄の様だ、そりゃこの状況で最後に来たって事は。


「あ、リッカちゃん、だってトラ君が学園にいるかもって思ったら、いてもたってもいられなくて」

「5年もずっと文通で繋ぎ止めてた相手だものね、気持ちは分かるわ、初めまして、私はフレデリカ・ハニート、ステラとは友人ですわ、貴方のお話も聞いてますよ。

本当に黒髪に黒目なのですね」


 だと思ったよ、それにステラの友人で僕の事も知っているとは、とりあえず挨拶をしたいのだが。


「ステラ、隣の席に座りなよ、正直暑いんだけど」

「や!」

「もう子供じゃないのですから、離れて上げなさいステラ」

「やー!」

「ステラ嬢は随分と、ティグレの事を気に入ってるんだな」

「まるで母親から離れたがらない赤ん坊の如き拒絶の仕方だ」


 ステラは僕に抱き着いたまま離れようとしない、いきなりの事で置いてかれていた

エドガー君とベリアム君がようやく硬直から溶けて、今の僕の状況とステラを話題にしだす、なぁ、見てるだけではなく助けては頂けないでしょうか。そして結局は。


「トラ君の隣~♪」

「引き剥がすのを手伝って頂きありがとうございます、フレデリカ様」

「いえ、いつも素直なステラがここまで我儘を言い出すなんて、余程ですね」


 机と机の間には人が通れるスペースがあるが、そのスペースは僕とステラの間には存在せず、ぴったりと机がくっついてる状態だ。なんとか僕とフレデリカ様の必死の説得でこの形で我慢して貰った結果だ。おかげかフレデリカ様とステラの間だけが、不格好に開けてしまっている、先生が来たら怒られるだろうか。 

 当のステラは実に満足そうな顔をしてるので、言われるまではこのままにしておくのが面倒がない事だろう。


 そんな一悶着をしていれば、教室の扉が誰かの訪問を告げる音を立てた。






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