クラスメイト②

「ふぅ……」


 初めから姫様に挨拶をされると言う展開を乗り切り、椅子に深く腰掛ける。

思わず腰に手を伸ばしいつもの奴をずらそうとしたが手は空を切る。

 いつも差している物とは先生からの大切な頂き物である刀の事、先日冒険者資格もあるので、街中で不要な抜刀さえしなければ差しても大丈夫とハンナさんから聞いたので無くさぬ様にと差していたが、学園では刀は目立つと言う事で、質屋で刀を厳重に保管できる箱と鎖と鍵を購入し厳重に閉まっておいてある、更に具現化した紐を滅茶苦茶に巻きつけたので、早々奪い取る事は出来ないだろう。


「失礼! 前の席を使うが、そこから黒板は見えるだろうか」


 そんな益体も無い事を考えてぼんやりと外を眺めていたら、前の席にはいつのまにやら人が座っていた様で、僕に声をかけて来た。

 煉瓦の様な赤みがかったくすんだ茶色の髪、僕同様に切るのが面倒なのだろう少し長くなった髪を下の方で結んでいる、口調と服装からして男であろう。

 春と言うのに日に焼けた肌をしている、いかにも外で遊んでますという風体だ。

ああ、そうだ質問には答えないとだよな。


「大丈夫、見えていますよ」

「ならばよし! 急に話しかけて悪かったな」

「いえ、お気になさらず」

「折角だ、話でもしないか、どうもただ待つのでは退屈でな」

「いいですよ」

「そうか、ならば、まずは互いの名前を知らないとな、俺はエドガー・ファーブルと言うんだ、よろしく」

「僕はティグレと言います、よろしく」


 質問に応え終わった後も、エドガー君と名乗った少年は僕になおも話をしようと続けた、席が前と後ろとはいえ隣り合った者同士で、何も話していないと言うのはどうにも気まずいと言う物で、彼の提案に乗る事に。

 彼はどうやら男爵家の次男坊の様だが。貴族であろう事を感じさせる事のない気風をしている、所作に礼節を感じないからだろうか? 

 制服の着方一つとっても詰襟が窮屈なのだろう、最初の一つ目のボタンを外すなど着崩していた、次第に僕は彼に気を許し。


「君はデミクス出身なのか、あそこの砂糖は家族皆好きでな、兄も義姉と喧嘩した時はしょっちゅうデミクスの砂糖を使った菓子を買い付けていた」

「そうなんだ、ファーブル領は何をやってるところなんだい?」

「俺の領地は林業が盛んでな、どこにいっても必ず森があったもんだ、周りの貴族連中は森ばかりの田舎領地だと言うが、俺も家族も自然の多い領地を愛している」

 

 敬語を使うことなく話すようになり、気兼ねなく話せる様になっていた。

僕達が地元についてを話していれば、エドガー君の隣の席の椅子が鳴る。

どうやら新しい人が来た、エドガー君も気になりそちらを向くと知り合いなのか声をかけている。


「ベリアム、名前を見て知っていたが、試験に受かっていたんだな」

「やぁ、エドガー君、まぁね、君の方も無事に受かっていてよかった」

「エドガー君、彼は知り合いなのかい?」

「ああ、その通りだ、彼はベリアム・ドイル、何度か社交界等で会った事がある」


 落ち着いた雰囲気を持った少年だ、それに会う様に茶髪もやや色味が落ち着いた感じのものをしている、エドガー君が彼の名前を僕に言った後に、彼自身も会釈をし自分の名前を名乗り始める、ベリアム君は子爵家の長男、次期当主だそうだ。

 彼は所作も見目も丁寧という形容詞が似合う佇まいをしている。整髪料を使い髪をきっちりと整えてる辺り、僕やエドガー君の様に見目に無頓着では無さそうだ。

 自己紹介も終わった所でベリアム君も交えて、3人でしばし会話を楽しむ事に。


「しかしあれだね二人共、僕が怖く無いのかい、かの伝説に名高い大罪人と同じ黒髪を持つ男だよ、ここに来るまでも大分冷たい目線を浴びたもんだが、さだめし教室でも同じ様に針で刺すような目線を受けると思ったよ、それが蓋を開けたら、これだ」

「ああ、俺はどうにも迷信や俗説、存在が不確定な類なんかは信じれん性質でな、己の目で見た物を信じる! それが俺の信条なんだ、少し話した程度だが、君は良い奴だ、恐れる理由など何処にある物か」

「エドはそう言う所がある、まぁその思い切りの良さは好ましいよ、僕がティグレ君を怖がらないのは、僕の領地は他所の国からよく人が来る湾岸都市が多くてね、黒髪の外国人は幼いころから見て来た。それを今更どう恐れるか、逆に教えて欲しいね」


 僕は二人の話を聞いて思う、先達だけでなく同輩にも恵まれた物だ、つくづく幸運と言えるだろう。


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