合格通知と大陸浪人

「そろそろ……試験の……結果が来ても……可笑しく無いな……おかわり!」

「食べながら喋るなよ父さん」


 冒険者の宿、遅い昼食を父さんと取りながらそんな話になる。試験が終わって3月も第三週、そろそろ結果が来てもいいだろうというある日の事である。


「失礼する、ここにジャガーとか言う、赤毛の男とその息子がいると思うんだが」

「はいはーい、いますよ、何かお二人にご用事ですか?」

「ええ、メリエル学園からひとつ手紙の方を」


 普段はこの時間、鳴る事が滅多に無いドアベルが店内に響いた、そこには学園で僕の実技試験を受け持っていた無精ひげの目立つ教師、クアードさんがいた。

 クアードさんはこちらが見えてないのか、真っすぐ受付へと行き、受付のお姉さんに声をかけている、毎日いるけど休みは無いのだろうか。


 受付のお姉さんは僕達の方を手の平で示して、それでクアードさんが振り返り僕達の席へと近づいてきて声をかけて来てくれる。


「っよ、先週ぶりだな、ティグレ、そしてジャガー本当に久しぶりだな」

「おう、何年振りだ?」

「お前が西邦から発ってから、10年以上は経っているな」

「そんなもんか、で、昔話を俺としようって来た訳じゃないだろ」

「勿論だ、ほれティグレ、試験結果の通知書だ」


 クアードさんは僕に挨拶をして、父さんをなんというか懐かしむと同時に渋い顔で見つめる、父さんの方は意に介さずと言った具合だ。二人はどういう関係なのだろうか、さだめし友人と一括りに出来る関係とはまた違いそうだが。さて、通知書か。


 目の前に封筒が一つ、これを開けば僕の未来が決まっているのか……


「さっさと開けよ、生唾呑み込んでたって始まらんぞ、ティグレ」

「あ、っちょ、父さん!?」


 開けるのを躊躇っていれば、父さんがそれを掻っ攫ってしまい、ステーキを食べていたナイフで封筒を開けてしまう、っちょ、ステーキのソースが中身につくだろう!


「……やったな、ほれ」

「ジャガー、おまえって奴は」

「あ……」


 父さんは僕よりも先にその書類を読み上げてから満足げに笑みを浮かべ、書類を机に放り投げ僕にもそれが見える様にする、書類の端がステーキのソースで茶色に汚れてしまっているが、そこには確かに合格の二文字が書かれた書類があった。


「よかった、合格したんだ」

「まぁ、ちっとも心配してなかったがな」

「お前はそういう奴だったな、一緒に大陸浪人してた時も、なんとかなるで突っ走りやがって、尻拭いはいつも俺の役」

「10年以上前の話を蒸し返すなって」

「いーや、やっとこうして会えたんだ、愚痴くらい言わせやがれ」


 僕が書類を見て安堵していれば、いつの間にかクアードさんが椅子を持って父さんの前に座って昔話と言う名の愚痴を言い出した、大陸浪人とは一体なんだろうか?

 その答えは愚痴の中に混じっていたし、尋ねれば教えて貰えた。


「俺もジャガーも元は軍属でな、こことは別の大陸の文化や外交状況、世論と世情、そういうのを調査して報告する諜報員って奴をしてたのさ」

「へぇ、父さんもなの?」

「まぁな、ただ俺はネイコを嫁に貰うと決めた時に、浪人辞めて軍も抜けたな」

「思い切りのいい奴だよ、で、聞いた話だがその後に教師を勧められたのに……」

「貴族のガキ共が生意気過ぎて拳骨落としたら即座に辞めさせられたな!」

「本当、おまえって奴は考え無しと言うか……」

「結局は旧友のデミクス頼って冒険者、まぁ冒険者がなんだかんだ性に合ってるわ」


 父さんは昔から父さんだったんだなと思わせる昔話である、そんな思い出話の邪魔をする事も無いだろうと、渡された書類の確認をしていく、制服注文書類、学生寮登録書類。学費……年間20万ディル!? 父さんこれ大丈夫か?


「と、父さん、学費は出せるんだよね、年間20万ディルって、それに制服や学生寮の費用とかもかなりすると思うんだけど」

「んあ? 学費の心配はいらないって言ったろ、そんくらいなら貯金もあるし、問題なしだ」


 うちの父さんって冒険者だけど、どれだけ稼げるのだろうか、今度図書館で調べるなりしたら年収について出たりしないだろうか。


「随分稼いでるな、だが制服は多分数回は替える事になるぞ、この歳の子供は成長

が著しいし、学生寮も年間で学費と同じくらいするぞ」

「制服は考えがあるから平気だが学生寮の方は厳しいな、レオンもサーバルも学生寮住まいなんだよな、メリエルって全寮制だっけ?」

「メリエルは全寮制じゃないから、安く下宿出来る所に下宿でもいけるぞ」

「なら、そっちも考えがあるし大丈夫だな」


 父さんの考えか、馬に乗って首都に行くという考えは良かったが、今回の考えも同じくらいベストな発想である事を祈るばかりだ。


「クアード、今から昼飯なら気分がいいし奢るぜ」

「なら、奢って貰おうか」

「僕、昼の鍛錬に行くよ、書類は部屋に片づけておくね」


 そろそろお腹も落ち着いて来た所で僕は席を外す事にする、父さんはまだ食べるぞと三度のおかわりをそしてクアードさんにお昼を奢るそうだ。

 さて、明日からは入学の準備か……

 

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