教師、生徒を選考する(後編)
「選考は終わったかな?」
最初の姫様の一悶着が片付いてから、俺含む教員全員が紙束とにらめっこを始めてから数時間が経過して、それぞれが紙束からいくつか選り分けたのを見計らい校長が声をかけてくる、俺は出来ている、というより、一番早かったんじゃないかな。
「では、クアード君から選んだ生徒を読み上げて欲しい」
「分かりました」
校長は俺に一番手を渡した、他の教員特に貴族と関係のある連中が再び俺を恨めしそうに睨んでくる、というのも生徒は取り合い早い者勝ちだ、俺が呼んだ生徒は後の教師が欲しいと言っても手遅れと言う訳だ。
「フレデリカ・ハニート、エドガー・ファーブル、ベリアム・ドイル……」
この三人の名前が出た時に苦悶の表情をしながら、やはりかと言ったり。惜しいが仕方ないか、姫様と机を並べるには家督もまぁ相応しいだろうと言う声もする。
この三人は学科試験で高い得点を叩き出している、それだけじゃなく、実技試験の方も別分野での学科試験を所望したという報告もある。そちらも高得点。
「ラティナ・クーエル、サラナ・アードラー、メリア・カマンベール……」
次に並ぶ名前にも関心する言葉が上がった、浪人上がりの癖に見る目はあるようだと聞こえる、審査の才能持ってるからな、人を見る目はある方だよ。
この三人も上三人程では無いが学科試験は優秀だった、実技でも特異な才能を見せた様なので加えた。
「マグノリア・ハイマン、ステラ・シャンプー…………ティグレ」
最初の二人の名前が出た時は、ハイマン家の女傑の娘を選んだかと言う声と。
メリット家と密接な関係にある豪商シャンプー家の娘か、認めたくないが確かな目だと言われる、どちらの家も貴族連中の間で有名人だからな。
ハイマン家は公家の護衛や陸軍将校、新設された部隊の大隊長と所謂、軍人家系でどこそこで盗賊や山賊を倒しただとか、魔物を倒したという報告が新聞で見ない日は無いくらいだ。
ただ、そこの娘だからというだけでは無く、唯一女性で武術の実技を選んだ為、俺が特別に試験官をしたところ、同年代の男性にも引けを取らない才能を見せて貰ったと言うのもある。
シャンプー家は5年前からメリット領を本格的に拠点とし業績を伸ばし続けている豪商ともいえる家だ、シャンプー商会独自の美容商品は公国の女性にとってなくてはならない存在だとか、勿論それ以外の品を見定める目も確かで手広くその商売を広げている。勿論、こっちもそこの娘と言う訳では無く、尋常じゃない数の才能を実技で見せつけて、学科試験こそ99位とギリギリだが、この才能の塊を手放す事は出来ないと思い選ばせて貰った。
そして。
「以上になります、異議についてお受けいたします、校長からは」
「ふむ、選考基準はどうなってるのかね?」
「学科試験の成績、特異な才能等の有無、自分が実技試験を受け持った上で評価に値すると感じた者を生徒としました」
「うむ、選考基準も悪くはない、私からの異議は無い、クアード君それでは……」
「お待ちください校長!」
俺の選考基準に校長は文句も無さそうなので、このまま後は合格通知を用意するかと思っていれば、勢いよく一人の女教師が立ち上がる、貴族じゃないがそれなりに勤めてる教師だったかな。婚期を完全に逃している厚化粧のババアだ。
「クアード先生が最後に呼んだ受験者は家名も持っていない平民でございます、姫様とその様な者が机を並べるだなんて、この選考はいかがなものと思います!」
「私からも失礼、そのティグレという少年はかの大罪人と同じ黒髪だそうだ、学園の生徒には相応しいとは言えませぬ」
「…………ですな、他の生徒の学習意欲や士気に関わるかと」
女教師の面倒な文句の後に、校長の席に近い俺より若いが勤務歴は長い教師が立ち上がり更に異議を申し立てる、そして俺の体面に座る、顎髭だけ残った禿げ爺も椅子にふんぞり返ったまま髭を撫でながら、思案顔でそうのたまう。
彼ら三人の異議と言う名の文句の後に、我が校の品格が損なわれる! 彼には才能が無いそうだ、なのに何故! 所詮黒髪だ中身も伴わない奴に決まっている!
だとか文句とティグレの人格まで否定する様な言葉をガタガタ騒ぎ抜かし始める。
「静粛に、クアード君、彼を選んだ理由を詳しく頼めるかな?」
「学科試験、国語と算術で順位を落としていますが、融通語は満点を出しています」
「ほう、理事長と私で苦労して満点をとらせまいと作ったあのテストをか」
「意地悪いですね校長、実技にしても、あのサモエド家の子息を相手に圧勝です」
「代々ラファエロ流刺突剣術を治める武門の家の者をか、それは凄い」
「私の口から出なくてもこれらの事はお手元の報告書を見て頂ければわかる筈です、皆様報告書に関しては融通語では書かれておりませんが、もしや老眼です?」
校長が尋ねるので、報告書に書いてある事を読み上げてやる、俺は嘘っぱちだけは絶対に書かないんでね、ついでに小馬鹿にしてやろう、貴族も名ばかりでつまらねぇ奴等ばかりになったんかねぇ。
「しかし、彼は黒髪……」
「我が校では、学問を志す優秀な若者に対してその身分、出自、経歴その他を問わずその門を閉ざす事なかれと理事長が仰っております、貴方はその理念に反対と?」
「うむ、クアード君もとい理事長の言う通りに従えば、実力のある彼を入学させない理由は無いね、異議は無いとして、クアード君、合格通知書を用意するように」
「校長先生の言う通りに、それでは早速、失礼します!」
まだ食い下がろうとする、最初に口を開いた女教師に理事長の言葉を借りて黙らせる事にする、少々選民思想こそ強いが姫様を案じてる事から熱心な公国信者だろう、理事長は大公でもある。その人の言葉で黙らないと言う事は無いだろう。
ようやく全員黙った所に校長が他の者に言い聞かせるように俺へ命じてくる。
そんな訳で、こんなガタガタうるさい奴らの元はさっさと逃げて仕事しますか!
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