教師、生徒を選考する(前編)

※主人公以外の別視点のお話※



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「先生方に集まっていただいたのは他でもない……」


 大会議室の一室に俺ことクアード・リンガル他9名の教員が席に付き全員が見渡せる席に座る眉以外の毛髪を全部剃り上げてる、つるっぱげのおっさんを見る。

 この人はメリエル学園の校長、そして校長は俺達全員が話を聞く姿勢が整ったのを確認してから話を始める、勿論その内容は。


「先生方にはクラスを受け持って貰おうと思っていましてね、此度の受験者の選考を一緒に行って頂こうと思う、既に理事長と私で大雑把に選考はしている」


 会議室の扉が開き教員の一人が入って来る、そして俺達教員一人一人の前に校長が用意したであろう紙束を置いていく、選考したにしては中々の量だなこりゃ、考えるのは大変そうだ、なんたって今年は……


「受験者412名、そこから184名をこちらで既に選考している、選考基準は学科試験の順位としている、同率も入れて100位以内ですね」


 412名、開校以来最多受験者数と言われる今年、まぁそれにも理由がある訳だが。


「校長、少しよろしいですか、今年は大公様の娘たる、キャサリン様が我が校に入学すると聞いてますが、公女様は誰が受け持つか等は」

 

 校長に一番近い席に座った頭髪が後退し始めているおっさん先生、この中で一番の最年長が、受験者最多の理由である人物の処遇についてを校長に尋ねる。

 今回の受験者が最多になった理由の人物、大公の娘、キャサリン・メリエルの入学

この噂が流れた事が一番の原因だろう、貴族も商家の人間も大公の娘と同じ学園で勉強を受けたという箔とあわよくばいい仲になればと受験させたと言う所だろう。

 キャサリン姫は大公夫婦の間に遅くに生まれた一人娘と言う事であり、溺愛されており、また男兄弟が上に三人いて、そちらにも大分甘やかされて育ったという話だ。

 さぞかし我儘な娘なのだろう、受け持ちになりたかないな。


「うむ、それなのだが、クアード君」

「は、はい!」

「君にキャサリン様を受け持って貰いたいのだが、頼めるかね?」

「は、はい! って、え!?」


 急に呼ばれて紙束と一緒に出された、豆茶をすすっていたら急に呼ばれて驚く。

しかもその内容が、姫様のお守役だと言うのが更に驚く。そもがクラスを受け持つのも初めてだってのに、何だって俺がと思い校長に尋ねれば。


「君の受け持ち科目は融通語だったね」

「ええまぁ、校長よりこの仕事を紹介されて、3年程教えさせて頂いております」

「姫様は外の国に関心がおありでね、将来は何らかの形で外交をと志を高くお持ちだ大公様もその大望を応援したいと仰っていてね、それならばと君を推薦したのだよ、元大陸浪人の君ならば、融通語だけでなく諸外国の地理にも詳しいと、それを話せば是非、交流を深めやすい様に其の者を娘の担任にとね」


 校長もまた余計な事をしてくれる、しかも大公様直々の願い、断りづれぇ。

周りの奴らは俺を睨んでいる、ここに座る教員の多くは父親が貴族で次期領主を狙う者、領主の次男等で無駄に高いプライドを持っているような奴が半数、そんな奴等がただのぽっとでの男に重要なポストを掻っ攫われたとなれば。


「浪人上がりには荷が重いのではないのかね? 私に任せて頂ければ」

「いえいえ、由緒ある貴族家を継ぐ私こそ、メリエル様の担任に」


 俺に含み笑いや嘲笑をしながら、その役目から降りろと暗に伝えて来た。

これが、なら、ここの教員共に不遜な態度をしながら散々馬鹿にしてから、是非やらせてください! とでも言うのだろうか……久々に会ったからだろう

 あのちょっと面白ければ破顔する旧友の顔が浮かぶ、俺もアイツに倣うか。


「断ろうと思いましたが、気が変わりました、これを栄誉と思い姫様に私の知る事の全てを教えるつもりで当たらせて頂きます。『融通語の一つも理解出来ない馬鹿共に任せては我が国の未来の外交官の芽を潰す事になりましょうからね』」


 校長は俺の言葉に目尻を下ろし、喜び頷く、そして先ほど俺を笑った奴らにあえて融通語を使い喋りアイツが誰かを馬鹿にするときにする下品な笑みを浮かべてやる。

 言葉こそ分からないが、馬鹿にされてる事は伝わってるようだ、顔が赤いぞ。

校長先生は融通語が出来るので俺の悪態が分かっているが、何も言わずに顔を伏せている。肩が震えてるのでおそらく笑いをこらえているのだろう。そして耐え終わった校長はようやく全員の顔を見てから俺に顔を向ける。


「キャサリン様についてはこれで決まりだ、では次に手元の資料と報告書を見て自分の受け持ちたいと思った生徒を10名選出してくれ、あ、クアード君は9名ね」


 さてと、次は姫様以外の生徒の選考か、どうしよっかなぁ、面白い奴がいればいいんだけど。






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