模擬戦、貴族の少年ルーズ・サモエド

「そこまで! 武器を下ろし模擬戦止めっ!」

 

 模擬戦はつつがなく進行していった、僕のグループは10名程で現在はそのうちの二人が僕達の前で模擬戦をしていた所だ、それも丁度終わり。

 どちらも剣を使った流派だが、決定打は一度も入らずで終わっていた。


「それでは次、受験番号297番と……受験番号32番、前へ!」

「押忍! ……じゃなかった、はい!」

「っふ……はい」


 僕の受験番号が呼ばれた、勢いよく立ち上がり返事をするが、いつもの癖で先生への返事の仕方をしてしまい、慌てて言い直す。僕の隣にいた子が立ち上がる。その子は教室を出る時に僕に話しかけて来た子だった。その子は僕に向かって鼻で笑った。

 僕が相手だと油断しきった顔だ、その油断命とりだって教えてやる。


「まずはお互い、ヘッドギアを装着、それと武器が必要なら申請を」

「では、刺突剣を一つ貸して頂こう」

「僕はこちらを」

「…………わかった、それでは、両者名前を」

「サモエド伯爵家は子息、ルーズ・サモエドだ」

「……ティグレ」

「それでは、両者構えて……」


 ヘッドギアを装着してから、ルーズと名乗った彼は先生から渡された刺突剣を軽く素振りする、稽古着に汚れ一つも無い事からさだめし大切に扱ってる事だろう。

 僕の方は手のひらに作った握れば隠せる程度の小さな棒だ、まぁ細工はしてるが。

 クアードさんは僕等の武器の確認を取り終え、準備が出来た事を見てから、構える様に言ってくる。ルーズ君は刺突剣を持つ手を少し前に、僕は棒を持つ手を腰だめに握り、もう片方は手刀を構える、そして……


「始め!」

「っふん、まともな武器も持たずにどうするつもり……っが!」


 クアードさんの声と同時にそう言いながら、僕に突撃を始めるルーズ君。

真っすぐ来る突撃は実に分かりやすく、その攻撃は少し体を横にするだけで避ける事は容易なものであった、そして、避けた後、僕は手刀を刺突剣を持つ手に下ろす。

 その痛みに耐えきれず、刺突剣を持つ手が緩み手放した、これが狙い。


僕は手放された刺突剣をすぐさま蹴り飛ばす、得意じゃないが強化魔法で脚力を強化しながらすれば、刺突剣はおいそれと取りにいけない場所まで飛んで行ってしまう。


 先生の教えの一つには格闘術もある、先生の格闘術は相手の武器を奪う、失わせる事に特化した術だ。今回は手刀だが、手首を捻り上げる、剣の側面を両の掌で挟む等様々な方法で武器を奪い取る方法を教えて貰った。


「私の刺突剣を足蹴にするだと、貴様ァ!」

「藪蛇!」

「ッぐあ、な、何故いきなり、棒がッ」


 剣を失い、こちらを睨みつけるルーズ君に僕は容赦せず追撃を行う。先生は格闘術を実は推奨していない、得物を持って戦った方が断然有利だし強いに決まっていると断言する人だ。


 なのでその教えに則り僕もすぐさま既に持っておいた縮めた長棒を伸ばす。蟷螂を編み出した時に一緒に編み出した技、形状を自由自在に変えれるなら縮めて置き後から伸ばす事が出来るのではと思いやってみれば出来た技。


 握りこぶしに隠した長棒の一撃は藪に隠れた蛇が噛みついて来る様だと思ったので技の名前は藪蛇とした。藪蛇の一撃は鳩尾の中心にこそ当たらなかったがそれなりにダメージは与えれたようだ。


「っく、試験官、もう一振り刺突剣を寄越せ!」

「試合中に追加の武器を貸し出す行為は認められていない」

「っかは、こいつは持っていなかった長棒をいきなり出した、申告していない武器の使用は反則では無いのか! っぐふ、喋っているに関わらず何故攻撃をする!」

「確かに申告時と形状を変えるとは思わなかったが刃の無い長棒であれば比較的殺傷性が無いと判断する、よって反則としない、模擬戦を続けろ」

「なんだと、っが、っぐ、っぼ、こ、このいい加減にッ!」


 ルーズ君はクアードさんに武器を求めるが、クアードさんがそれを拒否する。

続けて僕の長棒が反則では無いかと難癖をつけるが、反則では無いみたいだ。

 その際にルーズ君は途中僕に攻撃を辞めろと言うが、誰が戦闘の最中に手を止める馬鹿がいるだろうか。ちゃんちゃら可笑しい文句をいう物だ。

 さて、このまま残りの時間、ルーズ君に剣を持たせずにいければいいが。


「っせい!」

「っは、大ぶりの突き、これが好機だッ!」

「させるか、蟷螂!」

「っが………貴様ァ、武器を足蹴にするだけでなく、この私に土を塗るなどッ!」


 時間もおそらく5分が近づいた時、僕は大ぶりの突きを繰り出す、勿論狙いは生えて来る長棒攻撃、僕一番のお気に入りの技たる蟷螂だ。横跳びで躱しながらルーズ君が転がっている刺突剣の下に走ろうとするところに追撃を加え、思いっきりその身体は地面へと叩きつけられグラウンドの土をつけ、白は茶色に染まってしまう。


「もう許さん、私を本気にさせた事を後悔させてやる」

「何をするつもりだ……それはッ!」

「止めッ! 魔法を解け! っく、遅かったか」

「平民風情が貴族を舐めているから、そうなるのだよ!」


 先ほどまでの長棒の猛打でふらついてはいるものの、ルーズ君は立ち上がり持っていないにもかかわらず刺突剣を持つ構えを取り始める、そして構えた手に紫色の魔力が集まっている、拙い、そう思った時には遅かった。長棒で防いだにも関わらず長簿は細切れになる、致命傷を避けるべく身体を無理矢理捻じろうとする、クアードさんの制止の声がする。しかし、それよりも早くその紫の刺突は僕の脇腹を抉った。




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