実技試験

「メリエル学園の試験を受けに来ました」

「……受験番号を確認しました、297番様は実技試験は武術を指定されていますね、学園内のこちらの教室で試験までに動きやすい服に着替えをしてお待ち下さい」


 受験二日目、父さんに送って貰い、受付で前回受け取った受験番号の札を見せる。

指定された教室に行けば、この前の仕立てのいい服とは別に動きやすそうな服に着替えをしている子がそこにはいた。


 実技試験と言う事で、さだめし自分の流派等で来ている稽古着などに着替えているのだろう。僕は先生から稽古着等は預かっていない、この前の学科試験と同じフード付きパーカーに適当なズボンと運動用の靴。着替える手間が無いので時間が来るまで一つ椅子を借りて座り待つ、相変わらず冷たい視線が刺さるなぁ。


「実技試験を受ける受験者、着替えが終わった物からグラウンドへ集合!」


 男の先生が入って来て、その一言を言ってすぐに出ていく、さてと行くか。

着替えも無い僕はその言葉と同時に席を立ち、足早に教室を出ようとするが。


「貴様、伯爵家たる私より先に部屋を出るなど、どこの家の物だい?」

「特に家名などはありません、いきなりなんのごようでしょうか?」

「平民が、誰よりも優先される貴族を無視してよいのか? 更に言えばその不気味な黒髪、メリエル学園を受験する等、おこがましいと思わなかったのかい?」


 紫髪をした僕よりやや背の高い少年が声をかけてくる貴族と名乗る彼は僕が家名も持たないと知るやいなや路地に捨てられたゴミを見るような目に代わり。偉ぶり始め僕にいらぬ説教をしてきた。


「メリエル学園は、学問を志す優秀な者であれば、誰であろうとその門を広く開けているとききます、、私がどうなるか決めるのは試験官ですよ」

「そんなのは建前さ、ここは由緒正しき貴族も通う名門メリエル学園だよ。君みたいなのは、いくら試験で結果を残そうが、不合格が決まってる、まぁ精々私の引き立て役になってくれたまえよ、ではね」


 彼は僕を押しのけて、部屋を出ていく、何ともわかりやすい矜持の強い男だ。

さだめし自分に自信があるのであろう。さて、僕も行くか。



――――――――――――――――――――――――――――――――――



「集まったな、えー、この度の試験官を勤める、この学園の教員の一人。クアード・リンガルと言う、今回の武術の実技試験は総勢186名と過去に見ない希望数になっている、メリエル学園は文武両道を掲げているからして、君達はその理念に最も近いと校長や勿論理事長も期待している、さて、今回の試験内容だが……」


 グラウンドには僕以外にも沢山の受験者が並んでいた、これ全員がライバルか。

そして、目の前にはジャージを着て、僕の様に髪を切るのが億劫なのだろうか茶髪を総髪にした、顎に無精ひげを生やした男性が経っていた、父さんより老けてる感じ。

 その先生は今回の試験内容について説明してくれるが、それは意外にも。


「今回受験者の数に対して、試験官が足りず模擬戦を行うのが難しいという為、受験者同士の模擬戦を試験官が審査するという形を執り行う事になった、今からグループを作るのでその通りに別れて欲しい、それでは試験番号……」


 受験者同士による模擬戦……か、これは僕にとって優位なのかもしれない、先生が言うには僕は同年代の子と比べれば強いそうだし、試験官と模擬戦を行うよりも効率よくアピールが可能だろう。そう考えていれば僕の受験番号も呼ばれる、8グループ目、試験官は目の前のクアードさんであった。


「模擬戦のルールについて詳しく説明をしていく、よく聞くように、まずヘッドギアを身に着けた上で顔面、股間等の急所への攻撃の禁止、次に殺傷性のある魔法の使用禁止、制限時間は5分、これを過ぎての戦闘行為を行わない事、武器については殺傷性についてこちらで確認し許可したものであれば自前でもいいし、用意した物を貸し出す事も出来る、いつでも言ってくれ、以上だ」


 こうして実技試験もようやく始まるのであった。









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