試験の合間の一幕

「で、どうだったさ、学科試験の方は」

「僕は歴史と地理でも無い限り、出来る方だからね、自信はある」

「ほーん、寧ろなんでその二つが出来ないかを知りたいね」


 学科試験が終わった昼過ぎ、遅めの昼食を冒険者の宿で食べながら父さんは試験の出来についてを聞いて来る、僕は数学も国語も融通語も出来る方だ、先生と毎日稽古と別に昼は座学をやらされてきた賜物という物だ。

 

 父さんは歴史と地理について苦手な理由を聞いて来るが、歴史は簡単。

この国の歴史は大罪人の持つ黒髪への制裁、断罪が随所で彩られている、学べば学ぶ程に自分の事を否定されてる錯覚に陥るような勉学を誰が好き好んでやるかと声を大にして先生に一度言った事すらある。そんなもんだからそれ以降、先生が歴史を無理に教える事は無くなった。


 地理の方は単純に物覚えが悪いだけだ、そもが地図の見方と現地の人と行動を共にするとかさえ出来れば覚える必要なんて無いだろうに。面倒だ。

 そんな風にぶつくさ言えば、父さんと言えば。


「いやいや、地理は大事だぞ、遭難とかした時、地図が無い時は自分の地理で学んだ知識が物を言うんだからな、歴史はまぁうん、ヨミも頭抱えてたなぁ」

「遭難する予定何て今もこれからも無いと思うんだけど」


 父さんの何とも万が一を考えすぎた意見を聞くことになるのであった。

やがて昼食を食べ終えた僕は明日に控えて午後は裏庭で鍛錬をする事に。

父さんはどこかへ行った、さだめしどこかの通りでやってる盤戦等の勝負の観戦でもしてる事だろう、よくも飽きないと言う物だ。


「…………ふぅ」


 具現化魔法で作る長棒を振るう、メリエル学園の実技は先日貰った受験用紙に書き込む場所があり、希望する実技試験を選ぶ形で会った。その中で最も僕が得意とするのは先生から習った武術だけだろう、ただおそらく相手するのは。


「何らかの武術に秀でた才能の持ち主か」


 騎士や冒険者を雇うと言う事は実力は向こうの方が上に決まっている。

どれだけ長棒を振るっても足りない何て事は無い……試験である限り、本気で殺しにかかる訳はない筈、自分が持てる全ての力を出し切る事が大事な筈だ。

その為にも納得がいくまで長棒の素振りを……


「坊主、精が出るな」

「!? どちら様ですか」

「武器を向けないでくれよ、遅めの昼飯ついでに食後の運動と思ったら、坊主がいたんで声をかけただけだ、俺はデカール・ハイマン、坊主は?」

「ティグレです」


 突如、背中から声をかけられる、驚いて長棒をそちらに向ければ、両手を上げる男がそこには立っていた、服装は軍に所属する人が付ける犬の徽章に紺色の制服つまりこの人は軍人、どこの所属かまではこれだけじゃわからない。

 髪は短く整えられていて髭も綺麗に剃っており、清潔感のある男性だ、歳の頃は父さんより若いと言って差し支えないだろう顔つき。


「武器を向け申し訳ございません、その徽章、軍人ですよね」

「分かってくれれば構わないさ、その通りだ、公国犯罪警邏視察部隊、通称警察隊。新設されたばかりだがそこで第一部隊の大隊長をやらせて貰ってる」


 デカールさんは自分の所属を名乗ってくれた、公国犯罪警邏視察部隊。昨今、他所の国から来た外国人による犯罪、またはその逆で外国人を狙った犯罪の件数が増えた事に際して公国が設立した犯罪者の捕縛、調査に特化した人物を集めた捜査のプロ集団が確かそうだったんだよな、母さんとこれで犯罪が減ればいいわねと新聞を読みながら話をした記憶がある。


「ティグレは珍しい武器を使ってるな、うちのボスが似た物を使うが」

「ああ、これですか?」

「そうそう、なぁ、ちょっと振るってみてくれよ」


 デカールさんは、僕の持つ長棒に興味を持ったのかそれを振るう姿を見せて欲しいと行って来る、食後の運動とやらは良いのだろうかと尋ねれば、それは後で幾らでも出来るからと言うので、デカールさんの言う通り、長棒の素振りを始める。


 この際、素振りはとにかく早く振るう事を意識するのではなく、正しい型で振る事が出来ているかを意識し確認するように振るう様に先生に言われている。

 どうしてかと言えば、先生曰く素振りは実践で崩れてしまいがちな型を矯正、調整する為にある物なのだそうだ。実践では早く振る為、当てる為と傾いたり、そもそもが正しい型のまま振るい当てるのが難しい、じゃあ正しい型なんていらないじゃないかと思うが。


 それとこれとは別で、そうやって傾いたままの振り方をそのままにしていれば逆に隙の多い、癖の強い型になってしまう。そういった癖を矯正、調整する行為。

 それが、先生の言う素振りの本質という物らしい。


「構えも振るう姿も足運びも隙が無い、よく鍛錬を積んでいるな」

「ありがとうございます」

「その歳じゃ魔物退治をする冒険者って訳じゃないだろうし、メリエル学園の試験か?」

「そうですね、武術の実技試験の予定ですので」

「その調子なら、しっかり試験官の印象も残せるだろうな、当日もその調子でな」


 現役軍人からのお墨付きともなれば、少々自信を持っても良いだろう。

才能が無くても僕ならやれる、送り出してくれた母さんや先生の為にも。

 明日は頑張らないとな。

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