試験開始

「起きろ、今日は試験当日だぞ、遅刻したら、今までが水泡だぞ」

「もう起きてるよ、起きるのは父さんの方だろ」

「うぉ!? なんだよ、今日は折角早起きしたのに、それ以上かよ」


 受験の受付をして、早数日が経ち、試験の当日が今日となった日、その日まで先生から預かった本や、街の図書館や本屋で借りた本の内容を頭に詰め込んできた。

 勿論、先生がいないからと鍛錬を怠る事もしなかった、幸い冒険者の宿には鍛錬を出来るスペースとして裏庭があるので、そこで素振りをさせて貰っていた。


 そして今日は試験もあるというので、朝の稽古はいつもより早めに始め早めに終わらせた所で父さんが僕が普段起きている時間に僕のベッドに声をかけていた。

空っぽなのにね。


「今日は学科試験だけで、翌日が実技試験だったな」

「そうだよ、別に父さんは遊んできてもいいんだよ、学園への道は覚えてるし」

「ばっきゃろう、せめて正門までついて行かせろよ」


 手早く身支度を整え、朝食も取り終えた父さんと僕は学園への道を時間にも余裕がある為、非情にゆっくりと歩いている、ここ数日の父さんは街中の冒険者の仕事を

軽くこなした後は、路上の盤戦だったり、食べ歩きと割と自由に過ごしていた。

 受験の勉強をしている息子を遊びに誘うのはどうかと思うがね。


「さて、ついたな、しかし今年は一般公開は無しか」

「今年の受験生は例年の倍以上だから混乱を避ける為に一般公開は無しなんだっけ」

「その通り、昼に一度休憩だろ、その時にはまた、戻る、それじゃ、行ってこい」

「うん、行ってきます」


 メリエル学園の門の前には僕と同じ様に親に連れられた子供達がいた、どの子も髪は整えており、仕立てのいい服を着ている、さだめし裕福なお坊ちゃんお嬢様と言う所だろう、そして、そんなお坊ちゃんお嬢様、そしてその親の何人かはこちらを見て顔を顰める、眉を顰める、なんともわかりやすい反応である、もう飽きた。


 父さんに背中を押され、堂々と僕は正門を潜る、ちなみに僕の服装は至って普通。

母さんと服屋に行ったときに買った、お気に入りのフード付きのパーカーにシンプルなズボン、本当は刀を腰に差したかったが、刀剣の所持は許可証が必要なので断念。

 お守り代わりに持っておきたかったが、まぁ致し方なしだ。


「受験を受けに来ました、当日この用紙を持って来るように言われたのですが」

「この前の子、確り来れたのね……確認しました、こちら受験番号になります、これは翌日の実技試験の際にも必要になるので無くさない様にお気を付けください」


 この前の事務室に行けば、僕と同じくらいの子達が手に持った用紙を手渡して別の何かを受け取ってから学園の中に入っていくのが見えたので、僕もそちらに行けば。

 先日、受験用紙を受け取る時に会った、クーデさんがそこに座って受付をしていた

先日の事務員さんの代わりなんだそうだ。僕は一言御礼を行ってから、前の子がしていたように受験用紙を渡して、代わりに297と数字が書かれた札を貰った。

 すくなくともこの数字以下の受験者がいると言う訳か、これで多いとなると、普通はどれ程なのか気になると言う物だが、今は考えても意味が無い、僕も教室に向かうとする。


(お呼びじゃないって感じの目線だ……)


 教室に入れば黒髪に加えて、どこぞの富豪や貴族でもなさそうな出で立ちでなんでこの教室に入って来たって感じの目線が突き刺さった気がする。

 中には顔を青ざめて「た、大罪人と一緒の教室、ああ、もう駄目だ」なんて呟く子も随分と失礼な物言いだが、こういう場でのジンクスというのはあるなしに関係なく影響があるんだろうな、悪い事をしたとは思わないがね、胸を張って言ってやれる。


 これは母さんから受け継いだ、自慢の黒髪だと、僕にとっては大罪人の髪色でなく優しく美しき自慢の母がいつも見守ってくれてる事を感じさせる色なのだ。

 受験番号が張られた机があったので、そこまで胸を張り大股歩きで近づけば、足を駆けられそうになるも。


「おっとっと、足を外に出すのは他人様の迷惑になるよ」

「ああ、これは失礼」


 先生に鍛えられてるんだ、特に足元はいつも気を持って、無意識で対応できる様にしろと言われる程だ、実際、ぼーっと突っ立てたらいきなり、足払いで転がされた事が多々あった。しかし、これが名家に生まれた貴族のやる事なのかね。


 やがて、試験官と思しき男性が説明を始める、科目は全部で3つ。国語、融通語、そして算術、まぁ、どれも先生から教わった物だ。融通語なんて特にな、先生は僕に歴史と地理など外の国についてをとかく教えたがる。僕に外国へ行けとでも暗に言いたいのだろうか。


 ちなみにメリエルではメリエル語が使われる。この融通語とは正式名称は交易融通語と呼ばれ、全ての国が外交や交易時に使う事が推奨されている言語だ、先生が言うからには、どこじゃろうとこれさえ出来ればメリエル以外なら会話ができるじゃて、覚えて損は無いぞ、との事だ。


 メリエルでは試験的に各学園でのみ採用され始めたばかりの目新しい科目である。さてと、まぁ、ぼちぼち解いていきますか!

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