首都到着

「父さん、随分と準備が良いよね」

「日頃の行いって奴さ」


 街を出立して幾数日、僕は今、父さんが走らせる馬の背に乗っていた。出立の日は最初こそ、乗合馬車を使ったが、最初の村に着いてすぐに降りると、今乗っている馬を借り受けて首都へと向かっていた。


「仕事柄、移動が多いからな、デミクス領の村や町の馬主とは懇意にしててな」


 父さんは冒険者としての移動時に馬を使う、その馬は依頼で最も近い街等で父さんが信頼を得て借りる事を出来る様に手配しているそうだ。だからこそ、普通の冒険者よりも早く依頼をこなす事が出来るのだとか、更に言えば乗馬の才能もあるとか。


「乗合馬車だと村に泊りながらだからメリエルの試験に間に合わないが、個人の馬で寄らなくていい村は寄らず突っ走る、これなら間に合うだろう」

「ここ何日か、野宿をしないといけない欠点を除けばね」

「はっはっは、野宿も悪いもんじゃないだろ」

「まぁ、食事はそれなりに豪勢だよね」


 そして、そんな借り受けた馬を使って、僕らは野宿も交えながら、首都メリエルを目指す旅をしていた、この野宿だが、少々虫が鬱陶しくて寝苦しい以外は食事は父さんが獲って来た肉が出たりと、割と快適な旅生活である。


「っと、そんな話をしてたら、間に合ったな、まだまだ余裕もある」

「あれが、首都メリエル……か」


 二人適当な話をしながら馬を走らせていれば、目の前に空でも飛ばなければ超える事が出来ない程の高さまで積み上げられた石の城壁が見えて来る、あれが公国の中枢

大公の住まう首都メリエルか。確かいくつもの城門で層が別れてるんだったかな。

でも、海側は城壁は特になかったかな。まぁ地図を見れば全部分かる事か。


「じゃ、父さん、馬を預けて来るな、そこから離れるなよ」


 手早く城門を潜った先、大通りにはデミクスの大店通りの様な店がいくつも並んでいた、もはや比較すらおこがましいとすら思う程だ。下層と呼ばれるここはいくつかの通りがあり、こうして大店が立ち並ぶ商業区画となっている、またこの通り以外に武具や工芸品を作る工房が構えている物が住む工業区画なんかもあるそうだ。

 そしてこの城門の前の大通りをまっすぐ進み二つの層を抜けた先は大公の住まう城がある最上層だ。


「よっし、預けて来たぞ、待たせたな」

「大丈夫だよ、で、僕達何処に泊るの?」

「安心しな、まずは中層だな、冒険者の宿に行くぞ」


 父さんが城門の近くにある、旅人や観光客が馬を一時的に預かって貰う店の厩舎に馬を預け終わってこちらに向かってくる。僕は父さんの事だ、行き当たりばったりに違いないと思ったが、そうではなく中層にある冒険者の宿に連れてかれた。


 中層は冒険者の宿が中央の広場にある他を除くとそのほとんどが住宅街となる。

他には公国の新設された部隊の駐屯所や住宅街から離れた場所に大衆向けの娯楽施設が並ぶ娯楽街なんかもあったりするそうだ。ちなみに首都の冒険者の宿の統括は大公の息子の三男だとか。あった時には粗相の無い様にしなければ。


「三段冒険者のジャガーなんだが、一部屋借りていいかい? 期間はメリエル学園の試験および合否結果発表の日まで」

「となると、3月末くらいまでですね、お子様がご受験を?」

「そうさ、俺と母さんの自慢の息子だ」

「……どうも」


 冒険者の宿に入ると、人はまばらだった、首都の冒険者の依頼の多くは、大体大公の直轄領の遠方の地域の魔物討伐や荷物宅配が多く、そのまま別の領地へ赴き報告をした方が早いのはざららしく、日々閑散としてるそうだ。

 それでも残っているのは荷物の多くがここを中心に集まるのと、観光客や旅人の為の宿としても活躍するからだそうで。


 父さんは僕を自慢の息子だと受付の女の人に紹介する、受付の女性の人は眼鏡に手を当てて、かけなおしながら、僕をまじまじと見つめる。


「失礼ですが、親子には見えませんね、髪の色もですが、顔立ちも居住まいも」

「息子は母親によく似た美形に育ったからな、礼儀作法もきちんと習ってる、それに強いぜ、うちの息子は」

「メリエル学園に受験をなさるのでしたら、一つ何かに秀でてなければです物ね。

どうぞ、こちらの部屋の鍵を、受験への申請はお急ぎを」

「どうしてよ?」


 確かに父さんと僕は全く似てない、父さんの角ばった顔立ちに、短く刈った短髪の赤髪に対して、僕は髪を切るのが面倒で、全て後ろに流して一つに結ぶ総髪頭だ。

それに母さんもだが、僕も丸顔だし、父さんとは似ても似つかない。

 受付の女の人は父さんに部屋の鍵を渡しながら、何やら不穏な一言を言った。


「今年は受験者が多く、受験申請の日付を早めて受験を行うという噂を聞きました、確か……今日ですね」

「荷物を置いたら走るぞ!」

「わ、わかった!?」


 僕達は慌てて、部屋へ荷物を置きに走るのであった。





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