先生との模擬戦稽古そして進言
「ふむふむ、怠ける事無く、それ以上に鍛錬も続けていたかな」
「その通りだよ爺さん、何度遊びに誘っても、自己鍛錬だってよぉ」
「かっかっか、親孝行よりも自己鍛錬とはのう」
帰って来た先生は、僕を見てそう言いながら、感心するように頷いた。
見るだけで分かる物なのだろうか、先生なら何が出来ても不思議じゃないし出来る事なのだろう、先生は父さんとも話をする、親孝行は大人になった時に返すつもりです今はその為にも鍛えたいのですよ、先生。
「さてと、魔法についても何か掴めたろう、模擬戦稽古でもするか」
「え!? 珍しいですね、先生から模擬戦稽古だなんて」
先生は模擬戦稽古を嫌がる、自分と僕では経験の差も実力の差もあり過ぎて稽古にならないで終わるだけだと、この5年でも、指で数えれる程度しか覚えがない。
それも僕からしてみたいと言った際に極めて稀にである、その先生自らやろうとはここ最近珍しい事が続く。
「お前さんはそこの長棒を使うんじゃろ、儂は素手でよい、好きに叩きに来い」
「……では、いきます!」
「頑張れよー、ティグレー」
父さんからの声援を受けながら、素手の構えをする先生に向け、先ほど置いた長棒を持ち直し構える。先生の教えの長棒術の基本の動作で攻撃を始める、はじめは脇腹を打とうとするも先生は後ろに飛び退く、僕は更に前へと出ながら長棒を今度はふとももを狙って棒を払う、これも飛び退かれ避けられる、だが手は止めない。
先生の教える長棒術のもっとも重要なのは自分の間合いを保ちつつ、連続して攻撃を続け、隙を作った所で……
「ここっ!」
「自分が教えた技に自分でやられる訳には」
「
「なぬっ!? あ、あぶなかったのう、面白い一撃じゃった」
何度目かの回避の隙を見て、鳩尾へ大きく長棒を突き出す、しかし先生は分かっていたと言わんばかりにその身体を半身にして避ける。だがこれで終わりではない。
突如として、長棒の間、丁度半身になった先生のいる場所から別の長棒が生える。
これが僕の魔法、まず、この長棒なのだが僕が具現化魔法で作った代物である。
また具現化魔法で作った物は魔力を込めるとある程度自在に形を変えられる。それを利用したのが途中から生える長棒だ。腕を折り畳み待ち続け獲物が来ると同時に腕を突き出し刈り取る蟷螂の姿から発想した技である。
「地味な技かと思いますが、追撃が無い様に見える大きな突きの攻撃から追撃が出るのは予見するのは難しいでしょう、防がれましたけど」
「じゃな、わかっておらんと避けられんじゃろうて、儂とて久々にいいのを貰うかと思ったわ」
「いつのまに魔法なんて使える様にそれも具現化魔法、さすがは母さんの息子だ」
先生にも当てられると思うのはおこがましかったか、ただ避けるのは難しい技ではあると先生に太鼓判を押して貰えた、それに父さんも僕が魔法を使えるようになったとは思ってもいなかったようで感心していた。
「次は長棒ではなく、こちらで、参ります」
「むむ? 儂はそんな武器を教えた事なんぞ無いが」
「ええ、母さんに教えて貰った武器ですからね……
「おっとっと」
「
「ほうほうほう」
長棒で出来る事は見せた、では次はと先生から距離を取ってから長棒を消して僕が母さんに教えて貰い丸パクリした武器を作り出す、造りは実に簡単で。せいぜ30cm程しかない紐に錘を付けただけの物、しかしこの長さは見せかけ。
先生に向けて錘を投げる、ただ投げただけじゃ距離を取った先生の下に何て届く訳も無いが、そこは魔法の力を使う、長棒の時と同じ様に紐に魔力を流しその長さを伸ばしていく、蛙が舌を伸ばす姿から着想を得た魔法だ。
そして錘が直撃するかと思うも軽く避けられる、ここまでは想定の動き通り。更に魔法を使う、一度、錘は動きを止めてから、避けた先生の方向に直角に曲がり飛んで行く。蜻蛉から着想を得た動きである、ちなみにこれは具現化ではなく。
「最初の攻撃にはしれっと速度を上げる為に放出を足してるから二合魔法、さっきの動きは操作魔法も使ってるから、三合魔法じゃないか、やるな」
横で見ていた父さんの言う通り、これらの魔法は僕が得手とするもう二つの魔法も組み合わせた物となっている、こうして組み合わせた魔法は二つなら二合、三つなら三合魔法と呼ばれる。具体的に蛙には投げた以上の推進力を足す為に放出。
蜻蛉の場合は急旋回させるための操作とその後の推進力確保の放出だ。
「まだまだ、いきますよ先生!」
「儂の見ておらぬ間に面白い武器と技を作りおってからに」
「というか、これネイコのあの技とほとんど一緒か……」
ある程度伸びた紐つき錘は手から切り離し、別の紐つき錘を作り直してから、再度先生へとそれを投げて攻撃をする。先生はそれを右へ左へ飛んで跳ねてで避けまくる、一向に当たる気配が無いなぁ、まぁ想定通りだし作戦通りだけど。
父さんが何か言ってる、母さんの技? 母さんも同じ様なことが出来るのか?
確かに蛙も蜻蛉も、そして次に繰り出す技も母さんの考案した物だ。
この一月、母さんと熱心に練習をしたもので、中々に様になっていると思う。
さて、これだけばらまけば……
「蜘蛛ノ巣!」
「…………やるのう、捕まえられたわ、が……ここまでじゃな、稽古はお終いじゃ」
「うっそ、引きちぎられたよ……」
「ただの紐じゃそうなるな、だが、ここまでよくやったなティグレ」
今まで、切り離していた紐を一斉に操作し先生をがんじがらめにしていく。
散らばった紐は無造作に捨てていた訳じゃなく、蜘蛛の巣の如く相手を捕まえる罠の役目を果たしてくれた。のだが捕まえたというのにたやすく引きちぎるとは、さすが先生と言った所か。父さんも褒めてくれるが、やはり紐じゃなくて鎖なんかなら強度もあったか? 改良がある程度必要な技と武器というのが解っただけ良しとしよう。
「うむ、やはり…………トラよ」
「押忍!」
「これをもって儂の稽古はしばし休みじゃて、学園へと行く事を薦めるわい」
「え?」
先生は想いも寄らない事を口にするのであった。
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