露店街と具現化魔法の実態

「本当変わったよな……賑やかなのは悪いとは思わないけど」


 家路の帰路に就いた僕の目の前には風呂敷を地面に敷いて品を並べていたり、馬車や屋台から身を乗り出して、寄ってらっしゃい、見てらっしゃいと客をどんな手でも使って、引こうとする商人達で騒がしい街並みである。


 2年前の区画整理でもっとも変化したのは裏門から続く、ここら一帯に広がる露店の数々だろう、全国から来た店舗を持たない商人達の為に解放された地区である。

 また、行商だけでなく、旅芸人の類もここにテントを張って、人々に娯楽を提供していたりする。たまに僕も物語を話す噺家のテントに入って聞いたりする。


「そうだ、古本商人が魔法書を持っていたりしないかな」


 司書さんに行っても、見つからなかった具現化魔法の魔法書、探せば見つかるやもと家路につく前にいくつかの露店を見て回る事にしてみたのだが。


「見つからないなぁ……」

「坊ちゃん、何をお探しで?」

「具現化魔法の魔法書、もしくはそれに準ずる物」

「具現化魔法が得意なのか坊ちゃん、そりゃはずれひいちまったなぁ、触れ回ると碌な事にならんぜ、得意魔法が具現化ってのは」

「どういう事です?」


 いくつか見て回っても、見つかる事は無い、なんだって、こんなに無いのか。

僕の呟きに露天商さんが声をかけてくれる、探している本についてを聞かせると。

額を叩き、才能の神様ってのも酷なもんだと言いながら、僕は具現化魔法について実になんというかはた迷惑な話を聞いた。


 具現化魔法は物を作れる魔法だ、至極単純で想像力さえあれば、ほぼ何でも作れる

だが、他の能力に比べて汎用性が高いゆえか地味かつ没個性的と言われている。

でもそんなこの魔法の使い方にも没個性的じゃない使い方はあるそれらは……犯罪。

『脱獄』針金を作りカギを開けたり、ロープで塀だってなんのその。

『詐欺』偽の宝石を売り、具現化した宝石が消える前にとんずらして稼ぐ。

『殺人』殺人事件の証拠品たる凶器が見つからない事件は大体、具現化魔法。

『窃盗』具現化した物とすり替えて、しれっと持ち去ってしまったり。

『複製』武器や防具、道具を真似て具現化して使う、職人は憤死する。


「要は犯罪者御用達の魔法なんだよ、具現化ってのは」

「なんというか、悪い事考える奴がいるもんですね」

「話した様な事出来る奴は、普通に尋常じゃない奴等ばかりだ、正面切って戦っても強い奴等ばかりなもんだから、中々捕まらないもんなんだとさ」


 と、この様に犯罪者が好んで使う魔法らしく、そう言った犯罪者はまず自分の手の内を明かすような真似はしない為、魔法書は出回らない、更に具現化魔法と言うだけで日陰者な所があるので、普通の具現化魔法使いも魔法書を出しにくい。

 

「やっぱり自分で考えるか、母さんのアイデアを使うかしか無いか……」

「坊ちゃんは、犯罪者になんてなるんじゃねーぞ」

「なりませんよ、食うに困ってる訳でも無いですし」


 古本の露天商さんに刺される謂れのない釘を刺されながら、話を聞かせて貰って冷やかすだけなのもどうかと思い、手頃な馬鹿話の漫画を買って帰る事にする。



――――――――――――――――――――――――――――――――――



「……月並みだけど、まぁ、こんなもんかな」


 あれから2月も末が近づいた頃、僕は家の前で長棒を振るっていた。

先生から教わった武術の一つに長棒を使う武術がある、それを少々具現化魔法で工夫するような感じで魔法を作る事にした、結果としては、まぁ実践的ではある、派手さはとんと無い様な物だが。


「っよ、ティグレ、今日も朝から精が出るな、爺さんもいないんだし、手を抜いてもいいんじゃないか? 父さんと盤戦でもしないか」

「一日怠ければ、取り返すのに三日は必要だって先生が言うんだ、僕は才能が無いのだから、きっとそれ以上だ、人一倍、いや十倍も百倍も努力をしなきゃ」

「生真面目な所といい、どこもかしこも本当母さんに似たもんだ」


 そうやって、長棒を振るっている横から、父さんが話しかけて来る。

つい先日、ようやっと依頼から帰って来た父さんはここ数日は家でゆっくり過ごしている、たまにこうして僕の素振りに声をかけてきたりと、随分と長い暇だ。


 いつもなら2~3日したら次の依頼に出向いていたものだが。ここの所は僕を遊びに誘う事ばかり、今も盤上遊戯で遊ばないかと言われている。だが怠けている暇は僕には無い、先生が戻って来た時、怠けているのがバレるのは嫌だからね。


「帰ったぞ、トラ、真面目に鍛錬をしているようじゃのう」

「先生! 押忍、お帰りなさい」

「おう、爺さん、長い事留守にしてたな」


 ひとしきり、長棒も振るい終わってから、それを置き休憩と思った矢先。

先生は帰って来た。



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