大店通りとガキ大将

「郵便でーす」

「ああ、手紙屋か、棄てといてくれってのは」

「仕事なので、申し訳ございません、受け取って頂ければ」

 

 小店通りから一度中央広場に戻って、別の通りにこちらは大店通り。小店通りとは違い、一個一個の店の大きさが小店通りの倍以上はある、観光客や街の分限者相手に商売をしている人が中心になって出来た通りは区画整理で更に広がった気がする。

 ちなみにここを更に進めば領主の私邸や富豪の別邸などもある高級住宅街。


 さて、ここへの手紙だが大体は他国の行商人の品を買い取って欲しいと言う内容ばかりらしい、案の定、届け先の店主は渋い顔をしている。有名ってのも考え物と言う訳だ。ちなみに大体ここに宣伝に来るのは塩と砂糖、まぁ内陸部で海も川も無いから生ものだったり重たい物を大量輸送出来ないから、これらだけになるのは必然だ。


……ただ。


「うちの領地の特産品は砂糖の原料だし、隣領には塩湖がありますもんね」


 うちじゃ全く買い手がつかない代物だ、塩は輸送費用も手間も少ない隣領のが。

砂糖に至っては、この領地で直に買った方が何倍も安く済む。


「まぁ、行商人としては西でも大きいこの都市に渡りをつけたいんだろうけどなぁ」

「宝石やお酒の類なんかはどうなんです? ここらだと希少でしょう」


 僕は思いついた交易に仕えそうな代物を行ってみる、宝石というか鉱石の類はメリエルじゃ希少だ、というのも平野部ばかりで鉱山は一部の領地にしかない。

 お酒はデミクス領では作られていない、こちらについては酒造が原因でデミクス領では大きな事件が起きた事もあってデミクス領では酒造を禁止している。

 これを領主法と言うらしい、公国法に逸脱しない範囲で領民へ権利の制限や義務を課すことが出来るのだとか、ただ別の領地の領主や公国の許可は必要なそうだ。


「まぁな、ただ、宝石みたいな盗賊や海賊が狙いそうな高級品は旅させねぇし、酒も旅させると悪くなる物が多いからな、貿易や交易させるには難しい品だ」

「へぇ、そういう理由があるので」


 そんな風な世間話を小一時間してから、僕は配達の仕事に戻る。

大店通りの店主さん達は博識で、色々とためになる事からならない事まで色々教えて貰えるので、ついつい話し込んでしまうな。

 

「よお、手紙屋」

「……ああ、ドラゴ君、こんにちは」


 あの後の手紙の配達は特に話し込む事もせずに、ぼちぼち終わりを迎え。

中央広場に戻って来ると、その少年は話しかけて来る。短く刈り込んだ茶髪。

彼とは同い年ではあるが彼の方が頭一つ分も背が大きい。

ドラゴ君、僕を見ると不遜な態度でいつも声をかけて来る、この街のガキ大将だ。

 かつては彼とは喧嘩もしたし、揉め事も起こした、だがさすがにもう10歳になる僕等だ喧嘩だなんて事は……


「仕事は終わったんだろ、しようぜ、勝負!」

「……しないってば!?」


 周りの目何て気にせずに、拳を構え始める、やはりこうなるのか、ドラゴ君は喧嘩の才能と格闘の才能を持っている、だからかな、この様に血気盛んで困る物だ。

 僕が嘆息してるうちにもドラゴ君の拳は顔面目掛けて飛んで来ようとする。

さすがに僕だって痛いのは嫌だ、すぐさま転がるように躱す。


「君との喧嘩は君の母親が五月蠅いからしたく無いんだ、また母さんに下げなくてもいい頭を下げさせたく無いんだよ」

「それは悪いと思ってるさ、でもお前くらいじゃないと、相手にならないのよ」


 こちらからは絶対にドラゴ君に攻撃はしない、つい先日もあまりにもしつこい為に嫌になった僕はその側頭部へ思いっきり掌底を当て。

見事に広場の冒険者の宿の壁に激突し鼻血を出させてしまった。


 その日の翌日、ドラゴ君の母親が家に押しかけ母さんへ苦言を呈した。

ちなみにこれは一度だけではない、何度かやっている、ドラゴ君の母親はこの街じゃかなり珍しい選民思想の持ち主であり人の神の信奉者だ、貴族の血を尊び重んじる事は勿論の事。


 人の神の信奉者の間では黒髪の大罪人は憎むべき仇敵としており。その眷属の証であるとされる黒髪は罰するべきと言われている、はた迷惑な話である。

領主たるドラゴ君の父親はきっと奥さんの言動に毎度苦心しているのだろう。


 ちなみにその跡継ぎであるドラゴ君の方はと言えば、昔は我儘でやりたい放題だと言う感じだったが、家庭教師が良かったのだろう、血の気が多い以外はマシになったと言える。ただ経営だとか政治についての話は苦手、将来は武芸一辺倒で食っていくのだろう。


 領地の跡継ぎは、お姉さんが婿を取るのかね。ただ、お姉さんも母親似だしなぁ

この街は生きづらくなりそう、今から頭を悩ませるか、いっそ街を出るかね。


「やっぱり、強いな、ボーっとしてるように見えて全部躱しやがって」

「いつも通り、満足したらお終いにしてくれよ」

「俺、来月からはラジル学園に行くのよ、その前に一発くらいは!」

「君もか、なんだか寂しくなるねぇ」

「お前だって勿論どっか学園行くだろ」

「そのつもりはないよ」

「はぁ!?」


 どうやら同年代の主だった知り合いは皆、それぞれ学園に行くようだ。

知人、友人が優秀と言うのはそれなりに嬉しい物だ、是非頑張って欲しい。

僕もどこかの学園に行くのだろうと言うが、そのつもりは無い。

 随分と驚いた顔をしてるが、当然だろう。


「うちは父さんが仕事で家をあけがちだし、既に兄姉が学園に通ってる、学費の問題だってある、僕はこの街の学校でぼちぼちやらせて貰うさ」

「…………やめだ、っち、つまんねぇな、それでも、俺の好敵手ライバルかよ」

「いつ、君の好敵手になったんだか、それじゃ僕は家に帰るかな」

「なぁ、おまえなら、きっと強くなれる、だから親父はお前に推薦状を」

「君程に強さにこだわりはない、それに君の様に才能がある訳でもなし」

「…………またな」

「ああ、また」


 いつのまにやら、随分と仲が良くなった物だ、親同士は仲が悪くても、子供同士はこうして手を取り合う……取り合ってはいないか。とにも、彼の躍進を祈るかな。

 そんな風に考えながら、僕は手紙の配達を宿に報告した後に今日のおやつを買える程度という少ない駄賃を手にして帰路に就くことにしたのであった。

 





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