手紙配達と児童養護施設

「すみませーん、手紙でーす」

「あら、どうも」


 ぼちぼち手紙配達を始めていく、最初に回るのは小店通りの小売店等から。

冒険者の宿などのある広場から北の正門からずっと伸びていくとおりだ。

少し脇道にそれれば住宅街や隠れ家的な老舗の料理店や酒場なんかもちらほら。

ここだけは区画整理があったに関わらず、古いお店等の歴史を感じさせる場所を残したいと言う領主の一存で昔から変わらない。


 そんな古馴染の多い場所な事もあって、知人が声をかけて来る事もしばしば。


「やぁ、手紙屋さん、今日も配達かい? お疲れ様」

「どうも、あ、手紙来てましたよ、どうぞ」

「おう、坊主、野菜が良いの入ったんだよ、母ちゃんに持っていきな」

「配達が終わったら寄らせて頂きますね」

「あ、てがみのにーちゃんだ! 遊ぼうぜ!」

「配達があるから、ごめんね」


 5年前じゃ考えられない光景だと、母と買い物に出ると、母はよく口にしている。

昔は石を投げられても仕方ないと言わんばかりに嫌われていたそうだ。時代は変わる物ねぇと感慨深げにも呟く日もある、母さんはいつからこの街の外れに父さんと暮らしているのだろうか。さだめし短い時間ではないだろうには違いないが。


「っと、もうついたか、お手紙でーす……にしても、相変わらずだな」


 小道通りから少し外れた場所にようやく到着、庭は綺麗に手入れこそされているが肝心の家は修繕を感じさせない年季を感じる、行っちゃ悪いが随分なボロ家だ。

 ここは児童養護施設、院長先生以下複数名の子供が暮らしている場所だ。

様々な形でここには親を失った子供が集まって来る。その財政状況は厳しい。


 この街の児童の大半は両親が離婚した際に預けられた子供や、一人親で養育の時間が捻出できないと預けられた子供が大半だ。まぁ、この街の周囲は父さんの様に優秀な冒険者のおかげで何らかの事故や被害、災害で両親を失うと言うのが滅多に無い。


 話を続けよう、前者二項目で預けられた子供達に対してその土地や街の領主は補助金で援助する義務等は発生しない。本来であれば、預けた親が養育費を負担する形であるのだが、大体の親が夜逃げなり高飛びしてしまう。そうして、財政難に陥る養護施設が出来上がる訳だ。


 ちなみに国全体で見てこういった財政難になる養護施設は実はレアケースなそうで他の領地では寧ろ後者の形、特に魔物による被害で親を失う事が多く、補助金で相応な暮らしが出来ているそうだ。


「は~い、あ、ティグレ君」

「やぁ、リネン君、はいこれ……ああ、これ姉さんからの手紙だ」

「あ、サーバルさんからなんだね」


 そんなぼろ家から出て来たのは、少し古いがよく手入れされたワンピースに身を包み、髪の毛は手入れが甘い為枝毛の多い、切ればいいのにとは思うが本人は短髪が似合わないと常に腰の位置まで伸ばした茶髪の少女。


 に見えるが……実の所、少年である。


 彼女……じゃない、彼はリネン君、この施設で暮らす子供の一人。

かつて僕が助けた女装の才能を持つ子だ、施設は貧乏で自分より年長者は女性ばかりだった為か、女性服を着るのを躊躇わなくなり、もはや女性の姿が常だそうだ。


 彼は女装の才能以外に工作の才能等も持っているそうで、今は学園に通って、文通ではあるが、姉との交流もある、なんでも図書館で知り合ったとか。

 僕の知る姉の話に唯一ついていける稀有な存在でもある。

 

「しかし、姉さんの謎話をよく理解出来るね」

「そう? 君だって勉強すれば、出来る様になるさ」

「冷気を出し続ける箱、火を使わない灯り、極めつけに空を飛ぶ、それもこれ全部魔法を使わずだとか、聞いただけで頭が痛くなる荒唐無稽なお話だ、姉さんの相手はリネン君が最適だと僕は思うね」

「そう? だとしたら嬉しいな、今年からサーバルさんと同じ学園に行く予定だし」

「え!?」


 僕は姉さんの言ってる物が出来るとは思えない、どれもどうすれば出来るのか。

ただ、姉さんは発明の才能から始まって、様々な学問への才能もある。

 きっと出来るんだろうさ、その相棒役は目の前の女装少年に任せると言えば。


なんと、リネン君も学園に通うと言う、そんなお金が何処にあると思うが。

 最近になって、高飛びしていた施設に児童を預けていた大人からお金が送金され始めたのだとか。なんでも公国が新たに組織した軍隊の一部が一斉に検挙したそうだ。で、そいつらから養育費をケツの毛も毟ろうかと言わんばかりに毟ったと。


「最初は施設の改修費用に使うべきだって言ったんだけど、それよりも折角、推薦状が来てるんだからって院長先生が」

「へぇ、おめでとう、頑張ってくるといいよ」

「そう言う君は、どこか学園には……」

「いかないよ、この街でぼちぼち学校に通ってくつもり」

「君なら、メリエル学園だって、夢じゃないだろうに」

「夢だよ」


 最後に彼に激励の言葉を贈って、この場を去る事にする、リネン君は僕なら学園に行く事も夢では無いと言うが、夢だよ、叶えることの出来ない夢さ。










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