5年後の街と冒険者とは
「本当、5年前とは変わったよな」
図書館での調べ物を終えて僕は外へと出る、図書館は街の中央広場に面した場所に作られており、外に出ればそのまま中央広場である。
5年前、まだ僕が小さい頃は僕がフードもつけずに呑気に伸び何てしていれば陰口なんかを呟く声が聞こえた物だが。今はそんな事は無く、特別気にも止められていない。
これには街について、少々説明がいるだろうか。この街はデミクスという街だ。
場所としてはメリエル公国の首都から遥か西、平野部にある街。
どんな街かと言えば、ここら一帯の土地の君主権を持つ貴族、デミクス家が住む街で交易都市である、先生が言うにはそれなりに大きな街らしい。
というのもここは東側の海にある街と首都へと続く道でも比較的安全な一本道との間にある街である事。そしてここ一帯の主要作物テンナイの存在が大きいとの事だ。
テンナイは加工する事で砂糖になる、この国の砂糖の4割はこの地域一帯で栽培されたテンナイから採れたものらしい。全部先生が言っていた事なので僕はよくわからない。社会とか地理とか苦手なんだよね。
そして、昨今では東の海側から人の往来が増えて、更に西側からテンナイを買いに来た他国の行商人などで、この街は純粋なメリエル公国民よりも、そういった商人達も多く来る街になった、そして中には僕の様な黒髪の奴もいたりする。
そんな事もあり、領主自ら黒髪の印象を払拭するべく積極的に黒髪の商人で見込みがありそうな人とは商売を取り付けたり贔屓にしたりする事で、この街だけで言えば黒髪を気にする奴はもはや少数派と言う訳だ。
まぁ、領民や国民となると僕と母さんくらいだろうけど。メリエル公国は他国から来た者を自国民との婚姻関係にある者でない限りは民にする事は禁じられている。
おいそれと領民にする事は出来ないと言う訳だ。
「先生が言うには、母さんは西の大陸の人間なんだっけかな、別の大陸何て想像つかないや」
そんな感じに一人呟いてから、僕は中央広場の別の建物へと入っていく事にする。
ここ中央広場には領主の邸宅と図書館の他に、主要な施設として冒険者の宿がある。
冒険者の宿、公国が貴族に対して設立するよう義務付けられている施設である。
主な役割は冒険者と呼ばれる者達へ飲食や宿泊施設を提供する食堂や宿だ。
さて、冒険者とはなんぞやと問われれば、今となっては何でも屋と言うのが最も正しい呼び方となるだろう。
設立当初の冒険者はそれはもう活躍したものらしい、前時代文明の遺跡の発掘調査の護衛に、遺跡の奥にあるだろう遺物の回収だとか、まあ色々とだ。
だがそれも数年すれば、掘りつくされるのは自明の理で、貴族達は雇用した冒険者の雇用経費が嵩む日々に苦心していた。
そしてそんな貴族が見出したのが、自分や軍を動かす程でない雑事を任せたり。
雇用費を貴族に支払う事で領民が一時的に冒険者を雇用できる法案を提案した。
大公もこの法案は良いとした、こうして冒険者は遺跡関係の仕事だけでなく。
遠方の街や村に出た魔物の討伐、別の領地などへの荷物の運搬。行商隊の護衛。
庭の草むしり、ペットの散歩、子供の子守り、夫婦の愚痴から今晩のおかずの相談。
どんな小さな困りごと悩み事でも解決しようとする何でも屋集団と化した。
一応、年に数回は遺跡の再調査や再発掘をしたり、極稀に新しい遺跡の発見等はあるそうなので。まだ冒険者という名前が辛うじて残っている。
ちなみに僕の父さんの職場でもある、最近は魔物の討伐が忙しいようでまともに家に帰って来てない、どこそこで怪我だとか、よもや死んだとかは無いと思いたい。
「おう、手紙屋、今日も仕事に来たのかい?」
「ええ、今日は街中の手紙の配達依頼は来てます?」
「何枚か貼ってあったぜ、掲示板を見に行けよ」
冒険者ギルドの中の人間はかなり雑多だ、屈強な男もいれば、主婦であろう女性。
魔物となんて戦えそうにない細身の男性やお爺さん、そして僕くらいの小さい子供。
というのも、冒険者になるのはとても簡単で、冒険者の宿をその土地の領主に任されている亭主が認めれば誰でもなれる、それこそ僕みたいな子供でも、保護者の許可を貰い、街の外に出るような依頼を受けない約束をすれば出来るくらいだ。
馴染みの冒険者の人が僕に声をかける、ここでは僕は手紙屋と呼ばれている。
何故そう呼ばれてるのかの理由は至極簡単で、僕が冒険者の宿に届けられた別の街の手紙をこの街中のどこそこへ配達するという依頼を好んで請け負っているからだ。
と言う訳で、掲示板から配達依頼の貼り紙を剥がし受付へ行き、依頼を受ける。
さーて、ま、のんびり行こうか。
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