少年期
5年後
王国歴394年 1月某日 冬 大木の稽古場にて
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「やめ! 今日の朝稽古はここまでじゃ、中々様になってきたのう」
「押忍! ありがとうございます!」
振るっていた木刀の素振りを先生の声と同時に止める、かれこれ先生とは5年目に差し掛からんとするほどに長い付き合いになっていた、まだ子供の頃は木刀を振るうどころか触れさせてすらくれなかったが、昨年辺りからこうして振らせて貰う様になった。もう5年前なのか、森で行き倒れていた先生ことセンお爺さんを助け、弟子になってからは。その時間は光陰矢の如しといった具合に過ぎて行った様に感じる。
「お前さんにこうして稽古をつける様になって何年たったかのう」
「今年の春を迎えれば5年となりますね」
「そうかそうか、ではお主も今年で10歳、
「どうでしょう、僕の様な黒髪で才能も無いでは無理かと、学費も高いですし」
先生もまた、僕との稽古が何年経ったのかを聞いて来る、5年はキリもいいし長いと言える年月だ、それに今年で僕は10歳を迎える為、王国が認めた学校へ通う義務が発生する。先生と朝昼夜問わずに稽古をする日はそう残ってはいないだろう。
ただ兄さんや姉さんの様に名のある貴族も通う様な優秀な生徒が集まる学園と呼ばれる所には通えないだろう。おそらくはこの街にある学校に通う予定だ。
「そうとは思わんがな、才能こそないものの、お主は5年も儂の稽古について来た、そこらの10歳児とは段違いの経験を積んできておるよ」
「そうはいっても、学園ともなると貴族や高名な冒険者、有識者、大富豪の推薦等も必要なんですよ、試験一つとっても一筋縄ではいかないでしょうし」
先生は僕ならば学園にいってもやれると言う、確かに先生の稽古は兄さんに聞いた道場の稽古とはその内容からして個性的かつ独創的で一朝一夕で全てこなすと言う事の出来る物ではなかった。
実際今年の夏に兄さんが家に戻って来た時に先生に稽古をつけて貰った事があり。その時は僕よりも出来ずに先生に鼻で笑われたあげく。森で嘔吐して冷や水をぶっかけられていたのを見た事がある。
まぁおそらくは兄さんと僕では年齢も体格も違うので稽古の度合いからして別だと思うので僕が兄さんと同じ歳には同じ事をさせられそうだと今から内心怖くある。
「トラであれば試験なぞ余裕じゃと思うが、まあよい、昼からは座学と魔法についてやるからの、しっかり食事を食って来てからここに来るように」
「押忍! 失礼します!」
先生は僕が何といっても、僕なら出来ると言う、出来る出来ないにしても、大層なコネや知り合いでもいなければ、無理な物は無理だ、兄さんは道場の師範、姉さんは確かこの街の図書館の司書さんだったか、それにこの街の領主の推薦もあった筈。
それに、僕は学園よりも先生との森での稽古の方が性に合ってるしね。
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「ただいま、母さん」
「おかえりティグレ、朝の稽古は終わったの?」
「お帰りなさいませ、ティグレ様」
「アリスさん、来てたんだ、いらっしゃい」
「ええ、ステラお嬢様からお手紙を預かっております」
何時もの様に家の扉を開けると、子供の頃から姿がとんと変わらない母とそれなりの長い付き合いになったステラの家のメイドの一人アリスさんがそこにはいた。
彼女とは5年前の春に知り合い、夏の頃に分かれて以来一度も会っていない。
だがしかし、毎月必ず最低1通は届く。向こうの街でも元気でやってるようで何よりだ、しかし今月は。
「3通目か……何を書いて返したものか」
「愛されてますね、ティグレ様」
「あはは、代り映えしないこの街の何を書けばいいのやら」
今月に限っては多い月のようで、受け取ったのを合わせて3通ほど既に貰っている
この街はそれなりに大きな規模であるが、2年程前に大きな区画整理があったくらい以外は産業も施設も主要な人物もとんと代わり映えしない。どうにも刺激の無い街である。とりあえず、手紙を開いてみるか…………へぇ。
「ステラ、学園の試験受けるのか、それもメリエルだって」
僕のその一言に目の前のアリスさんそして料理を作っていた母さんが振り向き大層驚いた顔をしていた。
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