母と老人、その正体
「ほう、トラの母君が儂と会いたいと、ならいくしかないの、家に案内しとくれ」
センお爺さんはかなり僕について来てくれます、センお爺さんからの貰い物についてもセンお爺さんがいれば話しやすいと思うのでついでに持っていく事にするとします。僕の秘密基地とお家はそこまで距離は離れてません、その大木は家からでも見る事が出来ます。僕が何度も行き来してる為、僕が通るくらいの獣道もありますそれを辿れば……
「つきましたよ、ここがぼくのいえです」
「ほほう、立派な家じゃて、ほれ、家に招いとくれ」
「はいなのです、かあさん、センおじいさんをつれてきたのです」
「おかえり、ティグレ、センおじいさん? ああこのまえの」
「失礼する……ほほう、お初にお目にかかります奥方、儂はセンと申します」
「初めまして、ティグレがお世話になりました、私はこの家の主人のジャガーの妻のネイコと申します」
母さんとセンお爺さんはドアの前で二人して深々とお辞儀をしています。二人は挨拶が終わると早々に部屋の奥へ入っていきます、僕もそれを追いかけます。
「お茶を入れるので、座ってお待ちを、ティグレはこっちに座ってなさい」
「急な来訪にも関わらず気を回して頂けるとは、感謝いたす」
「あ、はいなのです」
目の前にはセンお爺さんが座ってます、僕はその隣に座ろうとしたら、母さんが自分の横に座るように言うので、そちらに座る事にしました、カタナは座るのに邪魔なのでソファにほっぽる事にしました。
「色々とお聞かせ頂きたいですが、まずはどうぞ」
「うむ……ありがたく」
「飲み終えてからでいいですが、まず貴方は一体何者なのですか?」
「どの棺桶に入るかに悩む為だけに、長生きしてるただの爺じゃ」
「ただ長生きをしてるというには、妙ではございませんか、常に魔力を身に纏いそれでいて平然としているなんて、普通は出来る事ではありません、それこそ仙人と呼ばれる程の高僧でもなければ」
「かっかっか、奥方は色々とお詳しい様じゃて、隠し事は出来そうもないのう、いかにもと言いたいが、ただ儂は高僧から仙人になっただけにあらず、仙人に為った後も苦行と修練を続ける事で、不老の魂を持つと言われる龍と成る力を手に入れ千年以上の時を生きた存在、儂の様な存在を人はこう呼ぶ仙龍と」
センお爺さんは何を言ってるのでしょう? 僕にはさっぱりわかりません、ただ母さんはそのお話を聞いて目を見開いて驚いていました。母さんはその存在は御伽噺の中だけの話で、本当に存在するわけが無いと言いました、ではセンお爺さんは嘘を言ってるのでしょうかと言えば。
「嘘ではないが、証明は出来んの」
「そうだとして、何故それほどまでの高僧様が森で行き倒れだなんて」
「いやぁ、蒐集癖に熱が入ってしまっての、その日の飯を食う種もギリギリじゃったのに街を出てしまい、森で迷うてのう、儂が信奉するのは自然の神、やたら森の恵みを喰らう事はその地の獣を迷わすと思って口に出来なんだ。まぁそれで行き倒れちゃ世話無いがのう」
「センおじいさんのうっかりなのです?」
「そうそう、僧だけにじゃて、かっかっか」
「下らない洒落はお控え下さっていただけます、それで、ティグレに助けられ恩返しの為に街に連れていったそうですね、そのおかげで、うちの主人が下げたくない頭を下げる事になったんです」
「なんと……それは申し訳ない事を」
母さんは次に父さんがこのまえ、ドラゴ君とそのお母さんに頭を下げた事をお話し始めます。センお爺さんはこのお話を聞いて、申し訳なさそうにしておりました。
今度お詫びの品を持ってもう一度訪ねるとセンお爺さんはいいますが、高僧様からの頂き物にお返し出来る物はうちにはないとお断りしてから。
「ただ、今後ティグレを街に連れ出すような事をしなければ、それで構いません」
「ふむ、奥方もトラも随分と不自由な暮らしではございませぬか? 何故この街に、いや、この国に、もっと生きやすい大陸も国もあるじゃろう」
「今は仕方ないのです、この子には悪い事をしてるとは思いますが、今だけです……いつか主人とこの地の領主様、それに王家の方々が……」
「左様……か」
センお爺さんの言葉に母さんはまた、僕を一度見てからセンお爺さんに向き直りそう言います、母さんは僕に悪い事をしてるのでしょうか? 僕はそう思わないのです母さんはいつも優しい母さんです、そんな母さんにセンお爺さんはそう言います。
それは僕にとって不思議で驚きの言葉でした。
「奥方、トラを儂の弟子として、預からせては下さらぬか?」
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