不理解

「ロイドさんのお宅でよろしい?」

「ん? 客かそれも女の声だ珍しいな、俺が出る」


 今日は珍しくお仕事をお休みの父さんがお家のリビングでくつろいでいました僕も父さんとお話しできる機会は少ないので今日はお家に入る事にしております。

 そんなお昼の頃、誰か女性の方が尋ねて来たと父さんは立ち上がりました。

随分と長いです、そもそもここにお客様が来る事がまずありません。


「ティグレー、ちょっと来てくれ」

「ぼくなのです?」


 そんな風に待っていたら父さんに呼ばれるので、僕は扉の方へ向かいました。

そこにはこの前、会ったドラゴ君と橙色の髪の毛をしたおばさんが立っていました。

 橙色の髪の毛のおばさんは何だか高そうなドレスを身に纏っています。お洒落さんなのでしょう。


「ドラゴくんと、どちらさまなのです?」

「母様、こいつです、コイツが俺を殴ったんです!」


 ドラゴ君は僕を指差してそう叫びます、どうやらおばさんはドラゴ君のお母さんの様です、そんなドラゴ君は確かに鼻にガーゼを当てて怪我をしてる事は見ればわかります。でも僕はドラゴ君に手を出したのは才能鑑定の時だけ、その時の怪我は僕が治っているのと同じでとっくに治ってる筈です、あれは昨日他の子の拳が当たって出来た怪我です、なのに。


「との事です、ロイドさん、お宅の息子さん、躾がなってないわね」

「この度は申し訳ございません、どうも私譲りの無鉄砲な様で」

「でしたら街に来ない様にしていただける、ただでさえ穢れた血の混じり者なのですから」

「仰る通りで妻も注意はしていたようですが、どうやら隠れて抜けだした様で」

「とうさん、ぼくはなにも……」

「ティグレは黙ってろ……怪我の治療費でしたら、こちらで出しますが」

「ふん、冒険者から恵んで貰わねばいけない程、デミクス家は落ちぶれてませんのでなんで、旦那様はこんな男を……」


 父さんはおばさんにずっと頭を下げて謝るばかりでした、僕は本当の事を話そうと口を開こうとしましたが、手で止められてしまいます。やがておばさんは満足したのか鼻を鳴らしてドアを閉めて出て行きます、その後ろを歩くドラゴ君がこちらに向かって意地悪そうに口端を吊り上げて笑っていました。

 あれは自分が悪いのに悪びれてない顔です。そして、ドアでのお話が終わるとそのまま父さんにリビングまで連れて行かれます。そして父さんと母さん二人に問い詰められます。


「さて、どうして俺や母さんに黙って街に行ったんだ? 街には行かない様に母さんに言われただろう」

「その、このまえ……」


 僕はこれ以上は隠せないだろうと、センお爺さんの事をお話します。ただカタナについてだけは隠し通して見せました。


「行き倒れの爺さんねぇ」

「ティグレ、お腹を空かした人を助けたのはいい事だけど、知らない人についていったら危ないのよ、恩返しじゃなくてそのまま攫われたりするかもしれないの」

「だな、だがまぁ、ティグレの話だけなら爺さんは悪い様に聞こえないな」

「ティグレ、またそのお爺さんがティグレを訪ねてきたら、ここに呼んでくれる、そのお爺さんとお話がしたいから」

「わかったのです」

「それと、今度また街に行こうと誘われても絶対に断る事、いいわね」


 母さんはセンお爺さんに会いたいとの事なので次会えた時には必ず連れて来る事にしましょう、ですが何故なのでしょう、何故僕は街に行ってはいけないのでしょう。

 兄さんや姉さんは行ってもいいのに、何故僕は駄目なのでしょう、悪い事は何もしていないし、さっきのお話だって、僕はぶってないのに、父さんはずっと頭を下げていました、下げなくていい頭を、僕はそれを父さんと母さんに言いました、ですが。


「…………ごめんね、ティグレ」

「すまない、街にいけないのはお前のせいじゃない……だが今は、我慢してくれ」


 二人とも顔を上げずに僕に向かって謝る事しかしなかったのでした。

父さん、母さん、それは答えになってないのです。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ドラゴ君とそのお母さんが来てから数日、僕はカタナを振ってみようと持ちだしてみました、しかし自分の身長よりあるし、そのうえ重たくてまともに振る事は出来ませんでした。大人になったら振れるでしょうか?


「おう、トラ、早速振って見てるのか? まぁ振れんかったじゃろうが」

「あ、センお爺さん、こんにちは、はい、重たくて無理でした、あ、そうだ」


 カタナを振るのは無理だと結局背負いなおして紐を結わっているとセンお爺さんがまた来ました、カタナは振れなかった事はお見通しの様です。

 そして僕はまた街に連れ出される前に、母さんが合いたいと言っていた事を伝える事にしました。

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