お爺さんと街へ

「きょうはこのままおひるねなのです」

「おーい、トラよ、おるかの?」

「ふみょ?」


 行き倒れのお爺さんを助けた次の日、秘密基地でお昼寝をしようと思っていたら

お爺さんが顔を出しに来ました。あの日の御礼に来たそうです、お元気そうで何よりです。


「ぼくはティグレですよ、センおじいさん」

「まぁ細かい事は気にしてはいかんよ、礼をしに来たんじゃ、邪魔するぞい」

「おじゃまするなら、かえってくださいなー」

「ほう、なら帰るとするかの」

「ほんとうにかえったのです!?」


 ギャグのつもりで行ったのが、まさか帰ってしまったのです。

悪い事してしまったのです、と思ったら、すぐに戻って来て今度はこんにちはと洞の中に入って来て地べたに座ったのです。


「かっかっか、中々笑いのセンスあるのう、トラ」

「びっくりしたのですよ」

「やり返さんと、と思ってのすまんすまん、さて、礼なんじゃが命の礼に何をしようか悩んだが、一緒に街に来とくれ、好きな物をなんでも買ってやろう」

「あ、まちですか、そのー、ぼくはかあさんにまちにはいくなといわれてるのです」

「…………そうかい、まぁバレなきゃ大丈夫じゃろ!」

「っちょ、センおじいさん!?」


 センお爺さんは謝る気のない謝り方をしながら御礼について街で好きな物を買ってくれると言ってくれましたが、母さんに僕は街に行かないように言われてるので、お断りしようとしたのに、小脇に抱えられて連れていかれてしまいました。


 せめて、母さんが街に行く時かぶせてくれたフードはつけておかないとと思って。

慌てて洞の出入り口のそばに置いてあったものだけひっつかんでいけました。

 多分ですけど、これを被っておかないと僕の黒髪は目立つそうなので。


「もう、センおじいさん、むりやりすぎます」

「なぁに、気にするな日が暮れる頃にはきちんと返してやるわい、ほれ、まずは甘味からにするか? ここらは甘味が多いみたいでの、子供なら甘味は好きじゃろ」

「いやべつにまちのおかしはすきじゃないです」

「なんじゃて!?」


 僕は甘い物は森の果物で十分なのです、もしくはかあさんの焼いてくれたクッキーが美味しいから街のお菓子を食べた事はありません、センお爺さんにそれを言うと、なんだかしょぼくれてしまいました。お爺さんは甘いものは大好物なそうで、僕とは違い、色々買ってました。


「このパンの端を油で素揚げして砂糖をまぶしただけのこいつ、こいつは美味いぞ、トラよひとつどうじゃ」

「はぁ? そうなんです、べつに……」

「そう言わず、くうてみい、きっとひとつで気にいるぞい」

「では、ひとつ……ふわぁ」


 甘いのです、サクサクなのです、あの硬い食パンの端っこがこんな美味しくなるのですか、いつもは牛乳と一緒じゃないと柔らかくならないのに全然普通に食べれたのです。


「しかし甘味が駄目と来たら、やはり男児たるもの武器か?」

「僕に剣術や武器を使う才能は無いのです」

「なに、才能が無ければ振るう事が許されぬ訳でも無いんじゃて、質屋に行くぞ」

「質屋なのです? 鍛冶屋でなく?」

 

 お爺さんは甘味では駄目だと思ったようで、今度は僕に武器を与えようとしてくれます。でも僕は剣を使う力なんてありません、貰っても使えません、でもお爺さんはいずれ使える様になる、なんなら自分が教えてやろうかと言ってから、質屋に連れていってくれました。


「昨日ぶりじゃな、店主」

「おやおや、昨日はいい品をありがとうございます」

「うむ、今日はひとつ、また質に出したくての」

「はいはい、なんでも鑑定の才能を持つ私が見て進ぜますよ」

「うむ、では、これじゃ」

「剣にしては細身ですな……レイピアでしょうか、刀身を拝見します……!?」

「お爺さん、昨日といい、これといい、あなたは一体?」

「なぁに、ちと長生きしすぎとるただの爺じゃ」


 センお爺さんは質屋に入ると迷わずにお店の店主さんに声をかけて風呂敷の中から一本の剣を取り出します、僕の背より随分と長い剣ですが細いです、店主さんはそれを受け取るとゆっくりと鞘から剣を引き抜きます、思ったより簡単に抜けるんだなと思いました、ですが店主さんは半分くらい刀身を出すと止まってしまいます。


 その刀身は真っすぐで、真ん中に綺麗な波紋の浮かぶ、武器と言うより美術品ではと思わせる美しさを持ってました。

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