謎の老人

「ここの、のいちごはたべてもへーきなものです」


 才能が無いと分かったあの日から、数週間が経ちました、僕は元気に野山を駆けています、街には行ってはいけないと母さんと約束したので代わりに僕は森に出かける事が多くなりました、ここ等辺の山は父さんが危ない魔物や猛獣を退治してるので子供でも浅い所なら安全で入っても大丈夫と言われてます。


 森で出来る事は沢山です、野草や果物を集めればおやつに出来ますし、川には魚もいたりします、小鳥や小動物の観察も楽しいですし、なにより……


「ひみつきち……かんせーなのです!」


 少し奥まった場所にある大木の洞の中に、この森や街の外にどっかの誰かが勝手に捨てて行った潰れたクッションや古いテーブルを頑張って運んで整えた僕だけの秘密基地なのです! ここはたとえ母さんや父さん、兄さん姉さんにも知られてない僕だけの秘密の場所なのです。


「うーん、なかなか、かいてきなのです」


 本当は木の上に作って見たかったけど、木登りは出来ても材料を運んで床や壁とかを作るのは無理なのです、だから木の洞を使ったのです。


「さーて、きょうはかわにあそびにいくのです」

「……うぐっ」

「ふみょ?」

「…………」


 何か踏んづけました、何かと見てみたら僕の足は人間の頭を踏んでいたのです。

ご立派な顎髭に白髪をした風呂敷を背負ったお爺さんなのです、それに服も奇妙ですこの人は男の人なのにまるでスカートみたいなものを履いてますし。

あ、でもよく見たらズボンみたいになってるのです、不思議な服なのです。

って、悠長に観察してる場合じゃないのです! すぐに足をどけて声をかけなきゃ。


「お、おじーさん、だいじょうぶです?」

「ぬぅ、わ、わらしよ、何か食う物をもっておらんか?」

「た、たべものですか、おやつのくっきーでいいなら」

「構わぬ、出来れば水も」

「は、はいこれ、すいとうなのです」

「ありがたや、頂かせてもらう」

 

 お爺さんはどうやら空腹だったようです、顔だけを僕に向けて何か食べ物をねだるので母さんがおやつに持たせてくれたクッキーを上げようと取り出したと同時にひったくるように取って貪り始めたのです、たべおわった頃にお水が欲しいと言うので差しだせば、喉を大きく鳴らして全部飲み干してしまったのです。よっぽどお喉が渇いていた様なのです。


「すまんの、童の親が折角、童の為に作ったおやつをこんな爺がくらってしまって。だがおかげで助かったわい、童は命の恩人じゃて、ありがとのう」

「いえ、こまったときはおたがいさまなのです」

「ほうほう、立派な考えをする童じゃて、して童と呼ぶのは失礼じゃな、名前は?」

「ティグレというのです」

「ほほう、トラと名付けるとは童の父母は童に相当期待してるようじゃ」

「とら? ぼくはティグレなのです、とらなんてなまえじゃないのです」

「かっかっか、そうかそうか、儂は……センとでも呼んどくれ」


 お爺さんは僕の名前を聞いて笑います、トラとは姉さんの本に出て来た伝説の中に出て来る動物のお名前なのです、僕の名前とは全然違うのです。お爺さん、センさんは森を抜けて旅をして来たのですが、途中で道に迷ってしまったそうなのです。


「森の恵みを喰らう事は諸事情で出来んくての、そしたら案の定行き倒れてしまったわい、そんなところにトラが見えての、何か食い物を持っておると思って近づいたはよかったが」

「ひみつきちのまえでちからつきたのです?」

「かっかっか、全く持ってその通りじゃわい、さて、本当は礼を尽くしたい所じゃが、長旅で疲れていての休めるような街がここらにあるか知らぬか?」

「しってるのです、とちゅうまでならあんないもできるのです」

「ほほう、では途中まで頼むとしようかのう、常々助けて貰って、ありがとう」


 お爺さんの二回目のありがとうを聞きながら、僕は今日の森の探検はお終いにしてお爺さんをお家の前の道まで案内してあげる事にしました。


「このままいけば、まちのもんにつくのです、おげんきでなのです」

「うむ、礼を返しにあの木の洞にいつかまた出向くのでの、その時まで達者での」

「べつにおれーなんていらないのです、おじーさんがげんきならそれでいいのです」

「それじゃ儂の気が済まんからの、何、童にとって良い物を送らせて貰うよ、では」


 それだけ言い終えるとお爺さんは去って行きました。なんだか不思議なお爺さんだったのです。でもなんででしょう、お爺さんとは何だか、凄く長い付き合いになりそうだなと、僕は思ったのでした。


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