才能無し

「はい、次の方」

「はい!」


 神官様の前に出て僕は勢いよく返事をします、神官様は何故か眉を顰めて、おざなりに水晶に触れる様に言います、同じような繰り返しで子供の相手をするのに疲れたのでしょうか? 僕は水晶に触れてみますが、何の変化もありません。

 光ったりもしませんし、文字も浮かんできません、どういう事でしょう?


「あー……こりゃ才能無しって事ですね、お疲れ様です、次の方ー」

「え?」


 神官様はそれだけ言うと次の人を呼ぼうとします、どういう事なのでしょう、才能が無い? 才能は神様から誰でも一人は貰う筈なのに、それがない?


「あの、もう一度、確かめさせて頂いても?」

「何度やっても、変わりませんよ、数百年かに一人はいるそうですよ、ま、呪い持ちだからでしょうね、後が閊えますので、どいて頂けますか」

「はい……」


 母さんはもう一度確かめて欲しいと神官様に言いますが、神官様はそれを聞き入れず、すぐにどくように母を野良犬を追い払う様な仕草で追い返そうとします。

 その仕草はどうかと思います。


「ごめんね、ティグレ」

「なんでですか?」


 母さんは神官様の前から離れた後に僕に謝ってきました、母さんが何故謝るのか分かりません。


「……や、やだっ」

「うるせーなぁ、ねえさんがほしがったんだから、おまえはゆずるべきなんだよ」

「ええ、その人形もデミクス家の私の元の方がきっと喜ぶはずよ」


 聖堂の一角で何か騒ぎがあったらしい、そこにはさっきまでお話していたエミリアさんと、僕と同じくらいの男の子と少し背の高い女の子が一緒にいました。

男の子はエミリアさんのウサギの人形を引っ張っています、どうやら取り上げようとしてるみたいです。


「…………」

「てぃ、ティグレ?」

「いいかげん、わたしやがれって……いたっ、なにしやがるテメー!」

「ひとさまのものをとろうとするのはわるいことです!」


 僕は勝手に体が動いていました、男の子の方に体ごと体当たりをしました。

男の子はいきなりの僕の体当たりにずっこけて人形を手放してしまいます。


「よっと、はい、ステラさん、だいじなおにんぎょうさんなのですよね」

「…………うん」

「おまえ……おれがドラゴ・デミクスだと知っててやったのか!」


 落ちたお人形さんを拾ってステラさんに渡していると男の子が自分の名前を叫びます、まるで誰でも知ってるに決まってるという口ぶりです、でも僕は知りません。

 どちら様でしょう? 僕がそう問いかければ、男の子は顔を赤くして僕に拳を振りかぶって来て、思いっきり顔を殴ってきました。


「う、ひとをいきなりなぐるだなんて、ひどいじゃないですか!」

「おまえだって、たいあたりしただろ!」

「それはあなたがひとのものをかってにとろうとしたからです!」

「なんだと!」

「そっちこそ!」


 そこからは覚えていません、取っ組み合いの喧嘩になり、髪や耳を引っ張ったり、噛みついたり、叩いたりとお互いボロボロになるまで喧嘩をして、いつのまにやら僕は家についていました。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「起きたわね、ティグレ、なんで喧嘩なんて……」

「あのこはひとのものをとろうとしたのです、それはわるいことです、だから」

「そうね、人の物を取るのは悪い事、でもだからと言って喧嘩をするのはもっと悪い事よ」

「でも……」

「でもじゃないの、ティグレ街にはいかないようにね、絶対よ」

 

 僕がベッドから起きた時、そこには母さんがいました、母さんは喧嘩は駄目な事、そして僕に街にはいかないようにと言います。兄さん達はよくて何故僕が駄目なのかを聞いたら、母さんはただ、ごめんなさいとそれだけ言って部屋を出て行ってしまいました。


 数日後、父さんが返ってきました、父さんは僕に何の才能があるかを尋ねて来るので、僕は才能が無い事を隠さずに話します、父さんはそうかとだけいって。


「なぁに、才能が無くても、お前は俺の息子、きっとどうとでもなるさ」


 そう言ってくれます、兄さんや姉さんも同じです、僕に才能が無くても、きっと僕なら大丈夫だと言ってくれます、でも母さんだけは浮かない顔ばかりです。

 大丈夫です、僕は元気ですよ、だから母さんには笑顔でいて欲しいです。

 









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