天才が認めた天才
ある天才画家がいた。
彼は幼少期の頃から大人顔負けの優れた画力と創造力を持ち、12歳にして世界一の芸術大学にスカウトされてその才能を遺憾なく発揮した。生み出した名作の数々は世界中を圧巻させ、瞬く間に億単位の値が付き資産家たちに購入され、彼は巨万の富を得て、誰もが今世紀最高の天才だとか、ピカソの再来だとか、様々な異名で彼を褒め称える。
彼自身も相当な自信家であり、「俺様は天才だ!」と声高らかに自称し、誰も自分の才能を超えることができないとか、自分より優れた作品を描くことができないとか、たびたび取材インタビューをされた際に大口を叩いていた。
だがある日、あれほどビッグマウスだった彼の態度が急変した。
テレビ番組にて彼の半生を追ったドキュメンタリーが放送され、今一番注目している画家は誰ですか、という質問をされたときのことである。
彼は「自分を超える稀代の大天才が現れてしまった、素直に敗北を認めざるを得ない」と少し悔しげに呟き、その画家の作品をこれでもかというほどに、綺羅びやかで美しい誇張表現をふんだんに使って称賛し、いつもは決して見せない満面の笑みで延々と語り続けていた。
しかし、肝心の作品は映っておらず、彼が「ははは、もし絵を見せてしまったら私より人気になってしまうからね。悔しいから宣伝したくはないんだよ」と答えるものだから、結局彼をそこまで言わせるほどの画家が誰なのかは分からなかった。
番組の放送後、その画家を特定するためにインターネット上で議論がなされ、彼の発言と一番合致しているのは〇〇だと断言する者、そいつは彼にボロクソに叩かれたばかりじゃないかと反論する者など、しっちゃかめっちゃか熾烈な論争が数週間も繰り広げられる。
だが、そんなネット民たちが騒いでいることなど彼はつゆ知らず、家のアトリエで創作活動に励んでいた。
あまりにも熱が入りすぎていて昼食のことも忘れ、すっかりお昼を過ぎて3時頃になってしまったので、さすがに一度食事をしようと階下に向かおうとする。すると、「できたー!」と娘があどけなく叫ぶ声が下から聞こえてきて、彼は喜々として階段を駆け下り彼女の部屋に入っていた。
そこにいた娘は満足そうに笑い、画用紙を両手で高く上げて「ねぇ、パパ! どう!?」と彼の喜ぶ顔を期待するかのように明るくねだる。画用紙には砂浜で家族3人スイカ割りをしている光景が、クレヨンで拙いながらも時間をかけて頑張って描かれており、それを見た彼は感動のあまり涙を流し、娘を抱き上げてほっぺたにキスして、こう言った。
「天才だ!」
へんな1分間をお届けします。(ショートショート集) 佐波尾 @sabao0428
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