11話 野獣ルーナリアンVSロリコン魔女


 冒険訓練5日目の午後。

 ルーナとリリアンは中庭でストレッチをしていた。

 2人とも身体はかなり柔らかい。

 ナデテは石に座って2人のストレッチを眺めている。

 本日も晴天。戦闘するにはうってつけの日。


「こんなもんかなー」


 言いながら、ルーナはピョンピョン跳ね始める。


「暖まってきたねー」


 リリアンも同じように飛び跳ねる。


「夏だし、やりすぎると逆にバテちゃいそうだね」

「本当にねー」


 2人はいつも通り、笑顔で会話している。


「迎えに来たわよー」


 突如、魔女が中庭に現れた。

 ナデテは少し驚いたが、ルーナとリリアンは冷静だ。魔女の魔法は知っている。全部ではないが、割と知っている。

 魔女はいつもと同じ紫のクソダサい服だ。特に戦闘の用意などはしていない。

 そう、自分がラスボスにされたことは知っている。覗いていたから。だけれど、そのことは2人には秘密なのだ。


「珍しい髪の色じゃな」


 魔女の爽やかなストロベリーブロンドの髪を見て、ナデテが言った。

 実は頭の中もピンクなのだが、当然ナデテは気付かない。


「ねぇ魔女さん、あの子」ルーナがナデテを指さす。「飼って欲しいの」


「って、妾はペットかーい!!」

「ヴァンパイアなんだけど、家出してて行き場ないみたいだ。魔女さん、少しだけでいいから飼ってあげて?」

「だから妾はペットかーい!!」


(生で見ると可愛いわね! 銀髪に紅い目の美少女!! 普通に可愛い! 押し倒したーい! ペットでいいなら首輪とかしていいのかしら!? ドキドキしちゃーう!)


 魔女はジッとナデテを見詰めた。

 そして。


「ダーメ」と言った。


 ルーナとリリアンは断られると思っていなかったので、激しい衝撃を受けた。例えるなら、馬車で撥ねられた上、ハンマーで頭を砕かれるような衝撃。


(わたしが予想に反して断ったら、美少女たちはどーんな顔するのかしらぁん!! ウキウキしちゃう!)


 魔女は内心のワクワクを表情に出さなかった。


「ま、魔女さん」

「魔女さーん」


 ルーナとリリアンは半泣きで魔女に寄っていき、ギュッと魔女に抱き付いた。

 そしてウルウルした瞳のまま、上目遣いに魔女を見上げる。


「お願い魔女さん」

「あたしら、何でもするから」


(きゃああああああああ!! かーわーいーいー!! かーわーいーいー!! 萌え狂って死ぬぅぅぅ! わたしが死ぬぅぅぅ!! 涙目の美少女はもはや兵器!! 心臓射貫かれたぁぁぁ!! 萌え死ぬぅぅぅぅ!! 意地悪言って良かったぁぁぁぁ!!)


 2人の表情を見た魔女は、悶え死にそうになった。

 魔女はあまり表情を動かさない。だが無表情なわけではない。些細な動きがある。

 ルーナとリリアンは魔女の微表情を丁寧に、だけれど素早く読み取った。


(リリちゃん、もう少し攻めてみよう)

(よし、更に攻めようルーナ!)


 ルーナとリリアンの考えは完全に一致していた。


「私、魔女さんのこと、本当に大好きなの」

「あたし、魔女さんにはいつも感謝してるんだぜ?」


 2人は相変わらずのウルウル瞳で魔女のブラウンの瞳を見ている。


(らめぇぇぇぇぇ!! らめなのぉぉぉぉぉぉぉ!! 可愛すぎてぇぇぇぇ!! 今すぐ犯したいぃぃぃぃぃ!! てゆーかぁ!! 何でもしてくれるなら、何でもしてもらえるわけだから、何でもしてもらうわぁぁ!! 自分で何言ってるのか分からなーい!!)


「飼って、いい?」

「いい?」


 2人はとっても可愛らしく言った。

 たぶん、12年の人生において、これほど可愛く何かを言ったことはない。

 媚びて、媚びて、媚びまくった。


「いいわ! 飼いましょう!」


 魔女は力強く言った。


「やったー! 魔女さん大好き! 決闘しよう?」

「大好きだ魔女さん! 勝負しようぜ!」


 2人がサッと魔女から離れる。


「え? 今の流れで戦うの?(いつものことだけど、この子たち空気読まないわね。わたしが覗いていたから良かったものの、何も知らなかったらキョトンとしちゃうわ)」


「成長した私たちを、見て欲しいな!」


 ルーナが踏み込み、短剣を抜いて魔女に斬りかかる。

 魔女はそれを躱し、足を引っかけてルーナを転がす。


「それ! 【天使降臨】!」


 リリアンが天使を出現させる。

 天使は光の剣で魔女に斬りかかる。

 天使が縦に剣を振ったので、魔女は半歩横に移動して軽く避けた。

 それから、天使の顔にハイキック。

 強烈な一撃だったので、天使が消滅。

 ルーナがコッソリ立ち上がっていて、【暗黒剣】を握って横に振る。

 魔女は大きく飛び上がって回避。そのまま空中に留まる。


(やだこの子たち、いきなり全開じゃないの。てゆーか、容赦なさすぎない? いくら相手がわたしだからって、普通に殺す気できてない? まぁ、そうするように教えたのわたしだけれど)


 と、リリアンが短剣を投げた。

 魔女は飛んできた短剣を右手の人差し指と中指で挟んで止める。

 そしてリリアンに投げ返した。


「わっ!」と驚きながら、リリアンが横に飛ぶ。


 リリアンが投げた短剣の速度より、魔女が投げた短剣の速度の方がずっと速かった。


「闇支援! 【明日羽】!!」


 ルーナの背中に、真っ黒な魔力の羽が生まれる。形が不安定で、少し揺らめいている。

 ルーナは空を飛んで魔女に向かって行った。右手には【暗黒剣】も残っている。


(うっそでしょ? 魔法の2つ同時展開!? 12歳でそこまで可能なの!?)


 魔法は基本、いくつか同時に展開可能だ。

 しかし、それは熟練の魔法使いの話であって、最初はみんな1つの魔法しか展開できない。

 ルーナの斬撃を躱しながら、魔女は次にどう攻めるか考えていた。


「光付与! 【ルーナの翼】!」


 リリアンは自分自身に光の翼を付与し、ルーナと同じように空を舞った。


(この子たち、魔法覚えるの早すぎっ!)


 ルーナがメインで攻撃して、隙間を埋めるようにリリアンが短剣で攻撃する。


(魔法兵の連携を高いレベルで習得してるわね。これ、ちょっと真面目にやらないとヤバいわね)


 魔女は2人の攻撃を捌きながら、地上に降り立った。

 同時に、ルーナとリリアンも地上へ。

 2人ともすぐに翼を消した。魔力の節約だ。


「仕方ないわねぇ」魔女は苦笑いした。「神域属性・雷撃。【ライトニングバースト】!」


 魔女の右手から放たれたおびただしい数の稲妻は、周囲一帯を破壊した。

 ルーナとリリアンは躱すこともできず、稲妻にまともに当たった。

 2人ともビリビリしてその場で倒れてしまう。


「手加減はしたけど、しばらく痛いわよ?(2人の成長がわたしの想像を超えていたわね。ビックリしたわー。次の冒険訓練では容赦なく中位の魔物をけしかけても良さそうね)」


「おおおおおい!」ナデテが言う。「それお主、勇者の血筋しか使えない神域属性やないかーい!!」


 勇者というのは、生まれた時から特別な強さを持ち、雷撃を扱える一族のこと。

 ちなみに、魔女はナデテに魔法を当てていない。そのあたりはちゃんとコントロールした。


「うにゅーん。負けちゃった」


 ルーナは立ち上がれないので、地面に転がったまま言った。


「魔女さんやっぱり超強いな」


 リリアンはうつ伏せ状態だったのだが、転がって仰向けに。


「2人とも成長したわねー。正直驚いたわ」


 魔女は回復魔法をルーナとリリアンの両方にかけた。


「妾は無視かーい!」


 ナデテは勢いよく立ち上がった。


「あら? 今日からわたしのペットになるのよね?(はぁはぁはぁ! あーんなことや、こーんなこと、しましょうねー!! ふ、ふふふふふ! ロリコンで良かったわー! わたしがロリコンじゃなかったら、飼ったりしなかったわよ? でも幸運なことに、わたしはロリコン! で、あるならば! 銀髪美幼女に! おうちでいけないことを、色々しちゃいましょうってね!)」


 魔女はナデテにどんなイタズラをしようか、今から胸がドキドキしていた。


「結局、妾はペットかーい!」


「冗談に決まってるじゃん」リリアンが起き上がりながら言う。「魔女さんは優しいし、そんな風に扱ったりしないぞ?」


「そ、そうよ! 冗談に決まってるじゃないの!(あっぶなーい! 本気だったわ! わたしはロリコンなのよ? 美幼女をペットにできます、どうしますか? って聞かれて断るわけないでしょーが! まぁ、でもわたしがロリコンなことは秘密にしなくちゃね! ルーナとリリアンにバレるとさすがにキツいわー!)」魔女が言う。「さぁ、みんな帰りましょう?(普通にナデテの両親には1度挨拶に行った方がいいわね。娘さんにイタズラしていいですか? じゃなくて、預かってます的な)」

 

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