12話 美少女たちの笑顔
「ぎゃーー! なんでお姉ちゃんいるのぉぉぉ!」
魔女の家に戻った瞬間、ルーナはリリアンの背中に隠れた。
「しかも武器持ってるぞ!(ああん! 怯えるルーナ可愛いよぉぉぉ! 一生、あたしの背中に匿いたい!!)」
リリアンは気丈にも、両手を広げてルーナを守る素振りを見せた。
「おかえりなさいルーナ」クリスは淡々と言った。「無事で何よりですわ」
「あれ? お姉ちゃんもしかして、怒ってないの?(それはそれで、つまんなーい)」
ルーナはリリアンの背中から顔を出して言った。
「とぉっても、怒ってますわよ?」クリスが笑顔で言った。「今日からしばらく椅子に座れないと思いなさい。黙って行くなってあたくし、あれほど言いましたわよね?」
「あわわわわ! 魔女さん! 助けて!(ああ、でも怒ったお姉ちゃん本当、可愛い! 鬼畜天使! お姉ちゃん元から美人だけど、怒ったら綺麗度がマシマシになるんだよね! 可愛い! 鬼畜可愛い!)」
ルーナが振り返って言った。
「無理よ(ルーナのことは大好きよ? でも、怯えるルーナも可愛いわ! 興奮しちゃう!)」
魔女は目を逸らして床を見た。
クリスは「どちら様かしら?」とナデテを見た。
「は、初めまして、なのじゃ(あのルーナが怯えておる! これが悪魔で鬼畜な姉か! 威圧感が半端ないのじゃ! ってか、暴力的なまでに美しいのぉ! ビビるわぁ! 妾、こんな美しい人間見たことないのじゃ!)」
「クリス・パーカーよ。ルーナの姉」
「ナデテ・ハーンですじゃ。一応、種族はヴァンパイアで……」
「ヴァンパイアですって?(知っていますわ。見守りしてましたもの。でも、ここは知らない振りをしておきましょう)」
クリスが目を細めた。
「ひっ! 妾はいいヴァンパイアじゃ! いいヴァンパイアなのじゃぁぁ!(睨まれておるぞぉぉ! 退治されるのか!? 妾、退治されるのか!?)」
「お姉ちゃん! なーちゃんは悪くないよ! でも私の代わりにお仕置きしていいよ!」
「速攻で妾が売り飛ばされたぁぁぁぁ!!」
ナデテは魔女に抱き付いた。
魔女が近くにいたからで、別に深い意味はない。
(ああん! 銀髪美幼女がわたしに抱き付いてきたぁぁ!! 何これ両思い!? キスぐらいなら、100回ぐらいしてもいいのかしらん!?)
魔女はご満悦だった。
怯えるルーナ、それを守ろうとするリリアン、そして抱き付くナデテ。
魔女にとって美少女たちの反応はいつだって心地よい。
「ルーナ。あたくしは冒険に行ってはいけない、とは言ってませんのよ? ナデテちゃんはあとで話しましょうね?(一応、領主の首席補佐官としていくつかの注意点を話す必要がありますわ。街で正体をバラさないとか、人々を傷つけないとか)」
「ひっ!(退治されるぅぅ! 妾あとで退治されるぅぅ! どうすればいいのじゃぁぁ!)」
「あれ? お姉ちゃん冒険に反対じゃないの?(私がすることだいたい反対するのに、どういう風の吹き回し? まさか、罠!?)」
ルーナはまだリリアンの背中から出ていない。
それどころか、ルーナは罠を警戒してリリアンのマントの中に入った。
(ああん! ルーナが入ってくるぅぅ! あたしの中に入ってくるぅぅ!! 野獣ルーナリアンの復活だぁぁ! けど! 相手がクリス姉様じゃ分が悪いぞ! いつか分からせるけど、今じゃない!)
リリアンはクリスに勝てないと悟っている。
「反対だなんて、一度も言ってませんわよ」クリスが溜息を吐く。「あたくしはただ、キチンと許可を取って、勉強など、やるべきことをやって、それから遊びなさいと言っているだけですわ(まぁルーナが全然、まったく言うことを聞いてくれませんけれど)」
「そっか! 分かったよお姉ちゃん! 次からそうするから、お仕置きなしにして!(平手の百叩きなら、もう私のお尻の方が強いんだけど、棒鞭は無理! そんな武器持ち出すなんて、お姉ちゃんは本当鬼畜だなぁ)」
リリアンのマントに隠れたまま、ルーナが言った。
「それはダメですわ」クリスが淡々と言う。「それに、今回はリリアンもお仕置きしますわね」
「ふぇえ!?」リリアンが驚いて泣きそうな声を出した。「なんで!? なんであたし!? 何かした!? あたし、何かした!?」
「院長先生が心配してますわ。今回は書き置きなしで行きましたわね? いくら放任主義でも、さすがに一言もなしで5日はダメですわ」
なぜクリスが知っているかというと、魔女に聞いたのだ。
魔女はリリアンのこともよく水晶で覗いているから、リリアンが誰にも告げずに自分の家に来たことを知っている。
だから一応クリスに報告したのだ。
リリアンが消えたことになってるけど、平気なの? と。
そしてクリスは見守りの途中で1度抜けて、院長と話をしている。リリアンが無事であることと、戻ったらキツくお仕置きしておくことを話した。
そして速攻で魔女の家に戻って何事もなかったかのように見守りを続けた。
「リリちゃん、一緒に頑張ろうね!」
ルーナがマントから出て、リリアンの両手を掴んだ。
絶対に離さない、という強い意志を込めて。
「ふぇぇん。怖いけどルーナが一緒なら、あたし頑張れる」
リリアンはルーナに抱き付いた。
◇
数日後。
「ルーナだよー!」
「リリアンだぞー!」
魔女の家の玄関を、2人が元気よくトントンした。
「ナデテなのじゃぁ!」
魔女の家の玄関を開けて、ナデテが勢いよく飛び出す。
そして速攻でルーナに抱き付き、次にリリアンに抱き付いた。
あれから、ナデテは魔女の家で居候している。
「いらっしゃい2人とも。次の冒険でしょ? ロケーションは?(てゆーか久しぶりね。外出禁止を守っていたのかしら2人とも)」
魔女も玄関を出て、2人の頭を撫でる。さりげないスキンシップである。下心など見えない、普通のスキンシップ。
もちろん、下心全開だが、それを隠しているのだ。
「「密林!!」」
ルーナとリリアンの声が重なった。
「分かったわ。いい感じの密林探しておくわね。とりえず、お茶でもどう?(さりげなく、美少女たちを家へと誘うわたし! もはや神のように何気なくこなせるわ!)」
「もらうー!」とルーナ。
魔女は2人を家の中に案内する。いつもの客室だ。
しかしルーナもリリアンも立ったままで座ろうとしなかった。
ナデテはさっさとソファに腰掛ける。
「座らんのか?」とナデテ。
ルーナとリリアンは顔を見合わせて、頷く。
「聞いてよなーちゃんも魔女さんも!」
「聞いて聞いて! クリス姉様はやっぱり悪魔だ!」
「ふふっ、お尻痛くされたのね? 看てあげましょうか?(むしろ見せてぇぇぇ!! ナデナデしながらお薬塗ってあげるぅぅ!! 魔女さんが塗ってあげるぅぅぅ!!)」
「極悪非道のお姉ちゃんは! なんと!」ルーナが大げさに言う。「回復魔法、禁止にしたんだよ!(まぁいつものことだけどさ)」
「そう。しばらく反省の意味で痛いままでいなさいって言うんだぞ! 酷い! まさに悪魔! いつか、いつの日か! 絶対に分からせてやるんだ!(てゆーか、そもそも! あたし本当はルーナに叩かれたかったよぉぉぉ!! 今度お願いしてみようかな!)」
(妾が思うに、別に姉様は普通じゃったぞ? 黙って出て行く2人が悪いのではないかの? 家出した妾が言うのもアレじゃが)
ナデテはクリスと打ち解けていた。あのあと、クリスはナデテに注意事項などを優しく話したのだ。
「薬も禁止なの?」と魔女。
「んーん」ルーナが首を振る。「お姉ちゃんが塗ってくれる。リリちゃんは院長先生が塗ってくれてる」
「そうなのね(わたし対策ね! わたしが2人のお尻を撫で回すって先読みしたわねクリス!! それにしても自分で叩いて自分で撫でるとは高度ね! あと、院長先生は棚ぼたね! 羨ましいわ! わたしも孤児院でも開こうかしら! 14歳以下限定の!)」
「あ、そうだなーちゃん」ルーナが言う。「お茶飲んだら私たちの秘密基地に案内してあげるよ」
「おう。ナデテはあたしらの妹分だからな! 基地に入る資格がある!」
「おお! 秘密基地! それは甘美な響きじゃぁ! 楽しみじゃぁ!」
ナデテは無邪気に笑った。
ルーナとリリアンも笑顔だった。
(ああ……この子たちの笑顔は尊いわ。泣き顔や怯え顔、怒った顔も好きだけれど、やっぱり笑顔が最高に尊いわね。魔女さんトロトロになっちゃーう!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます