10話 ルーナと全裸の夏


 冒険訓練4日目。

 午前中。快晴。夏の日差しがジリジリと空気を蝕む。

 空は突き抜けるぐらい高くて、遠くの空に入道雲が浮いている。

 ルーナ、リリアン、ナデテの3人は中庭の井戸で水浴びをしていた。

 暑いからというよりは、さすがにそろそろ身体が臭くなったからだ。


「冒険者なら、臭くてもいいんじゃないかの?」


 ナデテがふと、疑問を口にした。

 冒険者は何日もお風呂に入れないこともある。


「そうだけど、今回の訓練はこのお城にある道具を使って生活することだよ」


 言ってから、ルーナは桶の水を頭から被った。

 冷たくて気持ちいい。地下水なので冷えているのだ。


「だから、お城の中でなら、何をしてもいいんだ」リリアンが言う。「お城を壊してもいいんだぜ?」


 リリアンはニヤニヤしながらナデテを見た。

 ナデテは「むぅ」と言いながら頬を膨らませた。

 当たり前の話だが、3人とも全裸である。清々しいまでの全裸である。


「それに気持ちいいでしょ?」とルーナ。


「超気持ちいい!」


 リリアンは嬉しそうに言って、ルーナに抱き付いた。


(ルーナの肌! ルーナの肌! もっちもち! すっべすべ! 水浴びしたから、綺麗になってる! えへへ! 超気持ちいい!)


「妾も!」


 ナデテもルーナに飛び付いて、そのまま抱き付いた。

 リリアンが前から、ナデテが背後からルーナをホールドしている状態だ。


「もう! 2人とも! 私動けないよぉ!(ダメ、リリちゃんの胸と私の胸が擦れちゃって……ああん! もうバカァ!)」


 ルーナは頬を染めながら言った。



「尊いぃぃぃぃぃぃ!!」魔女は半狂乱で叫んだ。「美少女たちが! 美幼女たちが!! 全裸でイチャイチャ!! 尊いぃぃぃぃぃぃぃ!! 死ぬ! わたし死ぬぅぅぅぅ!! 尊い死するぅぅぅぅ!! 今回全裸はないかと思ったけどぉぉぉぉ!! あったよぉぉぉぉ!! ありがとう夏の日差しぃぃぃぃ!!」


「ルーナ眩しいですわぁぁぁぁ!!」クリスも半狂乱で叫んだ。「眩しい!! 眩しいですわ!! 夏の空の下で水浴びするルーナ! 尊い! これは尊いですわぁぁぁぁ! 画家を! 画家を呼んでこの瞬間を永遠にしたいですわぁぁ!! 絵画として残したいぃぃぃ!! ルーナと全裸の夏!! ってタイトルですわ!! てゆーか、あたくしも交ざりたいぃぃぃぃぃ!!」


 2匹の変態がそこにいた。



「はぁ、明日でこの冒険訓練も終わりかぁ」


 お昼ご飯にアーモンド芋虫を食べながら、ルーナがしみじみと言った。

 ここは拠点の部屋のベッドの上。

 大きなお皿に大量の芋虫と野草が載っている。芋虫はいつもの如く、軽く炙っている。野草は生だ。


「ねー。今回もあっという間だったなぁ」


 リリアンもしみじみと言った。


「芋虫がこんなに美味しいとはのぉ。妾、新しい扉開いたわぁ」ナデテも芋虫を食べている。「って、終わりってどういう意味じゃ?」


「私たちの冒険訓練は5日なんだよね」

「明日が5日目だから、魔女さんが迎えに来る」

「ほうほう。迎えに来るとどうなるんじゃ?」


 ナデテが小さく首を傾げた。


「「家に帰る!」」


 ルーナとリリアンの声が重なった。


「そっかぁ。帰るのかぁ……って! ダメじゃ! 帰っちゃダメじゃ! ダメなのじゃ!」


 ナデテが駄々っ子みたいに言った。


「なんで?」とルーナ。


「寂しいのじゃ! 寂しくて妾、死んでしまうのじゃ! だからダメじゃ!」ナデテは瞳に涙を溜めている。「そうじゃ! いいこと思い付いた! このまま3人で冒険に出よう! どうじゃ!? いい考えじゃろ!? ずっと3人一緒じゃぞ! 気ままに世界を放浪するのじゃ!」


「いつか、私たちは旅に出るけど」

「今じゃないぞ」


 ルーナとリリアンは冷静だった。

 2人は自分たちの実力をしっかりと把握していて、本格的な冒険はまだ無理だと理解しているのだ。


「いーやーじゃ! 今出るのじゃー! 魔女なんか来なくていいのじゃ! 妾の友達を拉致する魔女なんか、妾が退治するのじゃぁ!」

「魔女さんが退治されちゃう!」


 ルーナはなぜか楽しそうに言った。


「むしろ、あたしらが退治しちゃうか!」


 リリアンも楽しそうに言った。


「お、おお! リリちゃんは妾に賛成してくれるのか!?」


「違うよ」ルーナはニッコリと笑った。「てゆーか、別に一緒にいたいなら私たちとくれば?」


「おう。うちの孤児院に入ればいいぞ。基本、放任だからうるさく言われることもないし。よっぽどのことしなきゃ怒られない」

「私の家が援助してるから、私が頼めば間違いなく入れるよ」


「ほ、ほほう!」ナデテは瞳をキラキラさせて言った。「妾、一緒に行けるのか!? 妾、魔物じゃけど、大丈夫か!?」


 ナデテの言葉で、ルーナとリリアンは顔を見合わせた。


(きゃー! なーちゃんが魔物なの忘れてたぁぁ!)

(さすがに魔物は無理かもしれないなぁ。うちが放任主義でも)


 2人の困り顔を見て、ナデテはガックリと項垂れた。


「やっぱり、魔女を退治するしか……」とナデテ。


「魔女さんの家に居候する方向でどう?(うちのメイドって手もあるけど、ぶっちゃけもう人数足りてるんだよねぇ)」とルーナ。


「それいいな! 魔女さん実は街の嫌われ者だし、あたしらのこと大好きだから、ちょっとお願いすればオッケーしそう!(あれ? 街の嫌われ者なのは言わなくても良かったかな?)」


「そうそう。魔女さんチョロいから、軽くほっぺにちゅーでもしておけば、何でもしてくれるよ(魔女さんが聞いたら少し怒りそう。でも魔女さん優しいからやっぱり怒らないかも?)」


「妾も、ほっぺにちゅーした方がいいのか?(あれ? 街の嫌われ者の家に住んだら、妾も嫌われ者になるのでは?)」


「分かんない」とルーナ。


「まぁ、心配しなくても大丈夫だと思うぞ」リリアンが言う。「念のため、あたしらの成長を見せて喜ばせておけば更にいい」


「うん。魔女さんは私たちの成長が何より嬉しいみたいだし、ちょっと実力示したいよね。なーちゃん関係なく」

「妾、関係なく!?」


 ナデテが驚いたように目を丸くした。


「そう。なーちゃん関係なく、そろそろ魔女さんに挑んでみようかなって。前は手も足も出なくて、鍛え直しって言われて大変だったけど」

「そうそう。あたしらに腕立てさせて、魔女さんあたしらの背中に座ったんだ。おかげで腕力付いたけどさぁ」

「ほ、ほう。魔女とやらはそんなに強いのかの?」


 ナデテの質問に、2人は力強く頷いた。


「ぶっちゃけ魔女さんって世界滅ぼせるよね」

「規模がぁぁぁ!! 世界レベルじゃったぁぁぁ!!」


 ナデテはあまりの驚きに両手で頭を抱えた。


「あたしもそう思う。魔女さんに対抗できるのって、近場だとクリス姉様ぐらい?」

「悪魔で鬼畜な姉様も規格外じゃぁぁぁぁ!!」


 ナデテは胸を反らして引っくり返りそうになりながら言った。


「まぁ嘘だけど」とルーナが微笑む。


「嘘なんかーい!!」


 ナデテは力の限り叫んだ。


「ナデテって本当、反応面白いよな(なんか妹ができたみたいで、あたし嬉しいな)」


「ま、なーちゃんのことはお願いしてみるよ」ルーナが言う。「でも、それはそれとして、私たちは魔女さんと対決する!」


「よぉし! 勝つぞぉぉ!」



「よく分からないノリで今回のラスボスにされたぁぁぁぁぁ!!」


 魔女が頭を抱えて叫んだ。


「てか、魔女はルーナとリリアンに甘すぎますわ。チョロチョロ扱いされてるじゃありませんの」

「く、訓練は厳しくしたわよ? 生き残って欲しいもの」


「背中に座って腕立てもどうせあれでしょ? 美少女を椅子にするなんて贅沢ぅぅ! 気持ちいいぃぃぃぃ! とか思っただけでしょ?」


「くっ……心が読めるの!?」

「あたくしのことも椅子にしたじゃありませんの。でも魔女は椅子になる方が好きなことも知ってますわ(そう。経験的に)」


 クリスはやれやれと首を振った。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る