8話 ラメダメの魔女


 すでに日が落ちた廃墟の城にて。

 ルーナとリリアンはナデテと一緒に昼食を摂ったあと、城を探検し、夕飯を捕まえて、調理して、綺麗に全部食べた。

 そして今は拠点にした部屋のベッドの上で、3人仲良くお話タイムだ。


「つまり妾は、家を出たわけじゃ。自立したのじゃ(どうじゃ? 妾はお姉さんであろう?)」


「家出少女だね」

「家出とかウケるぞ」

「家出とちがーう!! 自立じゃ自立!!」


「どっちにしても、気ままに世界を彷徨ったんだね?(もしかして冒険の先輩!?)」

「それはすごいな。空白地帯とか行ったのか!? てかどこから来たんだ!?(冒険の生話が聞けるかも!)」

「妾が家出したのは3日前じゃから、特にどこにも行っておらんぞ?」


 ナデテはすごく偉そうに言った。

 沈黙。

 ルーナとリリアンは顔を見合わせる。


(まったくどこも彷徨ってなかったどころか、自立じゃなくてやっぱり家出だったね! ちょっとこれは、なーちゃんに分からせてあげようかリリちゃん!)

(普通にただの! 普通に普通の家出だったぁぁ! さすがのあたしもビックリだ! よぉし、ナデテにはちょっと分からせてやった方がいいな!)


 そして頷き合った。珍しくすれ違わなかった。


「がおー!! 野獣ルーナだぞー!!」

「がおがおー!! 妊娠させてやるぞぉ!!」


 2人はナデテに襲いかかってくすぐり倒して、更に服を脱がせた。


「やめるのじゃー! やめるのじゃー! 妾は妊娠したくないのじゃー!」


 素っ裸になったナデテが絶壁の胸を隠して頬を染めた。


「あー楽しかった」

「だな。もう着てもいいぞ」


 ルーナとリリアンは満足してベッドに転がった。


「おおおおおい!」ナデテが盛大にベッドに倒れ込む。「なぜ脱がせたのじゃぁぁぁ!! 何もせんのに!! なぜ!!」


「何かして欲しいの? なーちゃん、ルーナお姉様って言ったら遊んであげるよ?」

「あたしも! あたしもリリアンお姉様って呼んでくれていいぞ!」

「何を言うか! 妾の方がお姉さんじゃ!」


 ナデテは立ち上がり、存在しない胸を張って言った。

 あまりの断崖絶壁に、ルーナとリリアンは少し悲しくなった。だって、ルーナとリリアンにはささやかながらも、膨らみがあるのだから。


「そうだね。なーちゃんはお姉さんだね」

「おう。ナデテはお姉さんだ」


 2人は優しい口調で言った。

 2人の視線はナデテの胸。

 そのことに気付いて、ナデテは再び頬を朱色に染めた。


「む、胸はそのうち育つもん!!」ナデテが半泣きで言った。「育つってママ言ってたもん!!」


 のじゃ口調も忘れるぐらい、ナデテは必死だった。


「そうだね。きっと育つよ。うちのお姉ちゃんも、昔は絶壁だったのに今はそこそこ育ってるから大丈夫だよ。ちゃんと揉んで確認したから」


 ルーナは立ち上がり、ナデテを抱き締めた。


「本当か? 妾もボインちゃんになれるかの?」


「それは個人差があるぞ」リリアンも立ち上がり、ナデテを抱き締める。「でも、希望は捨てちゃダメなんだ、こういうのは(ルーナもクリス姉様ぐらいにはなるのかなぁ? そうなったら一番にあたしが揉むぞぉ!)」


「うん。誰にだって希望はあるんだよ?(リリちゃんにもあるよね? せめて揉んで楽しいぐらいには成長して欲しいなぁ)」



「膨らんじゃらめぇぇぇぇぇ!!」魔女が絶叫した。「らめなのぉぉぉぉぉぉ!! 小さいのがいいのぉぉぉ! 蕾みが美しいのぉぉぉぉ!」


 魔女があんまりうるさかったので、クリスは両耳を塞いだ。


「ちょっと魔女。叫びすぎてダメがラメになってますわよ。ダメラメですわよ?」

「おっぱいはちっぱいじゃないとダメラメなのよ!! どうして分からないのかしら!! 人類はみなちっぱいになるべきなのよ!! こうなったら、わたしは人類総ロリ化魔法を編み出すしか!!」


「ぶちますわよ?」


 クリスが右手を上げると、魔女はピタッと動きを止めた。


「うるさくしたのは悪かったわ。でもクリちゃん。真剣に考えて欲しいの。もしもルーナが成長したら、悲しいでしょう?」

「普通に嬉しいですわ」

「……解り合えないわね。寂しいけれど、仕方ないことなのね」


 魔女は小さく首を振った。

 それから水晶に集中した。



 翌朝。冒険訓練3日目。


「今日も元気に!」とルーナ。

「朝ご飯を調達だ!」とリリアン。


「うにゃん……妾のも頼むのじゃ」


 ナデテはベッドで丸まっている。


「ダメ! 食事は自分で採るの! もしくは何か手伝ってくれなきゃダメ!」


 ルーナは強い口調で言った。


「でもママ……妾、まだ眠いのじゃ……」


 ナデテは目を擦りながら、ゆっくりと起き上がる。

 だけど四つん這いになった状態で再び目を瞑った。


「ヴァンパイアだから朝は苦手なのかも」リリアンが言う。「じゃあ夜寝るなよって話だけどな」


「あと、私たちはママじゃない」ルーナが言う。「起きて何か手伝って」


「にゃぁ……じゃあ、妾、朝は血だけでいいのじゃ……。美少女の血だけで……」

「起きなさい!」


 ルーナはクリスの真似をして鋭い口調で言った。

 ナデテはビクッとして起き上がった。


「おはようございますですじゃ!」


 ナデテは真っ直ぐにルーナを見て朝の挨拶をした。

 ルーナの横でリリアンもビビっていた。


(ああん! ルーナがクリス姉様みたいになってくぅぅ!! 嫌だぁぁ!! ルーナは永遠に可愛いままでいてくれぇぇぇ!! クリス姉様みたいになったら、そのうちルーナ、あたしのお尻をぶつんだぁぁぁ! ああん! 想像したらなぜかちょっと変な気分になったぁぁぁ! なぜだぁぁあ! ちょっとぶたれたぁぁぁい!)


「血が欲しいなら対価を払ってね」ルーナが言う。「私たちは冒険者であって、慈善事業やってるわけじゃないからね?」


「そう言えば、冒険の練習中であったか」


 ナデテが頷いた。

 ルーナとリリアンがなぜこの廃城に来たかは、昨日のうちに説明している。


「よかろう。もし魔物が出たら妾が倒す。それでどうじゃ?」

「え? ダメだよ。ねぇリリちゃん(私たちが倒すし。練習で)」


(ルーナにどうやって、お尻ぶってもらおう? いきなり言ったら変に思うかな? どうしよう?)


 リリアンは話に参加していなかった。


「リリちゃんってば!」


 ルーナはバシッとリリアンのお尻を叩いた。


「はうぅ!」


 リリアンが少し跳ねた。


(ね、願いが届いた! ルーナに願いが届いたぁぁ! あたしたち、以心伝心してる! ルーナ、あたしたち以心伝心してる!)


「どうなのリリちゃん?」

「うん。なんて言うか、ちょっといいかも? これからもお願いします。でもそれはルーナだからであって、他の人じゃダメだと思うあたし」


「えっと?」とルーナが首を傾げる。


「ルーナ大好きってこと」


 リリアンがソッとルーナを抱き寄せた。


「……リリちゃん。照れるよ……」


 ルーナは頬を染めながらも、リリアンを抱き返した。


「なーんでーそーなるのじゃぁぁ!」


 ナデテがベッドからジャンプして、床に着地すると同時に、2人の頭に手刀を落とした。

 それで2人は離れた。


「魔物退治が対価でいいのか? それともダメなのか? 妾もう混乱しておるぞ!」


「うん。ダメだよ」とルーナ。


「そうだそうだ!(何の話か分からないけど、ルーナに同調しておこう)」

「では、妾はどうしたら血がもらえるのじゃ?」


 ナデテはムスッとした様子で言った。


「うーん」ルーナが考えるような仕草を見せる。「正直、この訓練ちょっとヌルいよね?」


「それ思った」リリアンが言う。「無人島とあんまり変わらないどころか、こっちの方が楽まである」


「でしょ? 全裸を勧めた魔女さんはやっぱり正しかったんだよ」

「あたしもそう思う! やっぱり魔女さんは頼りになるな! 魔女さん最高!」


 リリアンが喜んで飛び跳ねた。


「だから、ヴァンパイアと本気の鬼ごっこをしよう」ルーナが提案する。「捕まったら、私たちは残りの日数を全裸で過ごす。それに血もあげる。どう?」


「おおう! いいなそれ! ヴァンパイアと鬼ごっこ! 訓練にもってこいだ! よぉし! ナデテはあたしらを捕まえる! あたしらは逆にナデテを捕まえるってどう!? 魔物退治的な意味で!」


「妾、退治されたくないのじゃぁぁぁ!!」


 ナデテが半泣きで言った。


「フリだけだよ」ルーナが微笑む。「どうかな? 私たちと、鬼ごっこという名の、疑似バトルする? 勝てば血、飲み放題」


「やるのじゃ!」


 ナデテは深く考えず、右拳を握ってガッツポーズ。

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