7話 ヴァンパイアに分からせた!
「可憐なる影の朧、妾こそがヴァンパイアの姫君! だったらいいなぁ! ナデテ・ハーンじゃ!」
銀髪ヴァンパイア幼女ナデテは、棺桶から出て絶壁の胸を張って言った。
「ねぇリリちゃん、撫でて?」
「ルーナ可愛いな、よしよし、ルーナ可愛いな」
リリアンがルーナの頭を撫で撫で。
「うにゅーん」ルーナが気持ちよさそうな表情を見せる。「気持ちいいよー。つい声が出ちゃう。はぁ~ん」
ルーナの台詞が終わったと同時に、リリアンが噴き出す。
「撫でて?」とルーナ。
「はぁ~ん」とリリアン。
2人は腹を抱えて笑い転げた。文字通り、床を転がりながら爆笑していた。
ナデテは頬を朱色に染めた。
(妾の高貴な! たぶんちょっと高貴な気がする名前が! 笑いの種になっておるのじゃ! 恥ずか死する! 妾、恥ずか死するのじゃぁぁ! 撫でて、はぁ~んって! 何がそんなに面白いのじゃ!? フォークが転がっても笑う年頃というやつか!? てか2人、めっちゃ楽しそうじゃなぁぁぁ!!)
ナデテは半泣きでしゃがみ込む。そして笑い転げる2人を突っついた。
「妾も交ぜるのじゃ……」
グスン、とナデテ。
「ごめんねナデテちゃん。放置しちゃったね」
「悪気はないんだ、あたしら」
2人は起き上がる。
ルーナがナデテに手を差し伸べる。
ナデテがその手を掴んだので、ルーナはナデテを引き起こした。
ナデテは1度、小さく咳払い。
「撫でて?」とナデテ。
「「はぁ~ん!」」
ルーナとリリアンは超楽しそうに言った。
そして笑う。ナデテも一緒になって笑っていた。
3人でしばらく笑ったあと、ルーナが急に「あ、蛇の処理しとこーっと」と言って蛇の死骸を掴んだ。
「なぁなぁ、ナデテはなんでここで寝てたんだ? 棺桶自分の?」とリリアン。
「棺桶は妾のじゃ。持ち歩いておる。特注品じゃからな。身体が成長するまでは……ってルーナ何をしておるんじゃ!?」
ナデテはルーナを見て驚愕した。
「ほえ?」
ルーナは普通に蛇の皮を剥いていた。林檎の皮を剥くような、極めて淡々とした様子で。
「処理だぞ」リリアンが言う。「ナデテが食べなかったから、あたしら食べる」
「なんじゃ食べるのか」ナデテが納得した風に頷く。「って妾が食べるわけあるかい! って、お主らは食べるんかーい!」
「蛇美味しいよ?」ルーナが言う。「なーちゃんも食べてみれば? 調理するから」
「ヴァンパイアだから血だけでいいんじゃない?」とリリアン。
「いや、妾も別に普通の食事は欲しいのじゃ。別に血だけで生きてるわけじゃないからのぉ。栄養価が高いし、戦闘能力を維持するためには血が必要じゃ。でもいつも毎日、血で生活しとるわけじゃない」
「じゃあ食べてみる? お昼ご飯には少し足りないから、もう少し庭ジャングルで色々見つけてこないとね」
ルーナは手際よく、蛇の皮を剥き終わった。
そして皮をリリアンに渡す。
リリアンは皮をナデテに渡す。
ナデテはしばらく蛇皮を眺めた。
「ん? 妾、これどうすればいいのじゃ?」
「食べていいよ」とルーナ。
「食べるかぁぁぁぁ!!」
ナデテは手刀でルーナの頭を叩いた。
「じゃあ庭に埋めてくれ。ナデテはゴミ処理係な?」リリアンが言う。「って、ヤバいぞルーナ! 埋めると言ったらゾンビのこと忘れてた!」
「ああ! そうだったね! 忘れるところだった!(まぁ完全に忘れてたけどね)」
「ゾンビ?」とナデテ。
ルーナがゾンビに襲われたことをナデテに話した。
「そんなん、見かけなかったがのぉ」
ナデテは不思議そうに首を傾げた。
「どっちでもいいよ」ルーナが言う。「行こうリリちゃん。さっさと埋めてお昼ご飯も狩らないとね」
ルーナとリリアンは急いで階段を上った。
とりあえず、ナデテも2人に続いた。
◇
「危険はなさそうね」クリスが言う。「でも、のじゃのじゃ言ってるし、やっぱり年寄りなんじゃありませんの? あのナデテちゃん」
「いえ、あれは普通に背伸びをしているのよ」魔女が言う。「中身はガチ子供ね。間違いないわ(だってわたしのロリっ娘センサーが反応してるんだもーん!)」
「婆さんになるほど背伸びしなくても!」とクリス。
「そこがまた可愛いポイントなのよ。幼女なのに、大人びた喋り方をして、ふふっ、本当可愛い(はぁはぁはぁ、やりたいわ。激しくやりたいわね。ふふっ、本当の大人を分からせてあげたいわ!)」
「……背伸びしたい気持ちは、まぁ分かりますわ(あたくしだって、早く魔女に追い付きたくて背伸びしましたもの。まぁ、魔女が実はロリコンだと分かって、あたくしの努力が全部無駄だと知った時のあたくしの絶望よ……)」
クリスが魔女に視線を向けると、魔女は全裸になっていた。
あまりにも脱ぐのが早かったので、クリスは酷く驚いた。
「なんで脱いでますの!? てか、右手どこに持って行こうとしてますの!? おやめなさい!!」
「ここはわたしの家よ! 何をしようとわたしの……勝手だと思ったけどそんなことなかったわ」
魔女は右手を元の位置に戻す。
「分かって頂けて良かったですわ」
クリスは笑顔で言ったけれど、右手に棒鞭を持っていて、自分の左手をペチペチしていた。
(そんなんだから、実の妹に鬼畜扱いされるのよ!?)
実はクリス、さっきまで落ち込んでいたのだ。ルーナがナデテに姉を紹介する時、鬼畜成分多めと言ったからだ。
「さ、さぁ、美少女たちの宴を覗きましょう!(うにゅーん、わたしは自分で自分を慰めることもできないのね? ならばせめて、美少女たちの一挙一動をこの瞳に! この脳に刻もうじゃないの! あとで思い出せるように! そう! 鮮明に思い出せるように!)」
「覗きじゃなくて見守りですわ。あと、服を着なさい」
クリスは真面目な表情で言った。
◇
ナデテは最後のゾンビを埋め終わって大きな溜息を吐いた。
とりあえずシャベルを土に差して、右腕で額の汗を拭った。
「って! なーんで妾が埋めておるのじゃぁぁぁぁ!!」
なんだかんだ、ルーナとリリアンに言いくるめられたのだ。
素敵でカッコいいヴァンパイアなら、ゾンビぐらい楽勝で埋められるよね? 的な。
「おつかれ!」
庭ジャングルからルーナが飛び出してきた。
右手に蛇、左手にクワガタを持っている。
「分業ってやつだぞ。ナデテはご飯採れないだろ?」
リリアンは両手にいっぱいの野草を抱えている。
「妾の分も採ってくれたのか?」
「「当然!」」
ルーナとリリアンがニコニコと笑う。
「ありがたやー。って、クワガタは食えんじゃろ!!」
「カッコいいから捕まえただけだよ?(食べようと思えば食べられるけど、美味しくないんだよねー)」
「あたしがあとでカブトムシ捕まえて、戦わせる!」
「なるほど。子供じゃなぁ(ふん。見た目は妾の方が若いが、精神年齢は妾の方が遙かに上のようじゃの!)」
ルーナがナデテの顔の前に蛇の顔を近づけた。
「ひっ!」とナデテが飛び上がった。
その様子を見て、ルーナとリリアンがケタケタ笑った。
(こ、こいつら、揃ってドSじゃ!)
「蛇を怖がるのは子供じゃないのぉ?」
ルーナはニヤニヤしながら言った。
「蛇とかあたし、5歳の時でも捕まえられたし」
リリアンもニヤニヤしながら言った。
「べ、別に怖くないし」ナデテが言う。「全然、蛇とか余裕じゃしー? ちょっとビックリしただけじゃらし……じゃし(乙女は蛇とか掴めんのじゃぁぁ!! こいつらちょっと頭がぶっ飛んどるのじゃ! あれか!? サイコパスっちゅーやつかの!?)」
「じゃあ、厨房まで運んで?」
ルーナがナデテに蛇を渡そうとする。
「ひぃぃ! 妾が嘘吐きましたのじゃぁぁ!! むーりー! 蛇とか触りたくもないのじゃあ! 許しとくれぇぇ!」
ナデテは半泣きで叫んだ。
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