6話 ヴァンパイア少女は突っ込みたい
ルーナとリリアンは再び地下室へ。
銀髪の幼女は相変わらず棺桶の中で寝ていた。
「よし、リリちゃんお口開けて?」
「あーん」
リリアンは自分の口を大きく開けた。
ルーナは笑顔でリリアンの舌を掴んだ。もちろん、蛇を持っていない方の手で。
「あうあうあうあう」
舌を掴まれたリリアンが涙目でルーナを見た。
「ねぇリリちゃん、どうしてリリちゃんがお口開けるのかなぁ?」
ルーナはニコニコとリリアンの舌を左右に動かした。
(リリちゃんのベロ、温かくて柔らかくて、ちょっと気持ちいいな)
「あうあうあう……」
「これからヴァンパイアに蛇の生き血を飲ませるんだよ? じゃあお口開けるのはだぁれ?」
「ふぁんふぁいあ」
「そうだね? リリちゃん、何でも自分だと思っちゃダメだよ? もちろん、だいたいはリリちゃんのことだよ? 私リリちゃん大好きだもん。でも、どう考えても今は違うよね?」
「うぇんうぇん」
リリアンは頷こうとしたが、舌を掴まれているので無理だった。
ルーナがリリアンの舌を解放する。
「痛いよぉ……(でもなんだか、少し変な気分になったぞ。こう、ルーナに支配されてる的な!)」リリアンが涙目で言う。「ごめんなルーナ、あたしバカでごめんな」
「いいよリリちゃん。私もごめんね?」ルーナがリリアンの頬を撫でる。「リリちゃんはバカじゃないよ? 賢いよ? ただちょっと、私のことが好き過ぎるだけだよ」
「あたしルーナ大好き!」
「よし、元気になったね。じゃあヴァンパイアのお口開けて」
ルーナが言うと、リリアンは両手でヴァンパイアの口を強引に開く。
それを確認してから、ルーナは短剣を出して蛇の頭を落とす。
「ほぉら、贄の血だよぉ」
ルーナは蛇の血をポタポタとヴァンパイアの口の中に落とす。
「面倒だから突っ込めば?」とリリアン。
「そうだね。食べるかもしれないしね」
ルーナは蛇ごとヴァンパイアの口の中に突っ込んだ。
ヴァンパイアが顔を歪める。
そして。
「やめんかぁああああい!!」
ヴァンパイアが勢いよく身体を起こした。
その時に、ルーナとリリアンはビックリして少し離れた。
「なんじゃこれは!?」
ヴァンパイアは自分の口から落ちた蛇の死骸を右手で持ち上げた。
そしてジッと見詰め、真っ青に。
「あああああ! 口の中が生臭いと思ったらぁぁ!! なぁんで妾は寝起き一発目に蛇の血を飲まされにゃならんのだぁぁ! てか、蛇の胴体ごと妾の口の中に押し込もうとしてなかったかお主ら!」
「おはよう」とルーナ。
「寝起きから元気だな」とリリアン。
「元気なわけあるかーい!」ヴァンパイアが言う。「妾が血と言ったら美少女の血に決まっておろうが!! 何が悲しくて爬虫類のクソ不味い血を飲まねばならんのじゃ!」
ヴァンパイアはプンスカ怒って言った。
「「のじゃ!」」
ルーナとリリアンは顔を見合わせて楽しそうに言った。
「ばあさんみたーい」
「うちの孤児院の近所のばあちゃんも、のじゃって言うぞ。ルーナ会ったことあるっけ?」
2人は楽しく笑いながら言った。
「誰がばあさんじゃ! 妾はまだ174歳じゃ! 人間だとお主らぐらいか、むしろお主らより若いわ! ばあさん言うな! 血ぃ吸うたろか! むしろ吸わせるのじゃ! 口直しに!」
相変わらず、ヴァンパイアはブリブリ怒って言った。
「いいの? 本当に私の血、吸える?(ヴァンパイアなのに弱そう。私の血を吸うには、体力とか魔力が足りないんじゃないかな? 寝起きだから? どうであれ、返り討ちにできそう。まぁお願いされたら分けてあげてもいいけど、態度が尊大だからあげない)」
「な、なんじゃ……?(え? 何か聖なる血とかそういうのか? 妾、吸ったら灰になるとか? 単純にハイになるだけならえーけども)」
「ヴァンパイアって闇の生物だろ?」リリアンが言う。「ルーナの血って天使の血と同義だから、無理なんじゃないか?(ルーナは天使! 可愛い天使! ヴァンパイアに血を吸われるぐらいなら、いっそあたしが吸う! 吸っていいかな!? 吸っちゃおうかな!)」
「ほ、ほう……(まさかの天使じゃと!? 人間かと思ったわ! あっぶねーわぁ! 天使って確か神族じゃろ? 妾は闇に生きる漆黒の翼。神族とは相容れん。金髪天使の血を吸うのは諦めるか)」
ヴァンパイアはリリアンに視線を移した。
「リリちゃんの血は吸っちゃダメ(リリちゃんは私のだからダメ!)」
「ふぇえ!?(ルーナの血、吸おうとしたのバレてるぅぅ! 吸っちゃダメって言われたぁぁ! ああん! 冗談だぞルーナ! あたし、いくらルーナ好きでも血は吸わないぞ! 血を吸うと見せかけてほっぺた吸うつもりだったんだぞ! よぉし、証拠見せるから!)」
「な、なぜダメなんじゃ?(赤毛も天使? 確かによく見れば凜々しい顔立ちをしておる。くっそー、2人とも美少女なのに……。美少女の血が欲しいぃぃぃぃのじゃ!)」
「そう決まってるから(ルーナちゃんルールで!)」
「な、なんと……決まりなのか……それなら仕方ない……って、んなわけあるかーい!」
ヴァンパイアは勢いよく立ち上がった。
そして天井を見て、目を瞑り、小さく首を振った。冷静になろうとしたのだ。
そして目を開くと。
リリアンがルーナの頬を吸っていた。
「何しとんじゃーい!!」
ヴァンパイアは普通に、極めて普通にリリアンの頭に手刀を落とした。
「そっちこそ! リリちゃんに何するの!?」
ルーナが怒って言った。
「あわわ、ヴァンパイア謝って! ルーナに謝って!」リリアンが慌てて言う。「野獣ルーナが目覚める! 野獣が目覚めるから! 天使の皮を被った凶暴な野獣が!」
「あ、いや、今のは攻撃ではない」ヴァンパイアが言う。「突っ込みじゃ。妾は悪くない(天使の皮を被った野獣ってなんぞ!? 新種か!? 新種の化け物か何かかの!?)」
ルーナとリリアンは顔を見合わせて、「なんだ突っ込みか」と息を吐いた。
その様子を見て、ヴァンパイアも息を吐いた。
「そっちがルーナで」ヴァンパイアがルーナを指さして、次にリリアンを指さした。「そっちがリリちゃんか」
「すごーい! 私たちの名前言い当てたよリリちゃん!」
「本当だすごいなルーナ! あたしビックリだ! まだ自己紹介してないのに!」
(あっれー? こやつら、もしかして、バカなのかの?)
ヴァンパイアは若干、引きつった笑みを浮かべた。
「さすが闇の支配者ヴァンパイア! さすが漆黒の覇者ヴァンパイア!」
「暗黒の狩人ヴァンパイア! 超カッコいいぞヴァンパイア!」
ルーナとリリアンが楽しそうにヴァンパイアを持ち上げた。
ヴァンパイアはいい気分になって、少し照れた。
「ふっふっふ。妾こそが悠久の時を生きる影。邪悪と混沌の申し子――」
「有給取ってるんだ? お姉ちゃんもたまに有給してるよ」とルーナ。
「ん? お主の姉も闇の住人かの? アレ? 天使じゃなくて?(てか、妾の自己紹介、普通に途中で割り込まれたわけじゃが?)」
「クリス姉様は悪魔!」リリアンが言う。「綺麗だけど超怖い! いつか分からせる!」
「お姉ちゃんは鬼畜可愛い天使だよ! でも天使よりは鬼畜成分多めだよ!」
「サッパリ分からんわ!」
ヴァンパイアはリリアンの頭に手刀を落とし、続けてルーナの頭にも落とした。
「突っ込まれた!」
「ルーナもヴァンパイアに突っ込まれた!」
「初めての経験! 突っ込まれた! まぁ私もお口に突っ込んだけど!(蛇のことね)」
「お口開けたのはあたし! あたしが指で開いた!」
「よ、よせお主ら。なんか卑猥に聞こえる……(恥ずいのじゃ! 妾は乙女じゃぞ! 口を犯されたみたいに言うのマジでやめろ)」
「卑猥って何?」とルーナ。
「卑猥って何だろな?」とリリアン。
「な、なんでもないわい! それより妾の自己紹介を聞け! 妾はナデテ……」
ルーナとリリアンがヴァンパイアの頭を撫で撫でした。
ヴァンパイアは気持ちよさそうに目を瞑って笑顔を浮かべる。
そして我に返って。
「違うわ!! 妾の名前がナデテじゃ! ナデナデしてくれとは言っとらん!!」
2人に撫でられながら、ヴァンパイア幼女ナデテが言った。
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