第5話 肉球

「リン殿、起きてくださいにゃ」

「う~ん、もう朝ですかぁ?」


 いやあ、クロとぶちの抱き枕は最高だった。


「残念ですが、まだ夜ですにゃ。どうやら火事のようですにゃ」


 火事!?それは大変だ!消さなきゃ!


「うちではないですにゃ。しかし、様子がおかしいのですにゃ。この燃え方は、、、おそらく放火にゃ」


そこまでわかるなんて、さすがミケさんだなあ。


「こういうときは、城に避難を。ささ、準備してくださいにゃ。起きにゃさい、クロ!ぶち!」


ばしこっ


 と、母猫の猫パンチが二匹に炸裂した。

うわ~、痛そう。

殴られた二匹はすぐ起きました。

手加減されてたのか、大した怪我があるようには見えないな。さすがミケさん。



ワオーン


 これは…犬の遠吠え?


「今のは確かに犬の遠吠えでしたにゃ。これは、もしかしたら犬たちが攻めてきたのかもにゃ。」


 え、もう?

私なんにも戦う準備できてないよ。


「リン殿は城へ向かってくださいにゃ、私はちょっと様子を見てくるにゃ。」

「ダメだよミケさん、それ死亡フラグだよ!」

「大丈夫にゃ。すぐに城に向かうにゃ。もしものときはクロとぶちを頼みますにゃ。」


 喧噪渦巻く大通りで二手に分かれる。

猫さんたちが悲鳴を上げながら城に逃げていく。

燃え盛る火が、まだ遠いはずなのに、近く感じるほど熱い。


 私たちも早く逃げなきゃ。

「走れる?クロ、ぶち。」

「「もちろんにゃ」」


 城に向かうのは私たちだけじゃない。

近づくにつれて、どんどん猫さんたちが増える。


 衛兵さんたちが避難民を誘導している中に、グレイを見つけることができた。


「グレイ!どうしてこんなところに?」


 私の顔を見て驚いた様子のグレイ。


「リン。よかったにゃ。ちょうど君を探しに出ていたにゃ」


 そっか。グレイは優しいな。


「この火事、大丈夫なの?」

「これくらいの火ならすぐ消せるにゃ。問題は、犬軍が攻めてきてることにゃ。」


 さっきの遠吠えね!

 

「やっぱりそうなのね!場所はどこ!?ミケさんを助けに行かなきゃ!」

「どうやら南門のほうから攻められているようにゃ。今は衛兵猫たちが頑張っているみたいにゃよ!」

「私、行ってくる」


 クロとぶちを衛兵さんたちに預ける。衛兵さんと二匹は知り合いのようだったし、安心だ。

   

「伝説の剣は持ってるのかにゃ!?」

「うん、手のひらサイズに小さくなったから、首から提げてる!」


チャリンと胸から伝説の剣を取り出す。柄を握ると瞬時に私が扱いやすいであろうサイズに切り替わる


「なんと、、、剣は小さくもなるのかにゃ…」


びっくりしてるグレイには悪いけど、すぐミケさんを助けに行かなきゃ。


「任せて!無理はしないから!」

「それなら、わがはいもいくにゃ。裏道もわかってるにゃ。ついてくるにゃ!」


 裏道は猫さんがほとんどいなかった。

よかった。大通りは猫さんでいっぱいだったから。

火事の現場がどんどん大きく見えてくるにつれ、雄たけびと金属がぶつかる音がしてきた。


グレイがいう、

「ここからは戦場にゃ。決して気を緩めてはいけないにゃ。」

「グレイは武器もってないけど大丈夫なの?」

「ふんっ!わがはいは猫拳の達人なのにゃ。武器は我が肉体なのにゃ。見よ!この肉球!」


 肉球を見せてもらったが、ぷにぷになこと以外なにもわからなかった。


「リン、わがはいが囮になるにゃ。その隙にミケを探し、可能ならこの犬軍の隊長を倒してほしいにゃ」

「ええ!その作戦のすべてに問題があるよ!」

「いいからいくにゃ!」


バン!と戦闘中の喧噪に飛び出すグレイ。


「やあやあ!我こそはキャットグラスいちの猫拳の使い手、グレイにゃ!腕に覚えのあるやつはかかってこいにゃ~!」


ぶにゃああああああああああ!


 と突撃し、ばったばったと犬軍のダックスフントをなぎ倒していくグレイ。

す、すごい!


いけないいけない。見とれてた。

ミケを探さなきゃ!


 コソコソその場から離れ、広く見渡せるところを探す。

身を隠し、物陰から物陰へと出来る限り、素早く移動する。

すると、敵のチワワ数匹と対峙しているミケをさんを見つけた!


「ミケさん!助けに来たよ!」


ミケさんは左腕をけがしているようだった。


「大丈夫、かすり傷にょ。」


言って、瞬間一閃。

対峙していたチワワたちはパタリと倒れた。


「さすがミケさん、強いですね」

「これくらいは余裕ですにゃ」

「あ、その、グレイに言われたんですけど…犬軍の隊長を倒せって!」


うーむと唸って、


「犬軍の隊長…さきほど重装備のパグ犬ならみかけました。おそらくそやつが敵将でしょうにゃ」

「倒せば犬軍はいなくなるのかな…?」

「とりあえずは」

「なら、倒しに行こう!」


 伝説の剣を構えて、ミケさんと走りだす。


「我こそはキャットグラスいちの剣の使い手、ミケ。犬軍隊長どの!いるならばでてこいにゃ!勝負にゃ!」


 明らかに犬の数が多くなっている一団を見つけて大きく言い放つミケさん。

 

「ほう、貴様がキャットグラスでも名高い剣士、ミケか。我が名はパック!ワンダーランドいちの戦斧使いわん!」


 一団から抜け出てくる、一匹。重装備パグだ。隊長で間違いない。

自分の身体ほどもある大斧を持っている。


「む?そちらは…人間?人間がなぜここにいるわん!」

「あ、えーと、はじめまして、リンと申します」


 挨拶してしまった。

おかしいかな?


「リン様と申すか。よろしゅうねがいますわん」


 お互いペコリと一礼。


 するとミケさんが、

「挨拶そこまで。まずは私と勝負してもらおうにゃ」


 緊張感漂う空気。

果たして、ミケとパックの戦いの行く末は…!?





続く







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猫と鈴と猫の国 松田ゆさく @yusaku86

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