天空の龍人



《注:リオ視点》



 リウさんは、本当に凄い人だと思いました。


 いきなり船が凄く揺れて、周りの皆が慌てているのに……リウさんだけ動じず静かに、窓の外を見回していました。


 ひっくり返りかけた、わたすを優しく抱えながら……。



「リオ……」



 リウさんが、窓から視線をズラして、わたすを真っ直ぐに見下ろしました。


 なんて…澄んだ綺麗な瞳なんでしょ……。


 やっぱりリウさんは他の人とは違う……?



「ごめんリオ、少し席を外すよ」

「え…!?な、なんで…!?」



 リウさんはわたすをシートに座らせると、恥ずかしそうに笑って、



「ビックリして、おトイレ行きたくなっちゃった……!」

「あ…そ、そうでごぜぇましたか……。早く行って来た方が良いですよ」



 わたすは、ほんの少し安心しました。


 リウさん、凄い人だけど驚いたり、緊張したりするんですね。


『おトイレ』と言った所、凄く可愛かったです。


 そういう所は、普通の人間ヒューマンなんですね……!





 ****




《注:リウ視点》



「お客様!?危険ですので座席にお戻りください!」

「すいません!も、漏れそうなんです!」



 困り顔をしたダークエルフのCAキャビンアテンダントさんに断りを入れて、僕は慌てたフリをしてトイレに駆け込んだ。


 勿論、尿意は無い。



『出撃するか?主?』



 脳内に響くアウルの声に……僕は確と頷いた。



こう、アウル」

『良いのか?狙われているのはあの貴族アホどもの飛空船フネだぞ?』

「だからって、無視は出来ないさ」

『…………』



 暫くアウルは黙り込んで……。



『ハ…!それでこそ主よ!』



 急にアウルが、嬉しそうに声を弾ませた。



『偶には装甲からだを動かさんと鈍ってしまうからな!良いか!?』

「勿論!ーー起動魔法ウェイクーー展開頼む!」

『御意!』



 個室に黄金色の光が疾って、古代魔術文字が印された魔法陣が幾つも重なり、僕を包み込む。


 身体の感覚が薄らぐような、独特の感覚だーー。


 前に乗ったのは……確か9歳の時だ。


 街に近づきつつあったベヒモスの群れを、撃退した時だったかな……。



『当機と主の魔力回路を同調ーー位相空間から装甲躯体ほんたいのサルベージ、85パーセント完了。痛覚は?』

「繋いだままで良い。周囲への被害は極力避けたい。魔装咆哮破砕砲ハウリング・メガバスター厳重封印ロック龍甲剣フェルセイバー出力レベル2で固定」



 僕を包む光が強くなる。


 懐かしい……。


 俯いてばかりだった前世ぼくを、この世界に導いてくれた光……!



『全システム完全機動!顕現を承認せよコール我が主マイロード!』



 俯かない。俯かせたくない。


 だから僕は上を見て、天を仰いで……しっかりと口にしたーー。



「顕現せよ!!!」





 ****




《注:テロリスト・ジュドナイ視点》



 コクピットスクリーンに、悠々と飛ぶ飛空船が映し出された。


 先程遭遇した安っぽい船とは違う。がっしりとしたデザインだ。


 護衛は無いが、あの飛空船自体に防御機構が備わっているのは、事前に調査済みだ。


 そして、その防御機構は、飛空船整備士として紛れ込ませたオレ達の仲間によって作動しない事も。



『視えた!あの飛空船だ!!』



 ヴェンゴの弾んだ声に、オレも笑みを隠せない。



「手筈通りに行くぞ!ヴェンゴとアリスタは艦橋を潰せ!それで貴族どもは丸腰だ!」

『貴族のクソガキども、少しビビらせても構わねえだろ!?』

「フ!程々にしろよ?」

『アハハッ!アタシ一番乗りィ!!』



 アリスタの《アーゲイト》が風魔法で加速、跳ねるように空を舞い、携えた魔光槍ビームランスで飛空船の艦橋を狙う。


 オレは成功を確信して笑った。


 飛空船を無力化、掌握し、拠点へ持ち帰る。それだけでスポンサーから作戦成功の報酬が貰えるのに、その上ガキ共の親から身代金を取れる。


 貴族のガキ共の泣き喚く無様が見れて、暫くは、いや一生、遊んで暮らせる金が手に入る……!


 笑いが止まらない!



「慄け!醜く肥えたブタどmーーーーーー」





 !!!!!!!!!!!!!





 ーーーー視界が白く灼けた。




 一瞬、雲の上なのに稲光が轟いて。


 アリスタの機体を、貫いたーー。





『………………え?』





 通信機から、アリスタの間抜けな声が……自分に何が起きたのか分からない様な声が聞こえ……。



 !!!!!!!



 黒焦げになったアリスタ機は力無く落下して……雲の中で爆発して、消えた……!


 今のは、雷系統の魔法……!


 それも……《アーゲイト》の魔導装甲を容易く貫通する……自然界、精霊レベルの雷撃魔法!?



「さ、作戦一時中止ッ!散開しろッ!!」



 オレが慌てて叫ぶと、ヴェンゴとコルクの機体が同時に飛空船から離れる。



『ジュドナイ!?何が、どうなってーー』



 慌ててオレに近付いて来たヴェンゴ機がーー



 !!!!!!!



 突然胴から上下に、真っ二つに割れた。



「…!?!?」



 いや、割れたんじゃない…!


 視た!ほんの一瞬だが、視えた!


 んだ!


 オレの探知魔法でも捉えられない程、高速で動く『何か』に……!!



『う、うわあぁぁぁぁぁ!!!!』



 とうとう恐慌状態になったコルク機が、炎魔法の弾丸を周囲に乱射しだした。



「ば、馬鹿野郎!」



 岩魔法の障壁で弾丸を防ぎながら、オレはコルクを落ち着かせようと接近する!


 だがーー!



「な…っ!?」



 オレが到着するよりも先に、巨大な影がコルク機に肉薄した。




 ヒト?巨大な……羽を生やした人の影だ!




 機甲人ギアッドにしてはデカい。《アーゲイト》の2倍近くはある!



『ひーーーー』



 巨影は、その腕で、その手に在る爪で慄くコルク機のコクピットを貫いた。



 掛かった時間は……1分も経ってないだろう。


 その時間内で、オレの仲間は全て撃墜され、オレ一人になっていた。




 巨影が……ゆっくり動いて……事切れたコルク機を邪魔そうに放り捨てながら振り向いて……オレを見た。




 龍だ。




 ソレは鋭い金色の、2本の角を生やした、龍の貌をしていた……!


 龍人だ……!?


 屈強な体躯は光沢を帯びた装甲に覆われて、太陽の光で金色や白、所々赤や青に輝いている。通常の機甲人ギアッドには無い……まるで宝石みたいな、美しく妖しい輝きだ



「ぁ…!ぁあ…!!」



 機械の龍人が!腰から剣を引き抜いた!


 雷を纏った、双刃の剣!


 龍人はその剣の切っ先を……オレに向けた!



 ヤバい。オレの勘が告げる。


 心臓がバクつく!身体が震えて動けない!


 オレは一体、『ナニ』と相対している!?


 反撃とか!仲間の仇とか!そんな気持ちは綺麗に失せた!


 コイツは…!ヤバい!!


 騎士団の精鋭とか……巨大魔獣とか……そんなモンじゃない!


 説明は出来ないが、確証は無いが!俺の細胞が告げている!


 コイツは……この龍人は……!


 もっと……超常的な……!



「ち……ちくしーー」



 龍人が……オレに向けて……剣を振り下ろす……。



 痛みは無い。


 光が満ちて……。




 チクショウ。


 こんな筈じゃ。


 オレは。



 貴族のアホ面をーーーーーーーーーーーー………………。





 !!!!!!!!!!!!!!






 続く

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天雷の装光機神アウルゼファー /ボクを転生させてくれたのは異世界最強のロボットでした!? 比良坂 @toki-315

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