第2章 強襲航路

襲来者たち





「こちらヴェンゴ……予定航路を隠密魔法ステルタを展開しつつ飛行中。時間内に到着する」


『こちらジュドナイ、了解した。貴族どもの子息が乗っている飛空艇は3番ゲートから出航する船だ』


「オーケイ……!今しがたアリスタとコルクとも合流した。流石新型の《アーゲイト》だ。魔力の循環効率が違う……!」


『……スポンサーは我々の活躍を期待している……。くれぐれも間違えて平民の船を狙うなよ?』


「勿論だ……!貴族の坊ちゃん嬢ちゃんには……精々俺たちの財布を潤して貰おうかね……!」





 ****






 僕が子どもの頃、街の学校で、ドワーフの老婆先生おばあちゃんが言っていた……。


 今の貴族っていうのは、およそ2000年前の戦争で滅んだ文明の復興に携わったヒューマンーーその祖先なんだと……。


 きっと、当時のーー貴族の先祖達は死にものぐるいで復興に勤しんだのだろう。



 アウルの話だと、当時は分かたれていたエルフ、ドワーフ、ホビット、オーク……、その他諸々の種族とーー彼等と絆を深めて……力を合わせて……。



 当時の彼等が、今の貴族を見たらどう思うか……?


 技術が発達したが故の緩慢か……。



 差別、汚職、賄賂ーー。



 勿論、良識的な貴族もたくさん居るのも知っている。



 知ってはいるけども……。



 多分……空港でのリオみたいな仕打ちを受けていた人々は、世界中にたくさん居るのだろう……。


 僕は考えてしまう……。


 理不尽な差別、罵倒を受けた人達の、怒りや悲しみが……。



 もし何処かで、爆発したらーー。









「リウさん?リウさん?」


「エッ!?」



 いきなり声を掛けられたので、驚いた僕は裏声を発しながら顔を上げた。


 目をまん丸にしたリオが、其処にいたーー。



 周りを見渡せば、飛空船の客室の中、青服の少年少女達が其々談笑している。


 すぐ横の窓を見下ろせば、眼下を白い雲が流れていく。



 ーーそうだ。


 あの後、学園行きの飛空船に乗って……。




(リウさんお願えします〜!まだリウさん以外喋れる人がいねぐて……一緒の席に乗ってくだせぇぇ……!)


(え?あ!うん!勿論良いよ!よ……喜んで!!)



 リオと同じ座席の列に座ったんだった……!


 ……ああ!


 折角リオと一緒に座れたのに……!


 上の空になってしまうなんて……!



『主よ……折角女子おなごと同席したというのに……なんたる体たらくか……』



 脳内でアウルが煩い……!分かってるよ……!僕が馬鹿だったよ……!



「リウさん?どしたんです?」



 リオの訛りが……イントネーションがちょっとモヤモヤしていた僕を癒してくれた……。



「ごめん……ちょっと考え事してた……」


「考え事でごぜぇますか?大変でごぜぇますね……!」



 神妙な面持ちで、リオはうんうん頷く。


 …………?


 考え事の何が大変か分からないけど、リオは気を悪くしてなさそうなので、僕は独り安堵した。




「……おい、あそこの奴だろ?」


「ああ……貴族に絡まれた女の子助ける為に大立ち回りしたヤツ……」


「なんかよく分からない、凄え魔法使ったって……」


「大丈夫かよ……貴族達に目ぇ付けられたら……」


「やだぁ……私達まで巻き込まれない……?」




 ……………………。


 周囲で青服の少年少女が僕達を傍目に見ながらヒソヒソと囁き合っている。


 僕は聞こえないふりをして、リオとの会話を楽しむ事にする。



「リオは何処の出身なの?」


「フルイ村でごぜぇますよ!」



 フルイ村……。


 僕の街から山奥の奥の奥……更に奥にある所。よくテレビで秘境と謳われる村だ……。


 自然が豊か……豊か過ぎて空路が拓きずらく、カスバーで何日も乗り継いでやっと辿り着けると聞いた事がある。


 美容に良い温泉が湧いてるらしく、テレビ観ながら母さんがいつか行きたいと言ってたな……。



「聞いた事あるよ。自然に溢れた綺麗な所だって」



 僕がそう言うと、リオは満面の笑みで頷いた。



「エヘヘ、自然だけであとは温泉くれぇしか無え所でごぜぇま……」



 その時ーー



 ゴォッッッッ!!


 突然、僕らが乗っている飛空船が揺れて、船体が大きく傾いた。



「うひゃあ!?」


「リオッ!?」



 座席から滑り落ちそうになったリオの身体を、僕は慌てて支えた。


 掌に、リオの脇腹の……プニッと柔らかい感触が……!



「リウさん……!あ、ありがとうごぜぇます!また助げて貰って……」


「あ、え!?き、気にしないで!こちらこそありがとう!!」


「え?」


「いや!こっちのハナシ!」



 僕は下心を懸命に振り払い、リオを座席に座り直させると、改めて周囲を見渡した。


 他の新入生達も、突然の出来事に動揺している。



「想定外の事態が発生しましたが、当飛空艇には安全上の問題はございません!安全上の問題はございません!」


「皆様どうか落ち着いて……決して席をお立ちになりませんようお願い致します!」



 そんな新入生達を、ダークエルフのキャビンアテンダント数名が懸命に落ち着かせる。



『主っ!』


(アウル……さっきのは……!?)



 先刻、何故飛空船が揺れたのか……?


 僕は確と見ていた。



『私も補足した……!機甲人ガラクタだ……!武装もしている……!』



 戦闘用の機甲人ギアッドが3機、飛空船擦れ擦れに超高速飛行で通過した。


 飛空船はその衝撃波に当てられたんだ。


 何故あんな危険な……擦れ擦れのルートを……!?


 まさか……!?



(アウル!さっきの機甲人ギアッドの進路上に何かある?)


『ルートを照合…………完了!もう一隻の飛空船……先程の貴族アホどもが乗った船だ……!』


(なんだって!?)



 僕とアウルの予想が当たっていたら……。


 貴族達かれらが……危ない!









 続く







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る