第10話 白と黒

 マイノスからエント村近くの川の側に転移してとんで野営をした翌日。俺とレイラはエント村の門前に来ていた。


「ここにレックの最初の妻がいるのね。どこにでもある普通の辺境の村よね」

「普通の村だからこそ、俺のような者が必要なのさ。普通じゃない村は、大抵有事に備えてるから、病気や怪我も自前で何とか出来るからな」

「なるほど。でも、地方が地方だけに、外壁は高いわね」

「ここら辺りは魔物が強いからな」


 太い丸太を隙間なく地面に打ち込んで造られている外壁。それが村を四重に取り囲んでいる。一列毎に隙間に入れ込むようにズラして打ち込まれているから強度も高い。内側の二列はその外側よりも1ルム(=1メートル)程低くなっていて、その上を歩く事が出来る。ここから村に近寄ってきた魔物を弓や槍、石を投げて攻撃する訳だ。


「まずは村長に挨拶していく。ユキカと一緒になった事で余所者ではなくなったのかもしれないが、挨拶は大事だからな。古代の書物にも書いてある」

「ん。ワタシも商会のトップやってた身だからよく分かるわ。なんだかんだでこの村にも来そうだし、顔を通しておくのは悪くないわね」


 2人で村長宅に向かい、扉を叩く。程なくして村長の奥さん、ヘレンズさんが現れた。


「はいはい、お待たせしました……あら、レックさんじゃないですか! 戻られるのはもう少し後と聞きましたが、早かったですね。ユキカちゃんも喜びますよ」

「あ、いえ、ユキカに急ぎの用事が出来まして、まだ患者の所には行ってないのですが戻って来ました。村長は出掛けられてますか?」

「えぇ、今、寄合所で、貴方とユキカちゃんの披露宴の打ち合わせをしているわ。ところで、そちらの方は?」

「彼女はレイラ。元フェラウノス商会の支配人で、ユキカの後に自分の妻になった者です」

「……レックさん? 新婚早々浮気は感心しませんよ?」


 一月ひとつき前にユキカと結ばれたばかりだからな。そう言われても致し方ない。


「失礼ですが奥様、それには誤解がありますの。レックはユキカさんの事をワタクシに告げて断ろうとしました。ですがワタクシが2人目でも良いからと懇願致しました。ワタクシはレックと共に歩む為に家も捨ててきました。レックはワタクシのワガママを受け入れてくださっただけですの。ですから、レックを悪しき様に言わないで頂きたくお願いいたします」


 レイラがフォローしてくれるが、手を出している時点で浮気とされても仕方ないからな。

 一応、人族領では一夫多妻も認められてはいるが、権力者や富裕層が殆どだ。一部、ランクの高い冒険者もそうしているのがいるが、一般的には一夫一妻が多い。養うのが大変だからな。

 ちなみに、魔族領や竜族領では一夫多妻が普通だ。どちらも、強い者、優秀な者はその血を残すべきという考えが強いからだ。


「……まぁ、私が口を挟む事ではないでしょうから。ユキカちゃんはともかく、エリザさんは手強いですからね?」

「覚悟の上でレイラを連れて来てます。それではユキカの所へ行きます」

「それでは失礼します、奥様」

「えぇ。こんな事言うのも変だけれど、頑張りなさい」


 何を頑張れと言うのか? これから行うのは説得ではなく報告だ。誠意をもって説明する。それ以外にやる事はない。

 程なくしてレベンスさんの家に到着した。扉を叩こうとした時、外套の裾が引っ張られた。振り返ると、レイラが緊張した面持ちで俺に視線を向けていた。

 俺はレイラの頭に手を乗せると、ゆっくりと撫でながら言った。


「大丈夫だ。少なくとも、話も聞かずに罵倒するような人達じゃない。話せばきっと分かってくれる」


 レイラが頷いたのを見て、俺は扉をドンドンドン!と三回叩いた。


「はぁ~い! 少々お待ち下さ~い!」


 この声は、ユキカか。いきなりの顔合わせになるな…… いや、この方がいいか。最初にきちんと話しておくべきだしな。


「お待たせしま……えっ!?」


 扉を開けたユキカの顔が驚きで固まり、数瞬の後、満面の笑みで俺に飛びついてきた。


「お帰りなさい、あなた!! 随分早かったのね!」


 咄嗟の事なのにちゃんと"あなた"と言えるところがユキカの頭の良さを表しているな。渡した白衣に袖を通しているところからすると、日中は治療士として働いているのだろう。


「いや、往診はまだなんだ。急ぎユキカとお義父さん、お義母さんに話しておかなければならない事が出来て戻ってきた。それが済んだら急いで往診に向かう」

「そうなんだ…… それで、急ぐ話というのは?」


 あからさまにがっかりした表情になったユキカだったが、気を取り直して要件を聞いてきた。


「その前に、家に入れて貰ってもいいか? 要件のぬしが空気になっているしな」

「え……? あ!」


 そこでようやく傍にもう一人いた事に気付いたユキカ。慌てて俺の身体から手を放す。レイラの視線が生暖かい……


「こ、これはとんだ失礼を! レックの妻のユキカ・セラータと申します!」

「初めまして。レミアレイラ・ノスフェラウと申します。レックの奥様でいらっしゃるアナタ様に折り入ってお願いがございまして訪ねさせていただいた次第です」


 レイラが本名を名乗った。それはつまり、種族を含めて隠し事なしに話すという覚悟だ。その決意と誠意に俺も応えなければな。


「はぁ……? あ、どうぞお入り下さい」


 ユキカに案内されて、居間兼食堂ダイニングへと赴く。テーブルにはエリザさんが着いていて、レベンスさんの姿はない。恐らく狩りにでも出ているのだろう。


「あらレック、お帰りなさい。思ったよりも早かったのね」

「だだいま戻りました、お義母さん。ただ、またすぐに発たなければならないのですが。急ぎユキカとお二人に話しておく事が出来ましたので、まだ患者の所にには行っていないのです」

「急ぎの話? そちらの女性に関係ある事かしらね」


 エリザさんの目がスッと細められる。あー、気付いてるな、あれは。


「出来ればお義父さんにもいていただけたら良かったのですが、狩りですか?」

「えぇ。今日は狩りに出る日だっから。まぁ、私の予想だと、あの人がいなくても大差ないと思うわ。まずはユキカと私で聞きましょうか。そちらの方も、どうぞお掛けになって」


 勧められてエリザさんの向かいの席に着く俺とレイラ。ユキカが手際良くお茶と茶菓子を用意していく。この1ヶ月で随分と仕込まれたようだ。

 お茶の用意が整い、ユキカがエリザさんの隣に座ると、エリザさんがレイラに目を向けた。


「まずはそちらの方を紹介してもらえるかしら?」

「分かりました。彼女はレミアレイラ・ノスフェラウ。元フェラウノス商会の支配人で、ユキカの後に妻として娶った者です」

「えっ……?」


 ユキカが固まり、エリザさんが予想通りと言わんばかりの大きな溜め息を吐く。


「お初にお目に掛かります。レミアレイラ・ノスフェラウと申します。本日は、先にレックの妻となられましたユキカさんに、ワタクシとレックの仲をお認め頂きたく参った次第です」


◇◇◇


「彼女はレミアレイラ・ノスフェラウ。元フェラウノス商会の支配人で、ユキカの後に妻として娶った者です」

「お初にお目に掛かります。レミアレイラ・ノスフェラウと申します。本日は、先にレックの妻となられましたユキカさんに、ワタクシとレックの仲をお認め頂きたく参った次第です」


 2人の言葉で思考が停止した。


「……何か事情があっての事でしょうから、まずそれを聞きましょうか。わざわざそれを告げに来たという事は、ユキカを蔑ろにするつもりもないのでしょうし、彼女の言葉からも、ユキカを妻と立てた上での話だと分かりますしね」


 お母さんの冷静な一言で頭の中が復活した。

 そうだ。レックが気紛れでそんな事する筈ない。きっと何か事情がある筈。


「ありがとうございます。それではまず、彼女の出自から。彼女は……」


 そこでレミアレイラと名乗った女性は、手を挙げてレックの言葉を遮った。


「ありがとう、レック。そこからはワタシが話すわ。それが礼儀だと思うし」


 見た目は私とそう変わらないのに、礼儀正しく落ち着いた人だ。森民エルヴスも成人した辺りから見た目はあまり年を取らなくなるけど、彼女もそういう種族で、見掛けよりずっと年上なのかもしれない。


「ワタシは魔地民ダクヴェルグの長、メルキアニア・ノスフェラウの娘。つまり、魔族です。もっとも、もう勘当された身ですけれど」


 魔族!? ペゼットさんを唆して、村を危機に陥れたのと同じ!?


「レック……」「あなた……」


 さすがにお母さんも私もレックを見た。どういうつもりなのか?と。


「俺にとって種族の違いなんて些細な事でしかない。俺の患者は人族にも魔族にも、そして竜族にも等しく存在している。レイラや彼女の母も俺の患者だし、現魔王グラムゼラーもそうだ。今度往診に行く相手も竜族だしな。そして、俺の患者に手を出した奴等も種族関係なく倒している。ペゼットもそうだし、ペゼットを唆した魔族をこの村に送り込んだ奴を操っていた黒幕の魔族にも落とし前を付けてきた。その時に手を貸してくれたのはレイラの母、メルキアニアだ。それを聞いても、ただ魔族というだけでレイラや彼女の母を貶めるのは正しい事なのか?」


 レックの言葉に、私も、そしてお母さんも、何も言えなかった。この前の事の解決にレミアレイラさんのお母さんがレックに協力してくれたのなら、それを貶めるのはレックを貶めるのに等しい。


「俺は、魔族と人族の争いは心底下らないと思っている。自分達の利権の争いを、種族の違いにすり替えて煽りあっているだけなんだからな。ユキカ、お前が俺の妻を自負するなら、そんな下らない考えに囚われないでくれ」


 目の前の本人が信用出来るかはこれから話して確認いけばいいものなのに、偏見や思い込みに囚われて最初から否定するのは間違ってる。

 私は、レックの妻として一番してはいけない事をしてしまった。恥ずかしい……


「まあまあ、そんなのよくある事でしょ、レック。魔族だって、人族と分かっただけで毛嫌いしたり、場合によっては攻撃したりする者もいるのだからお互い様よ。まだ警戒しながらでも話を聞いてくれるならマシだと思うわ。特にユキカさんは世間慣れしてなさそうだし、仕方ないんじゃない? 逆に、警戒もせずに受け入れてしまう事の方が怖いと思うわよ? 同族にだって信用出来ないのがたくさんいるんだし」

「全くだ。この前も、俺の患者クランケに手を出した人族の勇者をぶん殴ってきたしな。まあ、その後じっくり説教して、理解したようだったから矛は収めてやったが」


 落ち込む私に気を使ってか、レミアレイラさんが私を擁護してくれる。

 レミアレイラさん、私なんかと格が違う。きっと、沢山の経験をしてきたのだろう。

 本当は、レミアレイラさんみたいな人が最初にレックの妻になるべきだったと思う。

 でも、レックは私を最初に受け入れてくれた。

 だったら、もっとレックの妻として相応しい女性にならないと!


「あの、レミアレイラさん、ごめんなさい。確かに人族と魔族はいがみ合ってますけど、貴女のお話も聞かずに悪く思うのは軽率でした。謝罪します」


 私は深々と頭を下げた。


「レイラ、でいいわ、ユキカさん。同じ人を愛する者同士なんですからね。大丈夫、よくある事だから気にしてないわ」

「ありがとう、えと、レイラ。私もユキカ、でいいです。至らない所が沢山ありますけど、よろしくお願いします」


 隣でお母さんが、やれやれ、といった表情で首を横に振っているけど、私は気にしない事にした。レイラとはきっと仲良くなれる。そう思ったから。


「どうやら納得してくれたみたいだな。それでな、ユキカ。レイラは家を追われた身だ。だからまだ披露宴もしていない。そこで、ユキカとの披露宴にレイラも参加させてやって欲しい。頼めないか? 衣装は用意してある」

「大丈夫よ。後で村長さんにも話を通しておくから。一緒に喜びを分かち合いましょう」


 女性の大切な門出だもの。みんなに祝福されたいと思うのは私も同じだものね。


「ありがとう、ユキカ。レックが選ぶ女性なだけはあるわね。聡明だし、可愛いし♪」

「可愛い……レイラこそ、綺麗で、落ち着いてて、大人の女性の魅力に憧れます!」

「うふふ♪ ありがとう♪ そうだ! ワタシの知らないレックの話、聞かせてくれない? ワタシも貴女の知らないレックの事聞かせてあげるから」

「いいですね! それなら、私の部屋で話しましょう。レックが冷や汗かきそうですから♪」


 ちらっ、と見ると、レックは苦笑しながら手を振って促してくれる。

 むふふ~♪ 色々聞いちゃうんだからね♪


◆◆◆


 打ち解けた様子の2人を見送って、ユキカの部屋の扉が閉められたのを音で確認してから、俺はエリザさんに向き直った。


「貴方の事たから、妻の2、3人くらい問題にはならないでしょうけど、まさか魔族の女性を連れてくるとは思わなかったわ。でも、話はそれだけではないのよね? 態々ユキカを離したのだし。レイラさんと打ち合わせてたの?」


 流石にエリザさんはお見通しか。


「打ち合わせまでは。ですが、紹介した時に言った通り、元フェラウノス商会の支配人ですからね。そのくらいは難なくこなせるでしょう」

「何と言うか、とんでもない人を連れてきた……彼女が元支配人という事は、フェラウノス商会って……」

「そうです。魔族側の諜報組織です。もっとも、魔族なのは主だった幹部連中だけですが。それより、本題に入りましょうか」


 頭痛を堪えるような仕草をしているエリザさんに、復帰するように促す。すみませんね、お義母さん。手土産が厄介事目一杯で。


「話というのは、自分とユキカの能力ちからである"治療術"についてです」

「治療術の?」

「ええ。"治療術"というのは、この能力本来の名前ではありません。この能力の本来の名前は"純魔法"。世界を管理する六柱神が人々に与えた属性魔法、その基となったもので、創造神エクスアシュアの御力です」

「創造神の、御力……?」

「そうです。それは無から有を生み出す能力ちから。知ってますか? 世界が生まれる前、そこは時間も空間もない全くの無でした。そこに時間と空間を生み出し、世界を形作ったのがエクスアシュアであり、その源が純魔法です」

「そんな能力ちからが貴方やあの子に……?」


 にわかには信じられないだろう。自分の娘やその夫に、世界すら創造出来る能力ちからが宿っているなどと。見掛けは只の森民であり人間だしな。


「勿論、思い描いたら即、ポンっと何かを創造しつくり出せる訳ではないです。創造するつくるには相応の知識が必要です。例えば、人の身体。骨を芯にして肉を纏い皮が覆う。そのくらいは大抵の者は知っています。なら、その骨や肉や皮はどうやって出来ているのか? 人に因って姿形が違うのは何故か? どうして男女が交われば子供が出来るのか? そこまで分かる程の知識がないと、人の身体は創造出来つくれません。だから、その知識のある自分には身体の欠損を治せても、その知識のないユキカには治せない。世界を創造しようとすれば、その中の全ての物や者の知識が必要になり、それを持っている者こそが創造神エクスアシュアという事です」

「……」


 エリザさんは絶句している。理解が追い付かないのだろうな。まあ、当然か。それに、本題はそこではない。


「治療術の正体については朧気ながらでも分かってもらえたからと思います。それを踏まえた上で、この能力にはある大きな問題があります。それが理由で、レイラの求婚を断り続け、ユキカを弟子に勧誘したのです」

「問題?」

「一つは、純魔法に習熟すればする程、無意識の内に発動させてしまい、周囲を改変させてしまうのです。俺が旅を続ける理由です。レイラは一つ屋根の下、仲睦まじく暮らす事を望んでいました。自分に好意を寄せてくれている女性に叶わない夢を抱かせ続けるのは酷だと思い拒否してきました」


 一旦目を閉じ、そして開いてエリザさんを見る。


「そしてもう一つ。無から有を生み出せるように、有を無に帰する事も出来る。もしユキカが何か強い感情でそう望んで能力を使った場合、世界すら無に帰してしまう事になる。だから俺は、ユキカに純魔法を治療術として教える事で破壊的な事には使えないのだと刷り込み、それ以上習熟させない事で周りへの影響が出ない程度に抑えさせた訳です。ユキカが治療士として一人前になったら、俺はユキカから離れるつもりでした」

「なる程……今の言葉からすると、ユキカもレイラさんも、最初は受け入れるつもりはなかったと思うのだけれど、その意思を翻したのは何故?」

「レイラに関しては、先日リバイドの街で起こった事件の際に、拒否している理由を聞かれてこの事を話しました。そして、自分の夢を捨ててでも俺に付いてくると言われ、拒否する理由がなくなったからです。ユキカは、ペゼットの件の時にローリアが純魔法について洩らした為、ユキカが治療術に疑念を持ってしまいました。ならば、取り返しが付かなくなる前に俺が傍で支えようと思ったからです」

「ペゼットの事は本当に遺憾だったけれど、そのお蔭でユキカが想いを遂げられた訳ね。娘の幸せに繋がった事を喜んでしまうのは不謹慎かしら?」

「自分も数多くの家族というものを見てきましたが、まともな家族は皆そうでしたよ。何も恥じ入る事はないです」

「そう……ありがとう、レック。ユキカをよろしくね」

「えぇ。前にも言いましたが、俺の全てを掛けてユキカを、そしてレイラを守ります」


 俺の言葉を聞いて、満足そうに頷くエリザさん。と、エリザさんの顔にいたずらっぽい笑みが浮かぶ。


「ねぇ、レック。もし、ユキカとレイラさんとで生命いのちの選択を迫られたらどうするの?」


 ユキカを娶った時に俺が口にした言葉。2人目を連れてきた俺にささやかな意趣返しという訳か。


「簡単な話です。両方共守ります。それが出来るのが純魔法なので」


 俺の答えに呆気に取られた表情のエリザさん。それも数瞬、満足そうな笑みに満たされた。


「貴方をユキカの夫にと選んだ私の人を見る目もまだまだ捨てたものじゃなかったという事ね」

「貴女がその言葉を翻さないですむように努力します」

「えぇ。頼むわね、レック。私とレベンスの、世界で一番の息子……」

「はい、お義母さん」


 その時、ユキカの部屋の扉が開く音が聞こえた。少しすると2人が姿を現した。


「ねぇ、あなた」「ねぇねぇ、レック」

「「これ、似合ってる?」」


 2人はさっきまでとは違う服を着ていた。ユキカはゴシック調の黒い衣装、レイラは白いワンピース。レイラは下着も黒だが、透けてないという事は下着まで交換したのだろう。

 白く長い髪に黒い衣装で、落ち着いた大人の雰囲気とミステリアスさを醸し出しているユキカ。

 黒い長髪に清楚な白いワンピースで、何処かの貴族のお嬢様のような雰囲気のレイラ。

 どちらもよく似合っていて新鮮な感じだ。


「よく似合っていて綺麗だぞ、2人共。新鮮な感じでとてもいいな」

「「えへへへへ♪」」


 互いに嬉しそうに笑みを交わし会う2人。どうやら仲良くやってくれそうだ。

 俺は2人を抱き締めると、お互いの頬を触れ合わせる。柔らかくて温かい感触。背中からお義母さんの温かい視線を感じる。


「ねぇ、あなた。今度レイラと街へ買い物に行く約束をしたの。いいかしら?」

「ああ、勿論。なら、後で軍資金を渡そう。レイラ、ユキカは街に行き慣れていないからよく見てやってくれ」

「モチロン♪ ワタシに任せて♪」


 レイラがいれば変な輩に絡まれても問題ないし、ぼったくられもしないしな。もっとも、ユキカだって大人に混じって狩りをしていたくらいだ。そうそう遅れは取らないとは思うが。


「それじゃ、俺は村を一回りしてから往診の準備をするよ」

「ねぇ、あなた。今度の患者さんは竜族なのよね? ここから一月ひとつきで行って帰ってって出来るの?」


 一般人からすると、竜族は北か南の竜族領に住んでいるイメージになるから、そう思うのも無理ないか。


「ここから歩いて2週間くらいの所にシリウス山という火山があってな。そこに住んでいる炎竜が俺の患者なんだよ」

「シリウス山? あれ? どこかで聞いたような……」


 俺の話を聞いたレイラが眉を寄せて何かを考え始めた。


「どうしたレイラ?」

「うん。何かの報告でその名前を聞いた覚えがあるんたけど、何だったかな……?」

「レイラに報告が上がっているという事は、それなりに重要な情報という事だな。思い出したら教えてくれ。俺は村を回ってくるよ」

「分かったわレック。頑張ってね」

「それじゃ、行ってくる」


 俺がそう言うと、2人は顔を見合せ、微笑み合ってから言った。


「「いってらっしゃい、あなた♪」」


◇◇◇


「「よいしょ! よいしょ! よいしょ!」」


 レックが村の回診に行っている間、私とレイラは私の部屋の模様替えをしていた。

 私の部屋の家具を一旦退けて、レックの部屋からベッドを運び込んで、私のベッドの横に並べる。

 このままだと下のマットに隙間が出来てベッドの境目で上手く寝られない。

 だから、2つのマットの片側の側面だけ切って縫い合わせて1つの大きなマットにしてしまう。

 大きな籠を持ってきて、マットの中身をそこに出す。この地方では、ある木の皮をよく干して縦に裂いたものをマットの中に入れてある。

 中身のなくなったマットの布袋の横を切り、2つの袋を縫い合わせていく。

 その繋いだ部分に裏から当て布をして縫い付けて、更に丈夫にする。

 だって、ここの上で一番激しく動くもの♡ いやん♡


「レイラ、大きな商会の支配人だったのに、すごく針仕事上手なんだね!」

「たくさん練習したわよ。女の嗜みでしょ。レックの服を繕ったりしたかったしね。ユキカもそうじゃない?」

「うん! 私も同じ! 頑張ってよかった!」

「うふふ♪ ワタシも頑張ってよかったわ!」


 マットの布袋を繋ぎ合わせたら中身を入れ直す。大きくなった分、少し足りないかな? 確か倉庫に入れ替え用の分があるから、少し足してしっかりと詰め込む。


「出来た! 2人でやったから、早かったね♪」

「ええ♪ これで3人で寝られるわ♪ うふふ♪」


 後は、私の机をレックの部屋に運んで、あちらを仕事部屋、こちらを寝室にすれば模様替えは終わり。

 レック、早く帰って来ないかな?

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