1-14 色即/8272 5373


「天竺と言える国広しといえど、その北西に大夏という地に王朝があったと伝えられています。そのころの国は大夏より遥か西方から大遠征を行った、歴山レキザン大王の遺民である希臘ギリシアの国人達が建国した国なのですが、その王の中に弥蘭陀ミランダという王がいたとされます。彼は優れた哲人であり、仏教の僧伽そうぎゃ達へよく質問を投げかけて悩ませたとか。

 ある時ミランダは、また新たな比丘のもとを尋ねます。長老とも言えよう高僧と挨拶を交わすと、ミランダは高僧へ名を尋ねる。彼は自らを那先ナセンと名乗ります。其の後に彼は『然れど』と正し置きをし、言葉を続けました。

 

『然れどそれはあくまでも名称・呼称・通称・概念・記号であり、そこに』と」



「そこなんだ。本当に自分ってえ存在が実体がないのだとしたら、オレやお前は何なんだ」



「ミランダも同じ疑問を持ち、

『ナセンよ。もしお前に実体がないのだとしたら誰が衣食住を寄進し、誰がそれによって修行を行なっているのだ。もしこの場にてお前を殺したとしてもそれは殺生ではなく、お前に高僧の地位はなく、お前の師も弟子も、聖職叙任を行う者もおらぬこととなる。

 然れどお前が自身をナセンと名乗るならば、そのナセンとは一体何者であり、何物であるのだ。その身体がナセンではないのか』


 と尋ねました。ナセンは否、と答え、

『爪や歯や肉、骨、心臓、脳髄。それはナセンには非ず』と。


『では見たり感じたりする認識作用、意識こそがナセンなのか』

『若しくはそれらの総体が、若しくはそれら以外の何物かが、ナセンなのだというのか?』


 ミランダの其の問いの悉くに比丘ナセンは首を横に振る。全く要領を得ないナセンの回答に王は頭を抱え、

『それではもうどこにもナセンなるものを発見できないであろう。お前は虚言を吐いて私を揶揄からかっているのか』と批判します。


 すると突然ナセンはこう問いました。

『王よ、貴方はこの暑気の中、熱い地を踏みつけ徒歩でお尋ねになったのか』


 事実としてミランダは

『否。馬に牽かせた車によって訪れた』

と答える。それを聞くとナセンは更にこう聞く。


『愚僧より王に尋ねたいのだが、貴方の云う馬車とは何だ。馬が馬車なのか。手綱が馬車なのか。車輪が馬車なのか? 車軸、車室、車台。ながえくびきムチ。その何れかや、馬車を形成するそれらを集めた個別の総体、それら以外の何物かが馬車なのか?』


 ミランダは何れも馬車には非ずと答えます。するとナセンは呵呵呵カカカと笑って、意趣返しの如くこうミランダを問いただしました。

『それではもうどこにも馬車なるものを発見できないではありませぬか。貴方は虚言を吐いて愚僧を揶揄っていらっしゃるのですな』とね」



「......なんだってんだ、馬車は、馬でなし、手綱でなし、車輪でなし。総ての部品をかき集めようと、それらがバラバラに分解されていれば馬車にはならないし、何か一つ欠けても馬車としてのカタチはなさない。それら総てによって馬車というなんたらができるのであって、そこに馬車という実体があるわけじゃあねえ、それはナセンというなんたらにも同じことが言える............そういうワケかよ」


「スクネ、やはりあなたは賢明な人なのですね。素晴らしい。ミランダ王も其の結論に至りいたく感嘆し、後に仏門に帰依したとも伝えられています」


「そのブツモンだかブッキョーだとかいうものがなんだかわからねえが、お前みたいな巫女が聞くことなら神様に近えコトなのか」


「また異なる事柄ですね。わたしが寄る辺とするは天津神の道であり、言うなれば御宇宙みそらの教えをむ道。仏教は天竺にて興りし、人業を超越した者による教えなのです。何れにも長き歴史が在り、そうですね......神の道は世界の理なのですが、人の理を知るには少し大層すぎる嫌いがあるので、哲学体系としてその教えが取り入れられているところはあります」


「ああそう、おまえの話はオレには理解できんことねえが難しすぎてな...... ふあぁ、バカらしくてよく眠れそうだよ。よくそんな長ったらしい話覚えてられんな、外部記憶か?」


「いえ、全部あらかたは覚えておりますので。こういう話大好きなんですよ。逆に夜も眠れないぐらいね」


「そうか、オレには一生わからん世間だな......」

 膝を抱えて座るスクネは、眠たげに、物憂げに俯いた。




「いたぞ。二人とも」


「貴方たちは保護されている身だ、勝手に観察圏外に出られては困る」

 アラヤとヤマテラスの声が後ろから響き、その姿が後ろに立っていた。


「ごめんなさい。少し...... 静かなところで話したくて」


「そうか。なら、大人しくしていてくれ...... これはケナからの頼みでもあってな」

 アラヤの瞳はそう心底懇願するようなものだった。耳の裏を押さえ、虚空の言葉を聞く彼は今、ケナと通話しているのだろう。今思えば彼らの言外に示した慌てようは、この国に起こる騒乱の幕開けが近いことを感じ取っていたことによるものだったのだろう。わたしと、スクネ。二人がそれに巻き込まれていくのだと、知ってか、知らずか......。


 その時のわたしは、彼の心配を軽く跳ね除け、スクネと寝室へ引き下がるのだった。




「で? 奴らが取引したものというのは......?」


『分からん』


「分からんだと?! 手がかりがある訳じゃないのか」


『......副長官が極右に渡したもの...... それは剣だ』


「武器か」


『ただの武器じゃない。彼らはそれを亡国の名を冠するものだと喋っていた。ただその銘が重要なのではなく、それが剣であることが重要なのだとも』


「いや剣なのだったら、それはただの武器だろう」


『......奴にとってはな。だがそれが護国の防人、己こそが神の尖兵なのだと、強く信じている者にとってはどうだ。その銘こそが神の振るう宝剣を指すものだとしたら?』


「......何故そんなものを、イヨと共に取引に出したんだ。もしカラタケが靑鰉国に再び返り咲くことが目的であり、そのために必要なのがその『剣』だったとして、その見返りがシンロウと......鏡? 確かに全くその品の何を取引したか具体的なことが見えない」


『もし剣が神器なら、鏡もまた同じだろうな。ただそれが鏡であることに意味はなく、その意味は鏡が持つ力、意義、情報.....?』


「その肝心の鏡と副長官とシンロウの乗っているであろう車輌は追えているのかよ」


『露と消えてイヅモの国外へと出ていっただろうよ。残りの外れ籤二台は捕らえられたというのに。だがそれは確かに、あの時港町から逃げ出した貨物車と同じ型だった。』


「ならば先ずは剣の行方から洗おう。今夜の交渉の机上になかったのならば、どこかで既に引き渡されているのかも知れない、そうは思わないか。例えばヨミの港の商団支所に保管してあったとか。あそこからは武器が押収されている。国外へ流されていった、その中にあるのかも知れない』


『いや...... 奴らは本当に、国外に集結し武装を固めているのか?』



「アラヤ! 話が長いぞ」

 

 話し込むアラヤに、総髪の女が柄にもなく慌てて声をかける。

「ヤマテラス、すまない。まだ......こんな遅くだというのにケナとの話が纏まらないんだ」


「そんなことはどうでもいい、またあの二人を見なかったか」


「お前、二人を寝間まで送り届けたろう」


「そのはずが...... いないんだ! 忽然と姿を消してしまった!!」




>記: 壹與乃語語語語語語語語語語語語語


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[Failsafe detected, If you find the scapegoat router is overheating, disconnect from interface as soon as possible]



......

「[indistinct]」


「感度不良」


「[indistinct]......れでどうだ」


「宜い。その小僧は」


「彼の妹を媒介に絡新婦ジョロウグモを動かした。ケナは......彼やカラタケを手掛かりに徐々にお前に近づきつつある」


「ああ。寧ろ...... 私の介入に気付いていない筈もなかろう。......あの取引現場にいたのが誰かという類推など容易い」


「お前ならば、彼をどう扱う。案を提げてみせよ」


「また同じように海に捨てろと言いたいところではあるが、最早争乱を起こるものとした以上靑鰉に用はない。君の身体を捜し求められる前に、真体の下へ迎かえ。そいつを生き餌に時間を稼ぐんだ」


「なるほど。佳い、許そう。だが指導者がいなくなった以上、我が元に衛士と剣はあらわれるのか」


「天之尾羽張を掲げ政転を達成できることに比ぶれば、カラタケの不在など些事だ。彼らは何によって動かされているのかも、何者を護っているのかも、何のはらわたに潜り込むのかも知る由もない」


「そうか。哀れとは思わんのか」


「むしろ光栄に思ってもらいたいものだがな」


「ふん」

[disconnected]

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