またあおう

 馨は美里の腕を強く握って自分たちの部屋のドアを開けた。ここではいわゆる平屋の部屋が居住空間だった。空調が管理する場所から一歩外へ出れば、安全はAIの警備ロボットが管理しているので人間でも撃たれる可能性がゼロではない。

「私は、美咲のことが好きよ、最後の友達。あなたにも幸せになって欲しい。私は恭輔が好き、はじめはお互いの体が目当てだった、好奇心もあったし、処女のまま死んでしまうのは、嫌だったから。でも、今は違うわ。恭輔のいない人生なんて考えられないとまで思えた。美里は? 遥の気持ちを知っているはずよ」

「わたし……は……」

「さあ、私はここまでよ。私もいつまでも一緒にいられないの。三日後にRISPA-09に出撃命令、レッドメールが来たのよ。分かるでしょ、美里もそのうち……」

「ありがとう、行ってくるわ。すぐに帰るけれども鍵はちゃんと掛けてね。来たのね、レッドメール、なぜ先に言ってくれなかったの」

「それは、あとで。早く!! 急いで」


 美里は振り向く事さえ許されずに、背中を押された。ゲートの向こうは男性が居住する空間でその間は外への長い渡り廊下だった。

 ゲートを飛び越えた遥はスマホのタイマーを見ていた。AIが関知して警告をしてくる、五分過ぎれば捕縛される。逆に考えれば五分は誤作動が起こったというふうに処理される。ちょっとした優しさ。

 遥はとても穏やかな笑みを浮かべていた。

「月が三つもあるとはなあ、明るいから、地球がどこだかもわかんないな。でもよく見ろよ。あれだ」

 彼の指が示した延長線上にあるのは、私たちが生まれ育った星、地球なのだろうか。突然聞かされた馨の出撃の知らせに私は混乱していた。もう何がなんだか分からない。

「あれが?」

「ああ、小さいね」

「美里、あと五分もないけど、聞いてくれるか。俺は明日出撃する。今まで言えなかった。何も言わずに行くことを考えたけど、それもおかしいだろう。これ、もらってくれないか。地球で買った、好きな人ができたら渡そうと思ってな」

「私に? わたしは遥の為になにもできないわ。もらえない」

 二人も私の周りからいなくなる恐怖しか先に立たないと美里はうろたえて、遥の事を考える余裕などなかった。



「RISPA-09で待っている。美里が来るまで俺は待っているからな。愛している、美里だけを」射貫くようなまなざしが美里を捉えた。

 美里の手にはムーンストーンがちりばめられたネックレスが残された。



 翌朝、遥は銀色の機影と共に消えた。

 美里はネックレスを握り締めていつまでも立ち尽くしていた。

 私も愛している、すぐに行くわ。

 美里のスマホにもレッドメールが届いていた。シンクロが一日遅れただけだ。同じ行くなら最期まで一緒が良かった。運命はこんなにも残酷なものかと思ったが、先に行くもの、これから行くものみんな同じ運命を辿るはず。

「ずっと好きだった、もっと早く言えばよかったね。でもきっと会える、この宇宙の霧になればあなたと一緒になれるわよね」


               了

 

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星は降るんじゃない、そこにあるんだ 樹 亜希 (いつき あき) @takoyan

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