夜に駆ける

 本来、夜間はIMO では外出禁止だった。

 研究者や国連機構の大人たち、いわゆる自分たちよりも年齢がはるかに上の軍人などは、レーザーガンやライトサーベルなどを携帯していたから自由に出歩くことが可能だが、それ以外の人たちは丸腰なので夜間外出をすることは危険と隣り合わせだった。そこまで厳密にしなければ、逆に外、他の惑星からの生命体からの攻撃がないという保証も逆に考えればないという保証もどこにもないからだった。

 だが、惑星探査という名目で惑星に出る若者は怪我などをしてはならないので、夜は勉強したり、筋トレなどをする事が義務となっていた。そこで、完全に男女が分けられていたので、カップルになっても自由に会うことは昼間しかない。その時間も年齢に応じて普通に勉強の時間があったり、大半は銃器やシップの操縦や迎撃のシミュレーションに充てられていた。

 スマホの通話時間も制限が掛けられて、時間が過ぎればロックが掛かる仕組みだった。


「美里、今すぐ外へ出られるか」

「無理よ」

「少しだけなら、遠出しないから」

 遥からの着信は短いものだった。美里は外出禁止を破れば重いペナルティーが科せられる事を知っていた。地球にいる家族への莫大な報酬や、環境の良いところに住める権利の剥奪などが明記されている事を承知しているはずだ。

「遥、明日の朝に話しましょう。もしも見つかれば……」

「今日は地球が見えるんだ、一緒に見るのはこれで最後。ラストチャンスだと思う」

「ダメよ、ゲートのAIがしっかりと監視してドローンで録画されて処罰されてしまうわ」

 美里はこれ以上話すのは無駄だと思い、スマホを切ろうとした。

 隣でそれを聞いていた馨がスマホを取り上げた。

「ゲートまで行けばいいのね。分かった!」

 馨は黒田先輩のことで夕食をとらなかった美里のことを心配していた。みんなにとって毎日殉死するメンバーの事は人ごとではなかったからだ。閉ざしている心を少しでも溶かせるようにと美里のことを思いやってのことだった。

「急ぎなさい、彼となら大丈夫。AIもドローンもたかが機械じゃないの。妨害電波を流せば少しくらい時間稼ぎはできるはずよ。二人だけの夜を、思い出を作ることは罪じゃない。特にあなたたちは」

「でも……。もう、時間はないのよ。明日かも、もしくはその次には宇宙のどこかへ行かなければならない。私たちは未来への礎なの。今を大事に、そら、早く行けって!!」

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