第9話 生贄の祭壇

 学校は暫く休みになってた。

その間に色々調べてみようと話を聞いたけど、結局余り得るものは無く。

もがいただけで後はただの日常だった


そして再び、あの教室へ戻ってきた。

「おはよう。」

「..お早う」

普段挨拶してこない井上恭香が声を掛けてきた、余程不安なんだろうか。

「なんだよお前生きてたのか?

偶々にしちゃ奇跡だな。」

お前は何で生かされてんだよイセシン

そこが疑問だよ私は。


「おはよう大崎さん。体調は大丈夫?

まだ全員来てないけど、何もなさそうで良かった。」

..誰の心配をしてんのよ。

最近までヤバかったの笛吹くんのほうでしょ、無理して気丈に振る舞って。

「ありがとう、笛吹くん。」


「みんな、無事か..!?」

「退院出来たんだ、全員!」

アイツら、北井の友達。

..昏睡していた人たちは皆無事そうね

「他来てないのは?」

「私はキョーカがいればいいよー♪」

「アンタには聞いてないよ..」


「……」

不思議だ。ここに居る連中は既に、大半の死んだクラスメイトの事を受け入れてる。..葬式なんてやっぱり、表面だけの形作りに過ぎないんだ。

「あれー?

あの女来てねぇなぁ〜。」


「あの女?」

「ソイツと一緒にいた女だよ!」

粗暴な人差し指が、乱雑に陽奈を指す

「..あれ、そういえばいないわね」

「私あのコ苦手〜!」

注目の集中する的は、多くの目に晒され判断を辞めた思考停止の地蔵共に一斉に卑下される対象となる。

「‥大崎さん、冴島さんは..」


「大丈夫だから!」

「..あん?」

私は敢えて高らかと言った。

確証なんかないけれど、断言してやる


「ベロニカが侵入する恐れを警戒してるのなら心配は無い。..瑠夏だけは絶対に有り得ない、保証する。」


「保証するだぁ?

んなもん信用できるか!」

言うと思ったイセシン、わかってるよ

「皆もある筈だよ?

警戒させる理由がそれぞれ。」

笛吹くんに聞いてまわって貰った過去をここで回収する、さぁ聞かせてみろ

「瑠夏の話は相当重い」


「冴島さんを一方的に攻めるのは良くない、平等にするという意味でも話しておこうよ。自分の事を」

笛吹くんナイスアシスト、さぁ話せ。

これで一通りの警戒心は解ける。


「私は幼馴染が死んでる、橋から川へ身投げして。突然自殺した」


「ちょっと待て話すのかよ!?」

「これから疑われるのしんどいもん」

懸命な判断よバイト女。

..ていうか思ったより悲惨ね、アイツ


「僕は愛犬が、四肢を裂かれて死んだ

誰かの仕業だと思っていたけど内側から裂けられた痕跡があるらしい。不可解過ぎるよ、今だに忘れられない」

私の両親と同様に不変な死に様。

やっぱり死に至る身近な存在は、不自然な行動を取り続けていたみたい。


「俺たちは多分、北井だと思う。」

「うん、一番仲良かったし..」

北井を要因として敢えて残された、殺さなかったのは何か意味があるのかも


「アンタはどうなのよ?」

バイト女が向かう先は似た者の先、類は友を呼ぶってホントだね。

「..俺は妹だ。」

「随分素直に白状したわね」

「言うまで聞いてくんだろどうせ」

妹思いのヤンキーか、それで良い人気取っても私は好きにならないよ?


「轢かれたんだよ、電車にな。

必死こいて止めたのに、ヘラヘラ笑って潰れやがった。」


「止めた?」

「イカれたんだよ、周りと同じで。

〝ヒーローになるんだ〟って言って家飛び出して、線路に飛び込んだ」

慌てて追いかけて追い着く頃には線路に立って、そのまま直ぐに電車に轢かれた。別れの言葉も何も無しに。

「妹は高校生で、歳もたいして変わらなかったが少しガキっぽくてな。朝にやってるヒーローものが好きだったんだ、名前は確か..」


「爆走戦士ギロップ。」

「..なんだ、お前知ってるのか?」

「弟が好きでよく見てるんだ。」

まさか笛吹くんが答えるとは、弟が好きって口実じゃないよね?

「俺は本来そんなに悪くねぇ、むしろ金髪のヤンキーなんて大嫌いだ」

嘘つけお前、本望だろそれ。

「笛吹、俺のカッコ見てわからねぇか

何か気付いたりしねぇか?」


「…あ、主人公。」

「わかってるじゃねぇか、このカッコは妹が好きだったヒーローものの主人公と同じカッコ。俺は妹を忘れねぇように妹が好きなやつと同じカッコをするって決めたんだ。」


「……。」ダサっ!

「アンタ、思ったより良いやつだね」

嘘でしょ?ヤンキーマジック?

「伊勢くん、君は生きなきゃいけない

爆走していこう、稲妻の如く!」


「ゼイジャッー!」

何それ、決めセリフ的なやつ?

〝ゼイジャー〟ってなにさ。

「なんかキモーイ、私もお兄ちゃん死んでるけど病気だしー。」

一人マトモな奴がいた!

..コイツお兄さん死んでるんだ。


「みんな同じなんだ、境遇も状況も。

疑うより今は助け合うべきだ」


「まぁ、そういう事だな。」

「一応委員長に今は賛成かな」

「じゃあ私もサンセー!」

すごいな、ちゃんと纏め上げた。

瑠夏の疑いを晴らすだけじゃなくて威厳まで発揮するとは、やるわね。


「俺たちも協力したい。

北井が死んだってだけじゃ悲し過ぎる原因つきとめて、終わりにしたい」


「篠宮くん..当たり前だ。

一緒に頑張ろう、飯島くんも力を貸してくれるね?」

人がどんどん笛吹くんに集まっていくクラス中..っていっても元の半数だけど、それでも中心になってる。


「他の皆んなも力を貸してくれ!」

「おお!」

「ええ、やるわ!」「当たり前だ!」

他の人名前わかんないけど、でもわかる。笛吹くんスゴイ!


「愉快ねぇ..随分と、一致団結?

美しい、これが..青春なのかしら。」


「え..?」

それは、突然の禍々しさだった。


「..飯島?

どうしたんだよ、なんだその喋り..」

床が赤く染まる。

近くには、かつて〝篠宮だったもの〟が真っ二つで横たわっている。


「あ、あ..お前ぇっ...!」


「お久し振りね、メガネ君。」

飯島の衣を脱ぎ捨て体外に姿を現す

紫の長い髪に、怪しい笑み。

私は、女が名を名乗る前に一目見てそれが何者か理解できた。


「ベロニカ..!」

「あら、知ってくれているのね。

..ま〝当然〟かしらね」

確実に初めて遭うのだが、何処かで会った事のある気がした。散々周囲に話を聞かされたからだろうか、独特の異様さにも何も違和感を感じない。


「何しに出てきやがったテメェッ!」

「直ぐにわかるわ、聞いた通りよ」

荒げ響く声を軽く一蹴し辺りを見渡す

「僕達を殺す気か..⁉︎

この中の、誰か一人を!」


「そういえばそんな約束したわね。

..だけどごめんなさい、あれ嘘なの」

教卓の名簿を開き、読み始めた。

先程篠宮を両断したであろう鋭い形状となりしなる髪の毛の一束が、鞭のように音を立てて教室の床を叩く。

「出席番号1番 相島耕助!」


「は、はい!」

「良い返事ね、サヨウナラ」


「え?」

疑問は血飛沫に変わり、答えを示した

「2番、安形良明」

「おい..」

「声が小さいわよ?」「ぎゃっ!」

束ねた髪は留まらず人を刻む。


「何やってんだよっ!」

「8番、遠藤卓流」

「あ..あぁ...!」「返事しなさい」

殺戮は次々と連鎖する。


「9番、榎木 祐仁

11、置倉 省吾 13、尾後 淳」

「やめろ..」


「海塚勝利、工藤啓介、近道一真」

「やめろ..!」


「逆木大和、酒味商事、須藤愛理」

「やめろっ!

もういいからやめてくれベロニカ!」

「無駄よ、眼鏡くん。

元々こうする為に生かしておいたの、死ぬ為だけのエキストラなのよ。」

死の劇団を旗上げすれば、決定権は座長にあり。たかが団員が物語を捻じ曲げる事など出来る訳が無い。


「やる事が惨過ぎだ、あり得ねぇ」


「だったらなんで何もしないのよ!

..足がすくんで動けないっての?」


「お前だって同じだろ、みんな怖ぇ。

わかっちゃいるが身体が全く動かねぇんだ、あの女の仕業かよ..!」

慄く精神が頑なに身体を動かそうとしない。誰一人として一歩たりとも踏みしめる勇気を持てる者がいない。


「嫌だ!あんな風になりたくない!」

「隅田さん!」

教室に転がる死体の山を見て、廊下へ出ようと扉を開けた。ここにいる誰よりも勇気あるよ、あの女。


「何処にいくつもり?

..人に背中なんて向けて、不用心な」


「隅田さん逃げて!」

「あっ..」

「何処にも行かせないよ?

出席番号22番、隅田 麗奈。」

背中に空いた小さな穴は、細い体を八つ裂きにして真っ赤に染め上げた。


「隅田、さん...。」

「..もしかして思い人だった?

残念、もう世界から消えちゃった」

彼女は止まらなかった。

当たり前だ、架空の存在に限界などない。留まる事などある訳が無い。

「瀬戸清、相田幸之助」

「やめろよぉ..なんで殺すんだよ..!」

「叫んでも無駄よ?

誰にも声は届かない、武波正義。」

「ぎゃっ!」


「..届いてるよ?」「え?」

最後の断末魔に混じり、一瞬声が聞こえた気がした。気のせいだと思わざるを得ない程、小さくか細い声で。


「‥何か用かしら?

私の声がちゃんと聞こえてるのね。」


「聞こえない訳無い、絶対に聞こえないといけない声だもん。」


「お前..」「遅れ過ぎじゃない?」

一斉に皆が疑っていた影が、嘘では無い事を自ら証明しに現れた。

「お姉ちゃんを殺した人の声だよ?

ワタシが聞こえないフリすると思う」


「瑠夏..。」

駆け寄り突き立てたナイフが元凶である女の腹を射抜き貫いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る